あらすじ
「女性解放」を論じることはなぜ難しいのか。あるべき解放論を示すのではなく、かつて女性解放の運動と理論が直面した対立や批判、矛盾やその破綻を描くことで、今なお残る困難の数々を深く鋭く明かす論考集。1部には、イデオロギーに根ざす80年代女性解放論への批判と、「性差があるから差別ではない」とする言説の本質的な不当性を喝破した論考を収録。2部では、ウーマンリブ運動の思想史的位置付けと再評価を行い、3部では、フェミニズム運動への「からかい」が、非難や攻撃にもまさる抑圧的効果をもったことを明かした「からかいの政治学」など、メディアにおける女性表象の問題を追求した。今日までの状況を俯瞰する1章を加えた増補版。
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Posted by ブクログ
オリジナルは1985年刊行だが、著者自身も述べるように、ここで論じられている問題の根本は今とほとんど変わっていない。男女共同参画基本法ができようと、女性活躍推進法ができようと、女性たちは今もあいかわらず「平等に扱ってくれと言うのなら男と同じ基準でやる覚悟はあるのか、あとで泣き言を言うんじゃないぞ」と恫喝されているのだ。
と同時に、イリイチのジェンダー論を鋭く批判する「女性解放論の現在」を読むと、1980年代にフェミニストたちが激しく論争していた「女性解放とは何か、そのためにどのような社会改革が必要なのか」という問いが、いまどれだけ共有されているだろうかとも思う。このとき共有されていた問題意識とは、近代資本主義の枠組みをそのままにしておいて平等な参入だけを求めても女性解放は達成されないということだった。女性解放の運動は、平等と同時に社会変革をめざすものでなくてはならなかったのだ。冷戦が資本主義の勝利に終わった今日、この「大きな問題」はフェミニズムの問題として正面から論じられることはほとんどない。それは女性の解放、いやすべての人の解放にとって進歩なのか、後退なのか。そんなことをあらためて思う。
また、ウーマンリブについて扱った論文2本や、これにつながる「からかいの政治学」がとてもよい。伝説的な運動ではあるが実態が伝わっていないウーマンリブとは、何を問いかけていたのか、いかなる点において画期的だったのか、なぜ激しい反発を引き起こしたのか、非常に分析的に記述されていて、多くの個人的回想録とはまた違った観点からこの運動をふりかえるために重要。