澤田瞳子のレビュー一覧

  • 龍華記
    平安時代末期、平家によって焼き討ちにあった南都(奈良)の興福寺の僧、範長の悔恨と覚醒の物語。平家が滅亡してからのストーリー(第4章〜)が良かった。[電子書籍]
    南都の僧の目を通した平家滅亡の様が新鮮でした。また、物語の最後の旧山田寺本尊(興福寺国宝館に仏頭のみが現存)のストーリーが良かったです。
  • 若冲
    若冲。京の青物問屋の長男として生まれるが、40代で店を弟に譲り隠居。生涯に渡って絵を描き続けた。その作風は、まさに奇想天外。数年前に観に行った作品が蘇ってきた。史実に基づきながらも、彼の人生を想像し、絵に秘める思いを書き綴った小説。フィクションでありながら、そうであったに違いないと思わせるストーリー...続きを読む
  • 月人壮士
    ここらの時代は血縁関係が本当にややこしい。誰が誰のなんだっけ?と何度も家系図を見直しながら読んだ。
    対立というテーマを面白い形に落とし込んでいると思う。この苦悩があっての後の時代、という風に次作は書かれているんだろうか。同時執筆というから、触れられずに進むのかな。
  • 月ぞ流るる
    夫の大江匡衡を亡くした寡婦の朝児は一年の喪に服していた。朝児は結婚前は実家の苗字を取って赤染衛門という局名で宮勤めをしていたことがある。夫の匡衡は文章博士であったし、朝児自身も和歌で名を知られていた。義理の息子の挙周や娘の大鶴は出仕しているし、末の娘の小鶴は書籍三昧をしている。朝児本人は再度宮使いを...続きを読む
  • 吼えろ道真 大宰府の詩
      実に面白かった。後半、物語にのめりこんで、朝の通勤、一駅乗り過ごしてしまった。(笑)
     延喜の年号改元の詔の中で、自らのことを謀反人と表現され、そのことに猛り狂った道真が、唐物を、目利きしながら、次第に静かな目に世の中を見るようになる。それと併せて、中央から来た官人が、大宰府の政庁で唐物を密かに...続きを読む
  • 月人壮士
     聖武天皇の死後、その遺詔を探そうと道鏡と中臣継麻呂が各関係者を回り、首という人物の輪郭を明らかにしていく。
     漠然と聖武天皇には好意を抱いていた。東大寺や盧舎那仏を造ったイメージだろうか。澤田氏の『与楽の飯』からいかに現場が苦労を重ねていたかを知ってもなお悪い感情は生まれなかった。本作の各人物の証...続きを読む
  • 満つる月の如し 仏師・定朝
    時は平安中期、藤原道長全盛の時代の話。主人公は仏師定朝と内供部の僧侶隆範。彼ら2人の視線を通じて平安時代の情勢、仏教感、貴族の権謀術数、市井の暮らしぶりなどが描かれています。時は末法の世が近く、平安京の治安は最悪と言っていい状況。その中での仏教の役割とはどいうものだったのでしょう。仏教があるからこそ...続きを読む
  • 火定
    描写がグロテスクで、読み進めるのがきついと感じるほど。ただ、コロナ後の今なら、これは少しも大袈裟ではないのだと、残念ながら思えてしまう。
    病気も悲惨だが、人の世界そのものが醜悪で、それでもそこで生きていく、生きていかなければならない、その姿が、きれいごとではなく描かれていた。この作品の舞台は奈良時代...続きを読む
  • 泣くな道真 大宰府の詩
     北九州旅行に備えて読んでみた本。
     菅原道真のことについて、右大臣まで昇った、藤原氏の他市排斥運動の流れの中で、大宰府に左遷され、その地で死去。後に怨霊となり、天神さんとして祀られるというぐらいしか知らなかったので、参考にと読んでみた。
     作者については、これまでも「火定」「龍華記」など何冊か読ん...続きを読む
  • 名残の花(新潮文庫)
    「妖怪」と恐れられた元南町奉行の鳥居耀蔵。
    失脚し、23年もの幽閉の後、目にしたのは
    明治なり「東京」とかわった街の姿だった・・・

    老武士の憤懣
    能役者たちの矜持

    それでも生きていかなければならない人々を描いた良作
  • 火定
    面白くあっという間に読み終わりました。登場人物は人間味に溢れ、時に道に迷いながら感染症と戦う。最後まで飽きずに読めました。
  • 泣くな道真 大宰府の詩
    「美しいもの」の役目とは。
    置かれた場所で生き続ける。不条理でしんどくても。汚泥を啜って地を這い回ってでも。
    夏の雷雨は轟いて、その後晴れる。
    天満様にお参りしたくなった。行きたいところが増えるなあ。
  • 泣くな道真 大宰府の詩
    最初の一章を読むのには時間をかけた。
    一度ルビが振られた言葉は基本、その後漢字の読み方を覚えねばならぬのだ(そりゃそうだ普通だ)が、人名・平安時代の官職・当時の風俗や唐物、あとは単純に話し言葉であまり使わない漢字(「歔欷」など)に、あまりちゃんと時代ものを読んでこなかった私などは結構苦労したのだ。
    ...続きを読む
  • 能楽ものがたり 稚児桜
    (2023/10/19 1.5 h)

    能の曲目8 つを下敷きにした短編集
    話のすべてが毒の効いた繋がりの物語

    能楽の知識がなくても楽しめる上に
    基になった作品にも関心のもてる良作

    「鮎」(国栖)
    「照日の鏡」(葵上)
    の2 作が特に好き
  • 駆け入りの寺
    人里離れた尼寺を舞台に高貴な方々の日常とそこに関わる市井の人々の人間模様を描いた作品。書名の「駆け入りの寺」から受けた印象とは少々異なる内容でしたが、それぞれの物語にそれぞれの「駆け入り」がありました。
    過去の事情から、自分を捨て他人ばかりおもんばかる老尼公と、恩人を捨て置いたという自責の念にさいな...続きを読む
  • 鎌倉残影 歴史小説アンソロジー
    複数の著者の鎌倉時代初期の歴史小説を集めたアンソロジーである。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』と重なる。

    澤田瞳子「さくり姫」は絵師の目を通して源頼朝の同母妹・有子を描く。坊門姫と呼ばれ、一条能保の妻となった人物である。後藤基清が有子の乳兄弟として登場する。基清は能保の家人と知られているが、ここ...続きを読む
  • 与楽の飯~東大寺造仏所炊屋私記~
    奈良時代、大仏造立を舞台とした話。
    古代と言って良いのか、とにかく言葉(漢字)が中々馴染めずに はじめは苦労して読み進めた。
    しかし宮麻呂の作る料理に食欲が刺激される。勝手な想像だけど現代に比べても、かなり質素、素朴なものであろうと思われるのだけど、思わずかき込みたくなる。田舎料理を求めてしまう。
    ...続きを読む
  • 輝山
    しろがねの葉と同じ石見銀山の物語、と聞いて手に取りました。
    銀山で暮らす人々が皆、本当にいきいきと描かれていて
    素晴らしかったです。
    堀子の男達は、その職業病ともいえる病気で皆長くは生きられない。自分の短命がわかっているからこそ
    短い一生を、情熱を、命ある限り山へと注ぐ。
    その一生を思うと切なくなり...続きを読む
  • 泣くな道真 大宰府の詩
    菅原道真が太宰府に左遷されたあとの物語。
    家柄に合わぬ出世(右大臣)をした道真は、貴族からの反発され左遷されるに至った。京への未練と恨みで塞ぎ込んでいた道真のもとに来たのは、「うたたね殿」こと保積と、美貌の歌人小野括子。
    道真の人生って、すごくドラマチックだったんだな。
    私は歴史ドラマとか全然見ない...続きを読む
  • 駆け入りの寺
    いつもながら澤田瞳子さんの作品は一筋縄では行かない。最初は、ほんわかとした人情物かと思って読んでいたら、なかなかどうして、人間の業の様なものが浮き出て来て、それでいて、最後は清々しい気持ちになる。やっぱり凄い。