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梅雨の夜、残業帰りの沈梔意(ちん・しい)は、市立病院からの緊急献血要請を目にする。
AB型Rhマイナス――希少な血液型を持つ彼女は、土砂降りの中、迷わず病院へ駆けつけた。
その直後、両親からかかってきたのは、いつもの結婚の催促。
うんざりしながら受け流していたその会話を、偶然、池硯舟(ち・けんしゅう)に聞かれてしまう。
グループの新社長。
端正で冷静、仕事では容赦がないと噂される男。
彼は壁にもたれ、淡々と言った。
「僕と結婚しよう」
彼女は彼の祖父を救った。
彼は彼女のために、“夫役”を引き受ける。
会社では赤の他人。
両親の前では仲のいい夫婦。
家では、ただの同居人。
期限つきの偽装結婚。
そのはずだった。
けれど、会食で彼女が無理に酒を飲まされそうになったとき、池硯舟は薬指の指輪をゆっくりと回し、冷ややかに相手を見据えた。
「どういうつもりだ。うちの人間に手を出すとは」
そしてある日、会社の会議室で、二人の秘密は思わぬ形で暴かれる。
大型スクリーンに映し出されたのは、沈梔意が親友へ送った、社長への愚痴。
静まり返る会議室。
池硯舟は少しも慌てず、ただひと言。
「夫婦のじゃれ合いです」
契約から始まった関係は、やがて少しずつ、軌道を外れていく。
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