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衝撃の実話! おすすめノンフィクション漫画11選

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世間の耳目を集めた事件から個人的な体験まで、事実をありのままに綴ったノンフィクション漫画。絵で描かれる漫画だからこそ、その場でいったい何が起こったのかが、分かりやすく伝わってきます。今回は、事実に作者ならではの解釈や創作を加えた作品まで含めて幅広くこのジャンルを捉え、社会派のあなたにおすすめのノンフィクション漫画11作を紹介します!

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目次

考えさせられる社会派ノンフィクション系漫画5選

『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』

『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』

完結『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』 全1巻 いしいさや / 講談社

新興宗教信者の子の苦悩を赤裸々に描く

「わたしのお母さんは 神様を信じてる」

新興宗教の信者である母親に大きな影響を受けて育った作者が、自らの体験をつづったのが本作です。

「よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話」コマ画像

新興宗教の信者の家に生まれた子供を「二世信者」と言うそうです。その子たちは自分の生き方を選べません。強制的に宗教活動に参加させられ、場合によっては、世間の常識とはかけ離れた価値観を植え付けられていくのです。本作の主人公・さやもその一人でした。

学校の友達を「世の子」と呼び、一緒に遊んだら悪い影響を受けると信じこまされたり、週に3日、何時間も続く「集会」に参加させられたり、「奉仕」と呼ばれる訪問勧誘に付き合わされたり、さやの毎日は周りの子供とはかけ離れたものになっていました。しかし、いつか「終わりの日」がやって来て、信者のみが「楽園」で暮らすことになるという教えをかたくなに信じている母には、決して逆らえません。ふと口から漏れてしまったグチを聞かれただけで、罰の鞭打ちが下されるのでした。

「よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話」のコマ画像2

誕生日やクリスマスを祝うことが禁じられているため、クラスの催しにも参加できないさや。校歌や国歌を歌うことは偶像崇拝に繋がり、これも禁止。さやが学校で浮いてしまうのは当然で、その原因がさや自身ではなく親の信仰だと思うと心が痛くなります。

「よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話」コマ画像3

しかし、母に従うだけだった小学生時代から、中学、高校と成長していくと、さやには冷静な判断ができるようになっていきます。ずっと「二世信者」として抑えつけられていた、自分の本当の気持ちを、さやは母親にぶつけることができるのでしょうか?

信仰の自由は個人の権利です。それは本来、親子であっても当てはまること。しかし、親は子供の幸せを願って信仰を押しつけてしまうというのが、このテーマの難しいところ。いわゆる毒親とは異なる親子関係の歪みは、考えさせられます。

『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』を試し読みする

『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』

『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』

『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』 1〜3巻 竜田一人 / 講談社

事故を起こした福島第一原発での仕事とは?

東日本大震災で大きな事故が起きた福島第一原発。震災後の2012年から作業員として働いた作者による、迫真のルポルタージュです。

週刊モーニングの新人賞であるMANGA OPENの大賞受賞をきっかけに、まずは読み切りとして雑誌に掲載された本作。福島第一原発で働く作者の一日を追った内容は、一つ一つの描写がリアルかつ詳細で、現場を知らない人間には決して描くことのできないものでした。雑誌が発売されると、たちまち大反響。それを受けて雑誌連載が約1カ月後にスタートします。

『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』コマ画像

現場の人間も地元住民も福島第一原発のことは「1F(いちえふ)」と呼び、誰も「フクイチ」とは呼ばないという情報を、最初に読者に伝える作者。本作の意図は、メディアで報じられている「フクシマの現実」とは異なる、自らの体験をそのまま描くことでした。放射能によって汚染されている作業現場に入るまで、どれだけの装備とチェックが必要か、をまずは事細かに描いていきます。マスクは一旦付けてしまうと作業中に外すことはできないので、鼻がかゆくなってもかけないのが困るというのは、まさに作業員ならではの実感でしょう。

『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』コマ画像2

また、給料や宿舎といった待遇面の描写もリアル。作者が最初に雇われた会社は6次受けで、日給8千円の中から宿舎の家賃千円と弁当代が天引きされるという薄給でした。高線量の現場で被爆のリスクを回避しながら働く「前線」の仕事よりも、それを補佐する「安くてキツい仕事のほうがむしろ多い」と作者は描きます。

本作を貫いているのは、世間からは疎まれている福島第一原発で働くことの矜持です。同僚のベテラン作業員が言う

「俺たちはここをやっつげるだけだっぺ」

というセリフに象徴されるように、いつか完全に廃炉する日を信じて彼らは淡々と働きます。だからこそ、「休憩所で冷たい水が飲めるのは東電社員だけ」というような現場の実情から離れた情報を、作者は即座に否定するのです。

デビューしてからは、漫画家と作業員の掛け持ちを続けてきた作者。第3巻の終盤、2014年の秋に1Fを去り、本作は一旦終了となります。しかし現在でも多くの作業員が廃炉作業に従事中。福島第一原発のリアルを知れる、貴重な作品です。

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『酔うと化け物になる父がつらい』

『酔うと化け物になる父がつらい』

完結『酔うと化け物になる父がつらい』 全1巻 菊池真理子 / 秋田書店

酒浸りの父との同居生活が作者の心を蝕んでいく

菊池先生の家族の姿を、赤裸々に描いたエッセイコミック。父親の泥酔ぶりと、子供への接し方が本当にひどくて、胸が締めつけられる作品です。

小さな会社を経営する父は外で飲んで帰宅することが多く、二日に一日は泥酔していました。飲酒運転も頻繁で、事故を起こして車を炎上させたことも。また週末には父の友人が家に上がり込んで、酒を飲みながらの徹夜マージャン。子供の頃の菊池先生は、日曜日に家族だけで外出したことがなかったといいます。

父にとっての母は「召使い」であり「酔った時の介護人」。妻として愛されることのない母は宗教に救いをもとめますが、それでも孤独は癒やされず、菊池先生が中学2年生の時に自殺してしまいます。母がいなくなった後は、菊池先生と妹が父の世話をすることに。後に年老いた父が癌に冒されるまで、長く苦痛に満ちた同居生活が続いていきます。

子供にとって親の影響は絶大です。酔って暴力をふるう父と暮らしてきた菊池先生は、なんと酒を飲まないマジメな男性を退屈に感じ、父とよく似た酒飲みで暴力的な男と付き合い始めることに。また、親に愛されてこなかった自分は幸せになる価値はないと、自らを追いつめていく姿には切なくなります。

本書は親子関係に悩む多くの読者に支持されました。菊池先生はその後、歪んだ親子関係の中で大人になっていった人達を取材し、『毒親サバイバル』を著しています。

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『「子供を殺してください」という親たち』

『「子供を殺してください」という親たち』

『「子供を殺してください」という親たち』 1~3巻 原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ/新潮社

親子関係が壊れていく7つの事例が学べる

自分の息子が、庭で全裸になりバットを振っていたら、あなたはどう対処しますか? そこにあるのは心の問題。どんなに行動が奇異に映ったとしても、彼は深刻な思いを抱えているのです。

本作の主人公・押川剛は、精神科医療とのつながりを必要としながら、適切な対応がとられていない子供たちを、親からの依頼によって医療につなげるトキワ精神保健事務所の所長。モデルは原作者の押川剛先生その人で、実体験に基づいて物語が構成されています。

最初に紹介されるのは、全裸バットの荒井慎介さん(仮名)21歳のケース。弁護士の両親に育てられ、将来を期待されますが、大学の法学部受験に失敗してしまったことから、突然、歌手になると言って金髪に染めたり、飼い猫を虐待死させたりと、言動が不安定になっていきます。やがて、押川の説得によって入院。両親は慎介が自宅からいなくなってくれたことに胸をなで下ろします。

「子供を殺してくれませんか……」

「子供が死んでくれたら……」

「子供が事故にでもあってくれたら……」

依頼を受けた親たちから、何度もそういう言葉を聞いてきたと押川は言います。心を病んだ子供によって、荒廃する日常。しかし、それは間違った子育ての結果であることを親たちは忘れていると、押川は指摘するのでした。

現在3巻までで7ケース紹介される「壊れてしまった親子関係」は、どれもが実際にあったこと。子供の立場から読んでも親の立場から読んでも、肉親との誤った接し方を教えてもらえる作品です。

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『殺人犯の正体』

『殺人犯の正体』

完結『殺人犯の正体』 全1巻 鍋島雅治・岩田和久 / 電書バト

日本で起こった9つの猟奇殺人を毒々しい描写でまとめた

日本で実際に起こった殺人事件を紹介するノンフィクション漫画です。古くは大正時代から、昭和、平成にかけての9つの事件を紹介。タイトル通り、犯人の素性にフォーカスし、幼少期の人格形成から、いかにして殺人に至り逮捕されたのかまでを克明に描いていきます。

本作に登場する犯罪者は、殺人鬼と呼んでもいい猟奇的な存在と、複雑な事情を抱えたゆえに殺人に至ってしまった、同情の余地のある存在に大きく分けることができます。前者の代表例は「愛犬家殺人事件」の犯人。ペットショップであこぎな商売をし、クレームを付けてくる客を殺しては死体をバラバラに。その手口は慣れたもので、肉と骨を完全に分けて山に廃棄し、証拠をほぼ残さないのです。そんな死体処理法を犯人は

「ボディを透明にする」

と呼んでいました。

後者の代表例は「尊属殺人事件」の犯人。娘が実の父親を絞め殺すという陰惨な事件でしたが、そこに至るまでには長い間続いた父の性的暴力がありました。なんと犯人である娘は、父の子供を何人も産まされていたのです。

1冊に9編が収録されているので、どの事件も深く掘り下げられているわけではありません。それでも、なぜ人間はこのような非道の行いができるのかという恐怖がじわじわとこみ上げてきます。ところがラストの「鬼熊事件」だけは、殺人事件ではあるのですが、展開がどこかユーモラス。それまでの8つの事件の毒々しい描写で高まった胸くそ悪さが、少しだけ軽くなる、不思議な読後感でした。

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人間ドラマを描くノンフィクション系漫画6選

『かくかくしかじか』

『かくかくしかじか』

完結『かくかくしかじか』 全5巻 東村アキコ / 集英社

熱血漢で人情家の恩師との思い出を綴る自伝的作品

漫画家になるために、美大を目指すことにした高校生の林明子は、同じ美大志望の友達に教えられ、自宅からバスで1時間以上も離れた絵画教室に通うことに。そこで出会ったのが、教師であり、画家の日高健三でした。その教え方は超スパルタ。明子が持参したデッサンを

「全然下手クソで──す」

と一刀両断し、同じ石膏像を何回も何十回も描け、とにかく描けと命令するのでした。

そんな厳しい先生と、明子は、初めて教室を訪れた日から8年も付き合うことになります。本作は、東村アキコ先生の自伝的作品。高校生から美大生、そしてプロの漫画家になっても続いた地元・宮崎に住む恩師との日々を、約20年後の現在から振り返ったものです。

明子はマジメな教え子とは言いがたい存在でした。せっかく入学した美大では、制作をさぼりまくり、漫画家になりたいという本心を打ち明けることができず、あくまで画家志望と思い込んでいる日高先生に、引け目を感じる日々。先生もかたくな人なので、明子が漫画家としてデビューした後も、行く末は画家になるものと信じてやみません。

「あの頃の私は本当にバカで うぬぼれ屋で 生意気で 自分勝手で わがままで」

と、当時を振り返って書く東村先生。大好きな日高先生の思いに応えることができなかった後悔が、さまざまなシーンから感じられて、それが涙を誘います。ダメだった頃の自分を、ずっと鼓舞し続けてくれた先生とは、今はもう会うことができないのです。

「描け」と言い続けた日高先生。シンプルだからこそ心に響くその言葉は、画家や漫画家を目指す全ての人に送られたメッセージでもあります。

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『聖(さとし)-天才・羽生が恐れた男-』

『聖(さとし)-天才・羽生が恐れた男-』

完結『聖(さとし)-天才・羽生が恐れた男-』 全9巻 山本おさむ / 小学館

夭折した天才棋士の人生をドラマチックに描く

羽生善治と並び称されながら、29歳の若さでこの世を去った天才棋士・村山聖の生涯を、丹念に追った作品です。村山さんの棋士としての成長と病との闘いを間近で見つめ続けた師匠・森伸雄七段(現在は引退)が監修を担当。ベテラン漫画家の山本おさむ先生が、熱のこもった筆致でその人生を描き出します。

5歳の時、腎臓の難病ネフローゼを患い、以来学校に通えずに入院生活を続けていた聖。病棟には、同じように難病を患った子供達がベッドを並べ、中には死んでしまう子も。そんな死と隣り合わせの少年時代に、聖に生きる希望を与えてくれたのが将棋でした。

外出許可をもらっては将棋大会に出場し続けた聖は、中学に入学するとプロ棋士の森信雄に弟子入りし、プロへの登竜門となる「関西奨励会」入りを果たします。師匠のアパートに下宿して、将棋漬けの日々。連戦連勝の快進撃ぶりから、いつの間にか「怪童丸」と呼ばれるようになり、二年十ヶ月という早さでプロ入りを果たしたのでした。聖の将棋の特徴は終盤の強さ。奨励会時代に、ベテランのプロ棋士も気づかなかった逆転の一手を見つけ出し、「終盤は村山に訊け!!」と称えられるようになっていきます。

しかし、聖は常に万全の状態で戦えたわけではありませんでした。本来なら入院しなければいけない体調でも、無理を押して対局に向かい、治るかもしれない病気はどんどん重くなっていきます。自分には将棋しかない。対局の時の鬼気迫る表情は、息をのむ迫力で描かれています。

そして、聖の最大のライバルとなるのが、あの天才・羽生善治さんです。子供の頃に出会っていたという、本作オリジナルのエピソードから始まり、奨励会時代もプロ入りしてからも、常にお互いの存在を意識し合っていました。そんな二人が初対局を果たす第6巻は中盤のクライマックスです。

本作は厳密に言えば、実話を元に山本先生なりの人物解釈やオリジナルのエピソードを加えたフィクション。聖を見守る両親の姿は涙なしでは読めませんし、幼なじみとの淡い恋愛のドラマもあり、聖の人間としての魅力がより伝わってきます。

『聖(さとし)-天才・羽生が恐れた男-』を試し読みする

『夜回り先生』

『夜回り先生』

完結『夜回り先生』 全9巻 水谷修・土田世紀 / 小学館

子供たちの心の叫びが迫真のタッチで描かれる

かつて、神奈川県の定時制高校で教師をしながら夜の街を歩き、心の闇をかかえる子供たちに声をかけてきた水谷修先生。その体験をまとめた著書『夜回り先生』は刊行当時、大きな話題を集めました。本作は水谷先生の著書を、『編集王』『同じ月を見ている』の土田世紀先生が漫画化した作品です。

まず最初に描かれるのは、水谷先生の苦い経験です。母子家庭で、しかも病気がちな母親を、小学生時代から支えて生きてきたマサシ。同級生のいじめから守ってくれた、近所に住む暴走族の青年と仲良くなったことから、成長すると族に加わりシンナーを吸い始めます。水谷先生はマサシに親身に接して、信頼を得ていきますが、たった一度彼を拒絶したことによって、マサシを自死に追い込んでしまうのでした。

そんな苦い記憶を胸に秘め、それでも子供たちの心に触れようと、夜回りを続ける水谷先生。暴走族を抜けることができない少年、援助交際にはまっていく少女、親からの暴力や、学校でのいじめに苦しむ子供など、一人一人の心に寄り添っていく姿が描かれていきます。

特筆すべきは土田先生の画力と演出力です。子供たちの過酷な体験と、それを救おうとあがく水谷先生の姿を淡々と描きつつ、それぞれの登場人物の心の叫びがどのコマからも漏れ聞こえてくるような迫力あるタッチ。「夜回り先生」を漫画化するのに、これほど最適な描き手はいないと納得させられます。

全9巻の後には、特別編「さよならが、いえなくて」も収録。覚醒剤に冒された女子高生ジュンが、水谷先生との電話や手紙のやり取りを通して、薬物中毒から脱していく壮絶な体験を描いたエピソードです。

『夜回り先生』を試し読みする

『裁判長! ぼくの弟懲役4年でどうすか』

『裁判長! ぼくの弟懲役4年でどうすか』

完結『裁判長! ぼくの弟懲役4年でどうすか』 全1巻 松橋犬輔・北尾トロ / ノース・スターズ・ピクチャーズ

弟への実刑判決を望む兄。覚悟の裁判傍聴記

刑事被告人となった弟の裁判を、漫画家である兄が描く。松橋犬輔先生の並々ならぬ覚悟によって著されたのが本作です。

もともと松橋先生は、北尾トロ先生のルポルタージュ『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』の漫画版を描く仕事をされていました。作品はヒットし、「傍聴マニア09」というタイトルでドラマ化も決定(しかも主演は向井理さん)。そんな矢先に飛び込んできたのが、弟が警察に逮捕されたという知らせでした。

弟の容疑は「児童福祉法違反」。携帯サイトを使って中高生の女の子をスカウトし、売春クラブに紹介して報酬を得ていたという疑いでした。被害者の数は約100人! しかし、松橋先生が留置場に面会に行くと、弟はヘラヘラした態度で全く罪悪感がない様子。犯罪の動機を尋ねると、「おもしろかったから?」という他人事みたいな答えが返ってきました。松橋先生は、そんな弟を宇宙人の姿に描き、「まったく心が通じない…!」と嘆きます。そして始まる裁判。全八回の公判の模様が、詳細に描かれていきます。

今まで多くの裁判の模様を漫画化してきた松橋先生。しかし、身内の裁判を描くことは、それまでとは心の負担、緊張感が全く違いました。特に母親が証人として出廷した時の、息子としての申し訳なさ。松橋先生は母子家庭で育った三兄弟の長男。苦労して育ててくれた母が、犯罪者となった弟の前に立って証言をする光景は、どれほどの重みを持ったでしょう。本作の中で何度も涙を流す松橋先生。しかし、弟の反省する姿はついぞ描かれません。松橋先生は、そんな弟に実刑判決を望むようになっていきます。

「この作品に、単なる実録ものを越える凄みがあるのは、兄弟間の深い溝が底に横たわっているからに違いない」

と、あとがきで書く北尾トロ先生。裁判ルポを越え、家族問題を扱った作品として読み応えがあります。

『裁判長! ぼくの弟懲役4年でどうすか』を試し読みする

『東京都北区赤羽』

東京都北区赤羽

完結『東京都北区赤羽』 全8巻 清野とおる / 双葉社

個性的すぎる登場人物たちは全てあの街に実在していた

何気ない日常にも驚きがたくさんあることを教えてくれるのが、清野とおる先生の漫画。松岡茉優さんと伊藤沙莉さんの主演でドラマ化された『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(ドラマ版のタイトルは「その「おこだわり」、私にもくれよ!!」)もオススメですが、登場人物のインパクトという意味では、本作が上を行きます。

板橋の実家を離れ、赤羽で一人暮らしを始めた作者。子供の頃から慣れ親しんだ街ではありましたが、大人の視点で改めて観察すると、そこは魅力的な人間たちがごろごろいるワンダーランドでした。最初に赤羽の洗礼を受けるのは、後に常連客となる居酒屋「ちから」です。店に入ると、マスターは客席で寝転がって爆睡。壁には、「焼ムーミン」、「3連ド〜ン」など謎のメニューが並ぶ品書きが。しかし、「何もかもヒドイけど何故かまた行きたくなる」と作者はニヤリ。この突撃精神によって、どんどん謎めいた店が開拓され、奇妙な赤羽の住人たちと出会っていきます。

多彩な登場人物の中で最もインパクトがあるのは、女性ホームレスにしてアーティストのペイティさんでしょう。

「ペイティ♬ ペイティ♬」

と歌う自作曲が録音されたカセットテープを販売したり、奇妙なダンスパフォーマンスや自主制作のオブジェを次々に披露してくれるペイティさん。その魅力に作者は完全に取り憑かれてしまいます。こんな人が駅前で歌っているのが、赤羽という街なのです。

「ちから」のマスターやペイティさんだけでなく、登場人物は全て実在。コマの中に挿入される作者撮影した写真。彼らの漫画とほぼ同じ姿形に驚かされるばかりです。全8巻では終わらず、続編『ウヒョ! 東京都北区赤羽』も刊行。また、本作を下敷きに、「山田孝之の東京都北区赤羽」という、これまた不思議なドキュメンタリー風ドラマもかつて放送されました。

『東京都北区赤羽』を試し読みする

『刑務所いたけど何か質問ある? マンガ『刑務所なう。&わず。』完全版【文春e-Books】』

『刑務所いたけど何か質問ある? マンガ『刑務所なう。&わず。』完全版【文春e-Books】』

完結『刑務所いたけど何か質問ある? マンガ『刑務所なう。&わず。』完全版【文春e-Books】』 全1巻 堀江貴文・西アズナブル / 文藝春秋

面会人が超豪華な服役ドキュメンタリー

2007年に、証券取引法違反により懲役2年6月の実刑判決を受けたホリエモンこと、堀江貴文さん。長野刑務所での日々を綴った著作『刑務所なう。』『刑務所なう。シーズン2』『刑務所わず』の3冊から、西アズナブル先生による漫画のページだけを抜き出して再編成したのが本作です。

基本的にコミカルな内容で、肩の力を抜いて読める作品。月曜と木曜の15分入浴と水曜にある短入浴を心待ちにしたり、刑務所式のラジオ体操や天突き体操、さらに腕立て部に入ってダイエットに励んだり、知人からのエロ本の差し入れや特別な日に配給されるお菓子に喜んだり、NHKの朝の連ドラを楽しみにしたり。ホリエモンが服役生活をポジティブに過ごす姿が描かれていきます。

目を引かれるのが、面会に訪れる人たちの顔ぶれです。ジャーナリストの津田大介さん、脳科学者の茂木健太郎さん、「朝生」の司会者・田原総一朗さん、GLAYのTERUさん、そして漫画家の福本伸行さんと、錚々たるメンバーが刑務所を訪問。さすがの人脈には舌を巻くばかりです。

もちろん、冬の厳しい寒さや眠れない夜に陥るネガティブ思考といった辛い一面も。その最たるものは、仮釈放が決まりながら出所日を知らされずに過ごす間の、自分は本当に自由になれるのかという疑念が膨れ上がる恐怖です。これは懲役刑の「最後の試練」なのだそうです。

経験者でなければ語ることのできない「塀の中」の様子。ぜひ参考に、というおすすめの仕方はできませんが、非常に興味深い1冊です。

『刑務所いたけど何か質問ある? マンガ『刑務所なう。&わず。』完全版【文春e-Books】』を試し読みする

最後に

楽しいことだけでなく、苦しいことも多い人生。過酷な体験や事件を描いたノンフィクション漫画は、苦しんでいるのは自分だけではないということを教えてくれる、読み応えのあるジャンルです。また、漫画を通して、法律や社会制度について学べるたり、困難に立ち向かい懸命に生きようとする登場人物の姿に心を揺さぶられるのも、このジャンルのいいところ。「生きる」ということについて考えたくなった時、ぜひ手に取ってみてください。

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