牧原出のレビュー一覧
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約1000円で、これほどの知的厚みがある作品を読めるという、新書というメディアのありがたさに感謝する。牧原氏の名前は、オーラル・ヒストリー(野中広務)等で接したことがあったかもしれない。商学の教授、大学運営、議員、文相、最高裁長官、国際裁判所判事など驚くほどの広い領域に足跡を残す田中耕太郎という人物その人の凄まじいまでの能力もそうだが、その評伝をまとめることにも、どれだけの調査が必要かと考えると呆然とするほかない。
田中耕太郎は、商法分野の研究者を振り出しとし、東大法学部の経営、戦後の教育基本法への貢献、最高裁の安定確立、国際的な貢献まで精力的に成果を上げたようだ。特に、昭和初期、威勢を誇る右 -
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正直こんな人がいたのかと驚くと共に自分の無知を恥じた。中身は含蓄があってよかった。
田中は一高帝大で教養主義のもと法学に専心。商法の民放に対する独立性を確立する商法学者だった田中は、法の技術的側面(⇔倫理)から、普遍的自然法は技術的な法律を端緒として統一された世界法として各国内法に浸潤していくという見方を取った。
その後は東大法学部の重鎮として滝川事件から平賀粛学まで「大学の自治」維持に関わり、戦後は天皇周辺の同心会から天皇制の擁護、また文相や参院議員としてGHQと協力して教育改革(教職員適格審査/教育勅語廃止/教育権独立)を実行した。この中で憲法に自然法的観念を見出した。
最高裁長官とし -
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この書籍のすばらしさは「作動学」という観点から「改革学」の先を見据えていることです。改革する中身は注目を浴びがちですが、それがどう作動するかを予測して仕組みに織り込むという観点は改革をなじませる時間的猶予がなくなってきた現在では重要性を増しているという説得的な議論でした。政治史研究から来るすごみを感じさせてくれるすばらしい書籍です。
役人(官僚制)に「過度な」統制を掛けることが全ての失敗の原因だとよくわかります(「必要な」統制は当然掛けるべき)。全ての政治家は読むことをオススメします。あと行政改革が機能したり機能しなくなるのか不思議な方にも。 -
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2023年の「骨太方針」の中に、「三位一体の労働市場改革」が織り込まれた。それは、①リスキリングの促進②職務給の導入③円滑な労働移動の促進からなるものである。人的資本の開発は、いずれにしても悪いことはないのであるが、その他の「職務給の導入」「円滑な労働移動の促進」というのは、あまり意味の分からないものであったし、そもそも、それを行なえば、労働市場にとって、ひいては日本という国にとってどういう良いことが起こるかの説明が不十分(というか、ほとんどない)であること、これらは「賃上げ」のために行われるとの説明がなされているが、「職務給の導入」「円滑な労働移動の促進」がどのように賃上げに結びつくのかのメ
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わずか3年前の話なのに、もうすっかり記憶があいまいになっているが、当時マスコミで報道されていた内容と、尾身氏がここで語っている内容がずいぶん違う気がする。こうして後から振り返ってみれば日本政府も分科会もうまくハンドリングできたように見える。
ただいくつか重要な点への反省が欠けている。日本は島国なのだから初動で重要なのは入境管理なのだが、目先のインバウンド需要に目がくらんで春節で大量の中国人を受け入れ、あっという間に日本中にウイルスを広めてしまった。4月の入国制限は判断が遅すぎる。また元来日本の防疫は明治期からの結核対策がベースとなっている。結核のように濃厚接触でしか感染が広がらないのならクラス -
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ネタバレ本書は、国民が政権を選択する「政権交代」の時代において、円滑かつ安定的な日本政治の条件等を戦後の55年体制の歴史から検証するもの。起承転結のストーリーが明確でないため要点を掴みにくく、セオリー化のためか若干大括りに過ぎるのと、中立的視点からは構造改革(特に竹中)に傾いているきらいが感じられました。
【自民党長期政権時代】
<佐藤栄作>
・複数官房長官制(官房長官・副長官に加え、宮澤経企庁長官:経済政策・外交)
・内閣官僚の組織化(厚生省から官房副長官&首席内閣参事官:環境庁設置の環境行政)
<小泉純一郎>
・官邸主導(官房型官僚>原局型官僚、竹中経済財政大臣)
・官僚制内ネットワークの駆 -
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2012年12月から2020年9月まで7年8カ月程度続いた第二次安倍政権期間中、自民党は選挙に勝ち続け、安倍元首相は、自民党内で総裁選を勝ち続けた。また、政権のガバナンス、特に官僚との関係で官邸の人事権を強化する等、他党に対して、自民党内で、また官僚に対して、安倍内閣は、「一強」の状態にあったと言えよう。本書は、その理由を、経緯を含めた探ったものである。
私は、やはり、選挙に強かったことが一番の原因だと考える。選挙に勝ち続けることにより、自民党内で強い求心力を持ち続けることが出来たこと、また、国会内で多数を握ることにより、自らの政策実行を進めることが出来たこと(ただし、「アベノミクス」を見て分 -
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本書は田中耕太郎の評伝であるが、田中耕太郎という名前を聞くと、商法学者としてよりも「反動」と批判された最高裁長官時代をどうしても連想してしまっていたが、今回本書を読んで、田中の東大教授、占領下での文部大臣、参議院議員の歴任、そして最高裁判所長官や国際司法裁判所裁判官といった経歴を歩んだこと、すなわち憲法上の三権、立法、行政、司法のすべてに属した戦後まれな経歴の人物であることをまずもって知った。
本書において著者は、田中が「制度の独立」ということに重きを置き、それを守るためには闘うことを厭わなかったと言い、田中の生涯とその具体的活動を追っていく。
このような新書という読みやすい形でなけれ -
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本書は、日本政治は少しずつ成熟に向かっているという現状認識の下、第2次安倍政権発足以降の「安倍一強」とも呼ばれる状況がなぜ生じているのかについて、一度与党であった自民党が野党になり、再び与党になったというプロセスを経て、安倍自民党政権が政権交代のサイクルを先導している点を理由として指摘する。また、民進党には、政権交代のサイクルの先を行く自民党から学ぶべきは学んで、強い野党となり、政権交代のサイクルをより円滑にし、日本政治の基盤を強めるようエールを送っている。
本書は、各章ごとに、「問い」を設定し、それに答えていくという構成になっている。ただ、正直、最初に設定された問いの答えがすっきりわかるよう