畑村先生の「わかる」技術は、モノづくりと密接に絡んでいるため、創造ということに直接つながっており、ビジネスへの応用がききやすい。特に、現地・現物・現人という三現主義は、ややもすると論理的な理解だけで、頭の中のテンプレートと事象を一致させ満足してしまう自分の欠点を明確にしてくれる。その意味で、要素摘出→構造化→試動、により、実践で使えるものが本当の理解であるというのは、この本の 自分にとっての大きな付加価値。
以下、重要な点だが、拾いすぎか。
はじめに
第1章 「わかる」とは何か
第2章 自分の活動の中に「わかる」をとりこむ
第3章 「わかる」の積極的活用
おわりに
はじめに
・「創造であれ失敗であれ、それをやる人間の頭の中の動きを知らなければ話にならないことに気づいてきました」
・「創造や失敗について考えるときには、まず事象をしっかりと理解することから始める必要があります。「しっかりと理解する」ためには、まずは「わかる」ということの仕組みをきちんと知っておく必要があるし、さらに「わかる」仕組みを積極的に利用することが創造したり失敗を扱う上で大きなプラスになることがわかってきたのです」
・「「わかる」ということを巡っては現在ふたつの大きな流れがあることが見えてきます。ひとつは「もっとわかりやすく」という欲求の高まりです。・・・もうひとつは「わかる」人に対する需要の高まりです」
・「まず「わかる・理解する」というときの頭の中の動きを直視し、そこで得られる知見を積極的に応用し、さらにそれを継続的に実行する、ということなのです」
第1章 「わかる」とは何か:「本当にわかる」ことがなぜ創造と結びつくのか、「わかる」を巡る教育のおかしさ、「わかりやすい」ことの落とし穴
・「すべての事象(事実・現象)は、いくつかの「要素」が絡み合う形で、ある「構造」をつくりだしています。・・・この構造同士を組み合わせると、・・・「全体構造」になり、何等かの働き「機能」を持ちます」
・「人の頭の中には、すでにその事象についてのモデル(要素と構造)インプットされています。ですからモデルどおりの事象を目の前にすると、人は瞬時にそれを「わかった」と感じることができます。・・・このとき無意識のうちに行っているのは、それまで自分gあ学習してきたものとの一致点の確認です。・・・自分なりの頭の中のテンプレート(型紙)のようなものと比較します。そして一致していることが見つかったときにそのことが「わかる」と感じ、一致していることが見つけられなかったときに「わからない」と判断しているのではないでしょう」
・「新しい事象に触れる場合は・・・目の前の事象にうまくマッチするテンプレートが頭の中にできていないので最初は「わからない」のです。こうした事象を前にしたとき、そのことに興味を持ったり、理解できないことに不満を感じた人は、目の前の事象を理解しようと検討を始めます。そして自分がすでに頭の中に持っている要素や構造を使って新しくテンプレートをつくることで理解しようとするのです。・・・(これは)静止した状態にあるものを対象にしています」
・「動的な現象を理解する(には)、構成要素の摘出、構造化・試動を通じてはじめてわかったと思います」
・「政治経済は、時代によって条件(要素)が大きく変わるということもあるので、「従来のモデルで理解できていたはずのものが、あるときまったくわからなくなる」ということもよく起こるのです」
・「(コンビニエンスストアは)常に現象を観察しており、うまく機能するようにモデルの作り直しを絶えず行っているから、売り上げが大きく落ちることはない」
・数学が教えている定義や定理のすべては、もともとは私たちの身近にある事象を見つめる中で導き出されたものです」
・「相手が「これは自分とは無関係なものである」と受け止めているのをそのまま放置しては教育になりません。エッセンスだけ教わるので、教えられる側にとっては、授業がつまらなくてわかりにくいというのは、数学に限らずどの分野にも共通する問題です」
・「余計なものを取り去ってシンプルにした分だけ、それを理解するために必要な新しいテンプレートがなかなかつくれない」
・「本来、言葉を学ぶときには、概念をきちんと押さえることが求められます。そのうえで、ほかの概念との結びつきでそれを立体的にとらえることができたときに、はじめて正確に理解できるようになるのではないでしょうか」
・「ある事象を理解するときには、「直観でわかる」のがひとつの理想的な姿だと私は考えています。・・・「直観でわかる」というのは、「飛躍思考」のことなのです」
・「経験主義者は、人より多くの経験をしたことがあるというだけで、対象がどういう要素を持ち、どういう構造になっているかまで意識して観察し理解しているわけではありません」
・「現実にはだいたい、たいていのことは10個程度の要素のつながりで成り立っています。・・・10個の要素のつながりを考える場合、そのものの論理性を考えている人は、「三番目と四番目、あるいは八番目と九番目のつながりが最も重要である」というような見方ができます。どこを重点的に見るべきかがわかっているから、同じ1024通りについて考えるにしても正確かつ速い判断ができるのです。・・・1024通りのうち、本当にうまくいく組み合わせはだいたい三通りくらいしかありません。これが経験則として言い伝えられている「千三つ」の意味です」
・「直感を使っても思考のショートカットはできますが、そこで導き出される答えには「論理的な根拠」がありません。・・・「刺激を受けて思い浮かべたもの」くらいの意味合いしかないのです」
・「ある事象について、その内容を深く検討することなく形式面から真偽を問うような論理展開を一般的には「形式論理」と呼んでいます。・・・「狭い世界での真実」にしか過ぎないものを、どんな分野にもでも当てはまるかのように扱ってしまう、というのが形式論理の持つ大きな問題点なのです」
・「新しく考えを構築するやり方にも二種類あります。ひとつが自分の力で新しいテンプレートを頭の中でつくりあげていく方法、もう一方が新しいテンプレートをひたすら頭の中に詰め込んでいく方法です」
・「現代社会で本当に必要とされていることは、与えられた課題を解決する「課題解決」ではなく、事象を観察して何が問題なのかを決める「課題設定」です。課題解決と課題設定の違いは、「HOW」と「WHAT」のちがいと言ってもいいでしょう。そしていまは何よりも「WHAT」が社会で必要とされる時代なのです」
・「理論を先に学ぶやり方では、本当の意味での理解に到達できないと私は思っています。それどころか、現物を見る前に知識として学ぶことで、その人は「自分はこのことについて確認するまでもなくすべて理解している」と錯覚する危険もあります」
第2章 自分の活動の中に「わかる」をとりこむ:「わかる」ためには日々の活動でどうすればよいか
・「いろいろなことが、「わかる」ようになるベースを頭の中につくるときには、むしろ暗記は必要不可欠だと考えています」(九九、2の累乗、ルート、漢字、英単語、百人一首、いろはがるた)
・「同時におすすめなのは、「数と親しむ」ということです」(10にする遊び、百マス計算)
・「自分の周りにあるものをきちんと観察して数として把握する「定量化」を行ってことも有効です。そのための小さな努力として、自分なりの物差しを持つことをあげたいと思います」
・「創造のために必要なのは、まず自分で体感することだということを述べていますが、その体感もさらに数字の裏付けがあると、より一層本人の頭の中にその出来事が強くインプットされ、なおかつ別の場面でも応用がきくものになるのではないかと考えています」
・「いろいろなことを体験したり学ぶことで自分の中に経験や知識を備えることは大事ですが、それ以上に大切なのは、自分で得た経験や知識を使って自分自身で新しい知見をつくれるようになることです」
・「仮説立証というのは、文字どおり、「この状況ではこういう考え方が使えるのではないか」という仮説を立てて、それを立証すべく実際に当てはめて試してみることを言います。論理だけでなく実践を伴うので、自分がよいと考えてものがそのシチュエーションで使えるか使えないかがはっきりわかるのが特徴です。このような試行錯誤を繰り返すことこそが、創造的な仕事をするための第一歩です。・・・試行錯誤の訓練を繰り返すうちに、正しい解法を選択するスピードもどんどん速くなります」
・「自分で立案をしない、課題を設定しないというのは、じつはリスクを伴う賭けを一切しないし、責任ある行動を放棄するというのとほぼ同義です」
・「根本的な解決をする場合は、いま目の前にある問題と同じような種類、同じような脈絡、同じような性質を持っている問題は、全部一体で解決すべき課題であると考えます」
第3章 「わかる」の積極的活用:「わかる」ということの具体的ノウハウ
・「多くの場合、こういう(なかなかうまく伝わらない)問題は、話を聞いている側にその事柄を理解するためのテンプレートがないことが原因で起こります。
・「聞き手は理解のためのテンプレートそのものは持っていなくても、理解の手がかりになる種は持っていることが多いのです」
・「結局、面白い話をする人は、話を通じて聞き手のテンプレートを豊かなものにしてゆける人なのです。・・・話してをうまくエスコートして、ゴチャゴチャの話をうまく構造化してテンプレートをつくる手伝いをしているのです」
・「図や絵を使うメリットは、一度に伝達できる情報量が圧倒的に多い点にあります。事実を事実として説明するには、やはり文章として表したものが持つ一般性は頼りになります。・・・つまりわかりやすく伝達することを考えると、どちらか一方に限定するのではなく、互いに補完し合うような形で使うのが理想だと考えています」
・「私がいつも絵を描くときにいちばん心がけるのは、伝えたい内容をどうやって強調するかということです」
・「現場に出かけていって、ものごとを観察する際、どんなことに心がけて観察すればよいか。自分が直接見ている部分にだけ注目するのではなく、関連するものとのリンクを見る視点、逆演算の思考。
・「自分が理解したことを人に伝えようとするとき、自分の理解ではまだまだ考えの抜けがあったことに気づくことがあります。自分が理解したことを記録に残すことも同じことで、記録することで考えの抜け、完全に理解できていなかったことに気づくこともあれば、さらに考えを深めることもできます」
・「創造とは日々の実際の活動の中からしか生まれない」