あらすじ
システムエンジニア、WEBエンジニア、機械エンジニア、建築エンジニア、土木エンジニア……。専門職として引っ張りだこのエンジニア(技術者)の仕事はとても魅力的ですが、いざ勉強を始めようとしてもハードルが高く、何から始めてよいのかわからない方も多いでしょう。
でも、大丈夫! 本書の著者・ヘンリー・ペトロスキは、「エンジニアリングの考え方は、実は私たち人間の骨肉に内蔵されている」と言い、より高いビルを建て、より長い橋を架けようとするエンジニアリングは、人間の本性に発した営みだとしています。そして、豊富な事例を紹介しながら、奥深きエンジニアリングの世界を、機知に富んだ比喩を駆使し、丁寧に解説してくれます。
古くはピラミッドやカテドラル、そして鉄橋や吊橋、ホテルの空中歩廊、原子力発電所や洋上プラント、飛行機の墜落など、本書に登場するエンジニアリングの成果物は多岐にわたります。こどものおもちゃや洋食器、市営バスといった身近な事例も登場し、著者の並外れて幅広い知識と深い洞察力には、ただただ驚かされるばかりです。まさに縦横無尽で、ときに文学や童謡のなかに、そして偉人の金言のなかに、エンジニアリングにまつわる真理を堀りあて、専門的な概念や思想を噛みくだき、読者の疑問を解き明かしてくれるのです。
本書の原題である、“To engineer is human”は、To err is human(あやまつは人の常)という、よく知られた詩句をもじったものです。「エンジニアリングとは何か」、「エンジニアとは何をする人か」を理解するということは、「失敗はどのようにして起こるのか」、「失敗はどのようにして、成功以上に技術の進歩に役立つのか」を理解することなのです。「ドラマティックな失敗は、自信過剰と不注意の蔓延から起こり、そうした事故が起きてはじめて、より慎重であれということを、われわれはついに学ぶ」のです。エンジニアリングを理解する上の核心は、実は「失敗」にあるのです。
また、エンジニアリングを理解することは、素人の一般市民にとっても有用です。自然環境や社会環境に及ぼす影響の大きい巨大プロジェクトについて考える際の、道しるべになるからです。
著者は、こう警鐘をならします。――良識ある人間なら誰でも、同じ人間同士、誰かを故意に迫りくる危険にさらそうとは思わないが、技術的な創造物については、そこにどんな危険が潜んでいるかをときに過小評価したり、忘れたりしてしまうのだ――と。そうならないために、一般市民によるプロジェクトのチェックが大切なのです。
エンジニアやエンジニア志望者のみならず、あらゆる読者に向けてエンジニアリングの要諦を綴る古典的名著の世界を、ぜひご堪能あれ!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
エンジニアリングとはどういうものなのかについて描かれた一冊。主に土木の領域の事例が多いけれど,帯にも書いてあるとおり,土木に限定した話ではなく,AIといった領域でも参考になりそう。参考にと言っても,コンピュータとの絡みでの話もあるので,結構直接的である。メインの軸は「失敗」。失敗とはどういう存在なのか,絶対的な成功ができない以上,失敗とどう付き合えばいいのか。自分を律するために,時々読み返したくなる一冊になった。
ところで,僕は現在,プログラミングをあまりしないSEという危険な領域で仕事をしている(だからこそ手にとって読んだ)。もちろん,プログラミングができる後輩と一緒に仕事をしているんだけど,どうしてそうなるのか,の理解が自分にも必要だと感じた。
ちなみに,一番なるほどと思ったのは「使用に供されているすべての設計は裁量の産物である。設計者または依頼者は、失敗をどの程度に、またどこにすべきかを選ばなければならない(p267)」という一文。一番グサリと来たのは「無責任なエンジニアとは、するだけの準備ができていないことをしようと試みたエンジニアのことであり,以前に失敗したときと同じ誤りを犯したエンジニアのことだ」(p213)という一文。
今年(2020年)は,同じ失敗をしないように,今までのことを改善していきながら仕事をしていきたいと改めて思った。