Posted by ブクログ
2020年01月03日
ヒップホップの暗黒期…といっていいのか、フリースタイルダンジョンでヒップホップが盛り上がる前の、UMBとかでフリースタイルが爆発している頃の、裏の歴史の証言といったところだと思う。
この2003年以降、ドラゴンアッシュやキックザカンクルーがだんだんと勢いを失ったのかどうかはわからないけれども、全...続きを読む盛期は過ぎつつあって、ではその次に誰が続くんだといっても誰もおらず、アンダーグラウンド化したヒップホップにおいて、いったい何が問題であったのか、この本がはっきりと示している。それは、暴力的な会社運営によって、次々とヒップホップに夢を持った人がつぶされていく環境がそこにあったということだろう。暴力的な社長、ノルマ、そして先輩。ヒップホップのためにどれだけ働いても、無給。音楽活動をどれだけしても、会社に吸い込まれていく。正直、まともな労働環境ではない。パワハラが横行し、D.Oぐらいの忍耐力がない人でないと、まるで搾取されて、骨の髄まで搾り取られ、はたまた借金まで背負わされて、闇へと消えるか、もう二度とこんな業界で仕事はしたくないと去っていく。
それが、ずっと書かれている。なので、当時の、レジェンドとされる人々のあとに続こうとした人がどんなしんどさの中にあったかを、示している、非常に貴重な証言だと思う。あと、先輩からの暴力事件のときに、唯一D.Oを守ろうと身体を張ったのがUZIだったのが、少し感動的だった。P159の「暴力に屈さず、ヒップホップを信じた」によくあらわれている。
面白いとか、おかしいとか、いろいろ楽しいところはあるのだが、それは彼の文体や、彼の生きざまが面白いのであって、業界の話としてはまったく面白くもなんともなく、たぶんダンジョンがおわって景気が悪くなれば、また暴力が横行して、アーティストがみんな離れていくのかもしれないと思う。(同じことはヒップホップドリームでも漢がたいへんなパワハラ・無給・自腹を受けていたことが書かれている)
あとP115で、ファレル・ウィリアムスが、DJケオリとジブラを知っていたのは面白かった。
それから、ニューヨークで草を吸うために、クラブで売人に先払いすると、そのまま逃げられてたところ。
「あれ? これってまさかのあれ? 勉強代のヤツ? ホントに?」
そいつは見つからず、僕たちはカモられたことを認識した。きっと、僕らみたいな旅行気分の浮かれた日本人はカモなんだろう。
「なんだよ、黒人。そういう系かよ。だったら、こっちも話変わってくるよ。俺やっちゃうから見てて。関係ねぇから。日本人ナメたらハンパじゃないことわからせたいアーイ」
完全に戦闘モードになった。次に騙されそうなバイブスを感じたら、マジでそいつをぶっ飛ばそうと思った。
この「次に騙されそうなバイブス」のワードにめちゃ笑った。
それから、P95で。
【ヒップホップがあれば、暴走族にも極道にもなる必要はない。これが僕の根っこだと思った】
もめ事をダンスで解決する、ダンスバトルに惚れる場面も貴重な証言だ。(P55)
あと、やっぱり自業自得というか、ある程度責任のある立場になったら、へたこいたらダメだということは、知って欲しい。特に最後のあたり、二回目の逮捕は、迷惑かけすぎって話。