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ミドル級のB級ボクサー・米澤重隆は年齢制限による引退が迫っていた。現役を続けたるためにはチャンピオンになるしかなく、無謀な挑戦を始める。リミットはたった9か月。予想に反して次々と勝利を収めて東洋太平洋ランカーになると、誰もが奇跡を期待し始めた。強いパンチもスピードもない。愚直にボディを打つしかないのに、その拳から目が離せない。熱すぎるノンフィクションが待望の文庫化!
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Posted by ブクログ
壮絶!いくら遅咲きのプロボクサーって言ったって、そんなに過酷な生活を送らなくてはいけないのか?徹夜で仕事、その後にハードなトレーニング、休む間もなく仕事…。そんな生活をしながらも人生をかけた大一番。感動なくしては読めません。映像が見たい!
本書の主人公は36歳にして、特に目立った戦績も持たないミドル級ボクサー米澤重隆。ボクシングジムに通いながら、仕事はコールセンターの設備管理で夜勤が中心、一人暮らし。そんな彼はキャリアの崖っぷちにいました。当時、日本ではチャンピオンでなければボクサーの健康上の配慮から37歳で引退しなければならず、米澤...続きを読むは36歳3か月になろうとしていました。9か月以内にチャンピオンになるには、上位ランカーとの試合を2~3試合勝ち続け、そしてチャンピオンを倒さなければなりません。 彼が、自分よりも強い相手に挑み続け、それもダメージの回復を考えれば普通ではありえないスケジュールで試合をこなし、1回でも負ければ次の試合はまずありえない、そんな状況に挑み続ける姿を本書は追い続けます。 ボクシングエリートでは決してない米澤。ひたむきにボクシングに向き合う時もあれば、突如スパーリングで全く気持ちの入らない姿を見せ、決まっていた試合を自ら「キャンセルして欲しい」と言い出したり…。さらに持病の腰痛を悪化させるアクシデントにも遭遇。そんな紆余曲折を経て、彼は3試合を戦い抜き、ついにミドル級世界10位の相手との試合を手繰り寄せます。ミドル級は世界的に群雄割拠の熾烈な階級。そこでの世界10位は米澤からすれば、とんでもない相手。しかし自らのキャリアを延ばすには勝つしかない。試合会場は相手のホーム。判定勝ちはありえず、勝つにはKOを狙うのみ。果たして、この無謀な挑戦はどのような幕切れを迎えるのか…。 スポーツノンフィクションの対象として、イチロー氏や、井上尚弥氏みたいに突き抜けた存在を描いた作品は当然興味深いですが、本書の様にスポーツエリートではない選手が、愚直に競技や自分の人生と向き合う様子を描いた作品は、より感情移入ができて引き込まれる気がします。恐怖、達観など、私自身も日常で感じるような後ろ向きな感情から、時には目を背けたり、浸りきって落ち込んだり、人間の弱さを見せる様子が描かれているからこそ、それを振り切ってリングで相手と向き合う様子、最後の世界ランカーとの試合の様子に心が震えるような読後感を感じました。 ボクシングの知識がなくても十分に、この”無謀”とも思える9か月の挑戦の世界に浸ることができると思います。第52回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品です。
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山本草介
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