都会に存在する暗渠から流れついた死体… 外れもの刑事たちが組織の軋轢と難事件に挑む警察小説 #水脈
■あらすじ
東京は杉並区の神田川で男性の水死体が見つかった。どうやら地下水脈である暗渠から流れついた遺体だった。
管轄の警察署で捜査が始まるも、真壁と宮下刑事は社会行動学を研究している女学生の捜査取
...続きを読む材に付き合わされることに。警察官僚の姪である彼女のため、彼らは渋々ながら捜査協力をしていく。さらに第二の事件が発生してしまい…
■きっと読みたくなるレビュー
都会にひっそりと存在する暗渠、水位管理のために作られた水のネットワーク。街中を散歩していると、コンクリで蓋がされている空間だったり、水もないのに古い橋があったりして、街づくりを想像できて興味深いものです。本作はそんな暗渠がテーマになっている、人込みで密かに行われている犯罪を切り取った警察小説です。
渋い警察小説ですね。警察内部に身を置く刑事たちのリアルさったらない。端から見ると仲良くやれよと思うのですが、それぞれな立場があるようで距離感の取り方が絶妙。現実の警察でも大なり小なりありそうで、ちょっと嫌だ。
そんなやりにくい状況ながらも、主人公二人の刑事がやってくれます。
・真壁
まさにベテラン刑事で、人を見るプロ、人から情報を引き出すプロ。この人には隠し事や嘘は通じない。でも独断でチームプレイを乱すことからはみ出し者、刑事ドラマに必ずいそう。
・宮下
正義感を心に秘めた、ちゃんとした公務員。頼りなさそうな感じもするけど、実は勇気と行動力がある切れ者で、こんな人が日本の治安を守ってくれると思うと安心ですね。
この二人が大胆不敵ながらも芯を突いた推理、考察に感心するんですよね~ 事件捜査っていうより、特に警察内部の情報収集や駆け引き、立ち回りには唸らされてしまいました。なんか一般企業で仕事を進めるための動きとも似ていて、どこの人間もやることは同じだなぁ。結果を出す人はコミュニケーション力が長けてますよね。
中盤以降は徐々に事件の背景や関係者が見えてくる。捜査とは別に挟まれていた、老婆と恵まれない母娘のショートストーリー展開がなんとも… 悲しくも読み手を熱くさせるシーンが強烈で、こんな社会に誰がしたんだと叫ばずにはいられない。
そして今回の事件のバックストーリーがまさに暗渠のよう。人から見えないように隠し、陰では水が流れるようにしておく。しかし何かのきっかけで水詰まりのトラブルが起きた時、どうなってしまうのか。そりゃ必要性も分かるんだけど、プライドと保身が招いた結果がコレかよって感じで許せない。
社会派映画をまるまる一本見たような、厚みのある骨太作品でした。面白かった!
■ぜっさん推しポイント
上級国民という格差社会を揶揄した言葉があります。こんな言葉が生まれること自体がやるせない。完全な平等なんて存在しないのは分かりますが、昨今あまりに社会的立場や経済格差の激しさを痛感しますね。
こういった小説を読むと、ひとりひとりの人間性の問題よりも、社会の問題なんだと学ぶことができます。隠れたところでひっそりと流れるしかない人たちを救うには、まずは居場所をつくってあげることだと思うのですが、やっぱり自分が可愛いのも理解できるし…なんとも途方に暮れてしまう気持ちが押し寄せてきました。