飛鳥時代に生きた、額田王(ぬかたのおおきみ)を描く。
「大海人王子(おおあまのみこ)の妻となり、十市王女(とおちのひめみこ)を産む」
という、日本書紀の確実な記録のみを尊重し、澤田瞳子の額田像を作り上げている。
額田をめぐって、天智・天武が三角関係だった、とか、絶世の美女だった、とか、カリスマ歌人だ
...続きを読むった・・・というのをあたかも史実のように言う人もいるが、実は全てうわさや憶測が後から作り上げた像だ。
この作品の額田は、大海人と離婚したあと、宝女王(斉明天皇)、葛城王子(天智天皇)と、2代の大王(おおきみ)に宮人(くにん)として仕えた。
今風に言うと、シングルマザーのキャリアウーマンだ。
葛城には、女としてではなく、臣下として認めてほしい、と焦るあまり失敗もするが、やがて鎌足にも信を置かれるようになった。
そして、娘の十市が葛城の長男・大友王子の妃となると、大友にも頼りにされるようになる。
記録に名前は残るが特に活躍が描かれたことのない、漢王子(あやのみこ)をちょっと気になる厄介者に、同じく知尊を百済から亡命してきた出世欲の強い頭脳明晰な青年に描き、個性を与えている。
壬申の乱については、今まで天武・持統サイドの視線で描かれることが多かった。
頑張れ!気丈なプリンセス・さららちゃん!!・・・的な感じで。
しかしここでは、讃良は徹底的に大海人を支配する悪女扱い。
対して、今までは、勉強は出来るが人望のない二代目、しかも性格に問題あり、のように描かれることが多かった大友王子が、頑張って臣下を率いている様子が見られて良かった。
額田は、男女は関係ないという信念で、戦の最中も大友たちの側を離れない。
その目によって、近江宮側の奮闘が描かれる。
壬申の乱の進行も、丁寧に迫力を持って描かれていた。
2代の大王(おおきみ)に仕え、自分はもはや過去。
全てを見届けることが自分の務めだったと、来し方を振り返る額田目に映るのは芒(すすき)の波。