いやー、面白かった。後半の怒涛の展開はすごかったな。お見事ですとしか言いようがない。
主人公は大手製薬会社に勤める冴えない中年男性。会社の不祥事の責任を取らされ、山形の子会社へ単身赴任で飛ばされて、どんよりした日々を送る毎日。いつからか妻とも疎遠になり、娘にも連絡を拒否される、そんな悲しい状況。こ
...続きを読むれも、遠距離が原因だろう、早く家族のもとに戻りたいなぁ、と。ああ、もう見てられない。中年の悲哀を描いた物語か…と思っていたらとんでもない展開を迎える。
ある日妻から不可解な1通のメール。胸騒ぎがして、慌てて自宅に戻ると、野次馬にかこまれている。
ー妻が自宅で本社の常務を殺して逮捕されたー
え?なんだその展開は。正直ここまでは中年の悲哀ばかりで、読んでてつらくなってたが、一気に引き込まれた。中年の悲哀どころではない。殺人犯の夫になるというとんでもない状況。妻も犯行を自供しており、有罪は免れない。
なぜ、夜中のそんな時間に本社の常務が自宅にいた?妻との関係は?娘は大丈夫なのか?
認知症の母は?
いろいろなことがわかっていくたびに、少しずつ家族が壊れていく。果たして主人公はバラバラに壊れていく家族を守っていくことはできるのか。
本作の中で重要な要素となる「もらわれっ子症候群」。思春期の時の、自分が大切にされていないという感覚。最後の最後に明かされる真実。とても面白い。
登場人物はそんなに多くないし、現場の状況から殺害可能な人間は限られているのに、ここまで物語が転換していくものか、と感心せざるを得ない。
家族を本気で守るとはどういうことか。冴えない中年男性がもがいてもがいて、真実にたどりつくラストは清々しくあり、とてもいい読後感だった。良作。