鎌倉殿の前日譚といった位置付けの、保元の乱前後の京を舞台にした様々な視点のドラマ。
討ち取られたはずの「鬼対馬」こと源義親を名乗る者が二人も現れた事件
鳥羽天皇に寵愛された美福門院得子を呪詛したとして待賢門院璋子が失脚した事件
後に文覚と名乗る武士・遠藤盛遠が人妻に懸想しその夫を殺害しようとして誤
...続きを読むって妻女を殺した事件
平治の乱で自害した信西上人の息子・澄賢が、二条天皇の后で後白河院の異母妹・高松院姝子と密通した事件
勉強不足で知らなかったが、こうした様々なスキャンダルや事件が実際にあったらしい。それらを澤田さん流に解釈してあるのが面白かった。
ここに挙げていない、最後の琵琶の流派同士の争いの話は調べたが実際に起きたことなのかどうかは分からなかった。
この作品で描かれる平清盛が新鮮だった。武士よりは貴族になりたい人なのかと思っていたが、彼自身はあくまでも武士という立ち位置から揺るがない人だった。
一方の源義朝(頼朝の父)は二条帝と後白河上皇の争いに巻き込まれた形で敗北していた。平清盛と対立する気などなく、彼はただ武士として帝や上皇のために働いただけで可哀想な印象だった。
大河ドラマではただただ胡散臭い坊主だった文覚もこの作品では妙に格好いい。
一番印象に残った話は表題作ではなく「白夢」。
鳥羽上皇の寵愛を求める三人の女の三様の生き方が描かれている。
後白河という後ろ盾を失い、鳥羽上皇に疎まれる待賢門院。後ろ盾はないが鳥羽上皇に寵愛され次々と子を産む美福門院。待賢門院の勢力を削ぐためだけに皇后位を与えられたものの鳥羽上皇が通ってくることはない高陽院。
高陽院の主治医として派遣される女医・阿夜もまた子供が産めない。39歳になって輿入れした高陽院もまた鳥羽上皇の子を産むことはない。そもそも鳥羽上皇の心は美福門院にしか向いていない。
三者三様の人生を見て、阿夜は子供が産めなくても果たせる務めがある、年を経ても奪われぬ知識があると前を向く。
武士、僧、女、楽人(楽師)…それぞれから見える権力争いの醜さと残酷さ。簡単に摘み取られる命と明日はどの立ち位置になっているか分からない危うさ。一方で揺らぐことのないものもある。
『上つ者』たちに良いように利用され簡単に切り捨てられる存在であっても心があり矜持もある。
こんなことばかり繰り返しているから、後にひっくり返されるのも当然だと改めて思った作品だった。
とにかく人間関係が複雑なので、冒頭の人物関係図だけでは足りない。自分なりにノートに書きながら読み進めた。これから読まれる方もそうされることをお勧めします。