平井美帆のレビュー一覧
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第二次世界大戦後の満州…暴徒化した満人やソ連兵から開拓団を守る使命を課せられた若き女性たち…その身を捧げる「接待」と言えば聞こえはいいが、性の捌け口、もっとわかりやすく言えば彼女たちを生け贄のように差し出し、強姦・レイプさせていた過去があった…。引き揚げ帰国した彼女たちは、同じ日本人からも「棄民」として蔑まれ、その身にも心にも受けた傷を癒すことができないでいた…そんな彼女たちを取材したノンフィクション。
この作品いつか読もうと思っていた作品です。終戦から79年です。この作品が刊行されたのが2年前、証言してくれた女性はもう90歳を越えていますよね…。もう、すでに亡くなられている方も多い中、 -
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中国残留孤児のノンフィクションがとても良かったため、同じ著者の本を読んでみた。
著者は中国残留孤児の取材をする中でソ連兵への性接待を知るに至り、この一冊にまとめあげた。
戦争という非常時に略奪、強姦はつきものとはいえ、味方であるはずの日本人男性が自分達が助かりたいがために進んで女性を接待に差し出していたというのは驚愕である。
少数の犠牲で多数を守るためという大義名分があったのかもしれないが、守られた男達は接待した女性に感謝するどころか、帰国してからは汚れた女と言いふらした。更に、ある女性に対してはロシア人のことが好きで積極的に接待に行っていたと言いふらしていたというから信じられない。
その -
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山崎豊子先生の「大地の子」を読んでから中国残留孤児について深く知りたいと思って手に取った一冊。
中国残留孤児に縁のない著者が本書を執筆するきっかけになったのは、金沢東京間で起きた夜行バスの交通事故。
運転手は残留孤児2世の男性で、激務により睡眠不足が続いていたのに業務を引き受け、事故を起こしてしまう。7名死亡、10名以上の重症者を出した本事件はあまりに凄惨で、また若い犠牲者が多かったことから、より被疑者への非難は強かった。
残留孤児2世という特殊な属性をもつ被疑者、その育った環境、労働環境に関心を持った著者は残留孤児のコミュニティに参加して徐々に信頼関係を築いていく。
国家による満州移住計 -
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昔、満州からの引き揚げ体験談に、そういった仕事をしていたとされる女性たちが、自ら申し出てソ連兵の求めに応じてくれたから、自分たちは日本に帰ることができたと書いてあった。あれは、本当に、自らだったのだろうか。そう申し出ざるをえない状況にあったのではないか。この本を読むと、そんなことを考えてしまう。どれだけの女性がつらい思いをしたのか。しかも、満州にいた時だけではなく、日本に帰ってからも、揶揄され、差別され、つらい思いは続いたのだ。
戦時性暴力のことを読むたび、「戦争は怖い」「戦争は人を変えてしまう」と思ってしまうけれど、その根底にあるものは平常時から醸成されている、とこの本は言おうとしている。 -
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きついな。厳しい。
何事もミクロとマクロがあるが、特に戦争について言えば、ミクロは悲惨以外の何もない。
弱いものからの目は、なおさらだ。
大陸の人間が大概獣みたいなもんだが、その時の、この判断が、本当にそれしかなかったのかどうかは、後で考えれば価値が変わってくるものだからそれだけで責める気はあまりないが、当然、今後にも備えて検証する必要はある。
しかし、あまりにも「男ども」の、クズっぷりが際立つ。
その場ではなくて、その後だ。
臭いものには一生蓋をする。それが、だめだ。
減るものじゃなしとか、喜んでたみたいな、気の遠くなるような外道な台詞。
だがそれは、そうしないと自分達も壊れてしまうからな -
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敗戦直後の満州で起きた女性たちへの性暴力。終戦から80年近い年月が経とうとしている2022年の現在、被害者となった女性の肉声を収めることができる最後のタイミミングだったのではないでしょうか。
戦争を賛美してはいけない理由が何かと問われたら、その答えはここにあると思います。もちろん、答えはひとつだけでなくて、たくさんの理由がありそれぞれに優劣はなく、戦争反対の大きな理由の一つです。
彼女たちの悲劇の記憶。ただ自分の胸の内にひた隠しにしてきた人生というものに想像はできないし、安易に同情し理解したつもりになってはいけない。それでも、記録として残しておかないと、歴史から消えてしまう。安易な同情をす -
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もうひとつの「戦争は女の顔をしていない」だと思った。
第二次大戦敗戦直後の満洲。
タイトルからは、ソ連の蛮行(戦争犯罪)が連想される。もちろんそれも酷いが、メインではない。
本書で最も断罪されるべき存在は、自分達のコミュニティを守るため、ソ連兵に若い未婚の女性を差し出し「接待」させた日本の男たちだ。
衝撃的な内容に、男として考えさせられることが多い。
男性こそ読むべき本だ。
「戦争で男は無力になっちゃう。女は男の人の食い物にされる」ー接待に差し出されたある女性の言葉だ。
結局、戦争の大義は、個人の人格を犠牲にして成り立つ。どんなに綺麗事を言っても、それが真実だ。
やはり、戦争は人間の -
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『生きている間に読むべき本』というものがこの世にはあると思う 本著もそのうちの1冊だと感じる
第二次世界大戦で日本は敗れた
その時満州開拓団に起こった悲劇がノンフィクションで綴られている
集団自決や子殺しという 命の尊さを顧みることすらできない 戦争が引き起こす道徳感の及ばない状況…
開拓団を守るために…と『接待』という名でソ連兵に差し出された 未婚の若い女性の悲劇…
綴られるのは人間のおぞましさだが これを直視しなくては今後の世の平和追求はあり得ないと思う
『性欲』とは一体なんだろうと思う
男性の性欲を満たすために女性が差し出されるとは 絶対にあってはならない行為だ
死ぬほど辛い -
- カート
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試し読み
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滋賀・長浜で起きた幼児殺害事件の犯人である鄭永善。彼女は統合失調症を患い、いわば"二つの"顔を持つ。そんな"もう一人"の彼女が犯した、罪のない二人の幼児を殺害するというこのどうしようもなく重い罪、そしてそれによってもたらされた悲劇を、それを取り巻く人々、そして何より鄭永善と彼女の病を描くことであぶり出していく。
中村うさぎの書評を読んだことがきっかけで手にした本。統合失調症とはどんな病気か、薬で症状をどの程度抑えられるのか、そういった記述はこの本では特になく、鄭のありのままの姿が淡々と記される。病が進行した彼女は、もはや"元の"自分をほぼ完全に失ってしまったかのよう。もう一つの世界を生きる彼女 -
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従軍慰安婦については、強制連行と表現するのは適切でないというのが、日本政府の公式見解(閣議決定)になっています。
満州でも、婦女子は強制的に性の饗応者として差し出されたのではないと思います。
でも、当時の空気としてほぼ強制的な形で、ソ連兵の前にさし出された女性はいたものと思われます。
同じ空気を共有した、日本国民としての朝鮮国においても、同じように空気に強制された方はいたのだろうと推測されます。
そして、さらに、プーチンが戦場に駆り出した犯罪者集団によって、現在もウクライナで同じような、いや、犯罪としてのレイプ行為が行われているだろうというのは想像に難くありません。
自分の妻や子を守る気 -
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アイデンティティクライシス。
自分が何者か分からなくなる。在日コリアンの話で聞いた事がある言葉だったが、成人近くになるまで中国人として育てられ、日本語など覚えていたかも定かでない中で、日本人だと告げられる。中国では日本人として虐められ、日本では中国人として蔑まれる。人の繋がりも属す国家も揺らぎ、本当の親兄弟も分からず、しかも分かった所で、では何故見捨てたのかと疑心暗鬼。最悪な孤独だ。
山崎豊子の『大地の子』を読んだ時に、残留孤児の悲惨なドラマに触れた。女性差別も相俟って、強制的な結婚、身勝手な奉仕強要に身体を痛める。本著でも似たような生い立ちを窺わせる女性も登場するが、中には、子供のいない -
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「娘を殺して自分も死ぬ」・・無力感に苛まれ行きつく先。勿論、人の命を奪う権利などない。生きてこそ、その後の人生がある。語り継ぐこともできる・・満州で迎える終戦。集団自決を免れた黒川開拓団。それができた裏の事情。「接待」という的を得ない表現。尊厳を傷付けられた「犠牲者」たち。なかったことにはできない。陰がつきまとう。語ることのできない思いを慮っても行きつけない。それでも考え続けることが大切。平和への備え。選択肢のないその究極に至らぬよう、今何ができるのか。現在も異国で起きている出来事を前に頭をフル回転させる。
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本書に対して遺族会が抗議声明を出し -
- カート
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試し読み
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日本人男性と結婚した、統合失調症の中国人女性が起こした園児殺害事件のルポ。
統合失調症は、100人に1人の割合で発症するといわれている非常に一般的な精神疾患の一つである。
にもかかわらず、統合失調症に対する世間の偏見や差別は根強く、家族に病歴者がいるとそれは隠されがちであり、社会の正しい理解もサポート体制もほとんど整っていないというのが実情だ。
いま日本で統合失調症に罹患している人物が犯罪を犯した場合、責任能力が問題になり、犯行が明らかであったとしても、場合によっては無罪になることもある。
どの程度の刑を科すことができるのか、被害者家族の心情を考えた時、刑が軽減されることは果たして許される