あらすじ
毎年2万人以上の待機児童が生まれる日本。厳しい「保活」を経ても、保育園に入れない子どもが多数いる。少子化の進む日本で、保育園が増えてもなぜ待機児童は減らないのか。なぜ保育士のなり手が少ないのか。量の拡充に走る一方、事故の心配はないのか。開設に反対する近隣住民を説得できるのか――。母親として、横浜副市長として、研究者として、この課題に取り組んできた著者が、広い視野から丁寧に解き明かす。
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Posted by ブクログ
横浜市の副市長を務め、1人の母でもある著者が保育園問題を考える。現状、課題分析、諸外国の例、対策(提言)の構成となっており解りやすい。行政の立場、子育てする親の立場の双方を経験しているだけあってか、非常にバランスが取れた一冊となっている。良書と言えるだろう。
以下、本書のメモ。
〇認可保育所の運営
公立:約4割 社会福祉法人:約5割 学校法人や株式会社など:約1割
〇保育所の数
・2万3,447ヶ所(2016年)。2014年と比べ減少。
・過疎地の保育所の閉鎖、認定こども園への移行が主な原因。
〇保育量をめぐる3つの論点
①認可保育所を利用しない人からの不満
認可保育所に入所できた保護者にだけ手厚い公費負担があるのか。
②応能負担
国基準では世帯年収1,130円以上であれば保育料は年間120万円超。
③地域格差
財源豊かな自治体は手厚い公費負担があるため保育料が安い。
〇深刻化する保育士不足
・年に約4.9万人が就職する一方、約3.3万人が離職(厚生労働省;2014年)
・「賃金が希望と合わない」、「責任の重さ・事故への不安」、「休暇が少ない」などが主な理由
・経験の浅い保育士が増加。
・「子育て支援員」制度開始。
〇著者の8つの提言
①育児休業1年の徹底 ⇒ その分を1~2歳児の保育に回せられる
②父親の育児休業取得率の向上 ⇒ パパクォーター制度など。
③育休の過度な延長よりも保育所の整備を優先 ⇒ 参考としてフランスの事例
④働き方改革
⑤保育士の給与改善 ⇒ 財源は増税
⑥保育士への適切な研修やキャリアパスの構築
⑦東京圏への一極集中の是正 ⇒ サテライトオフィスの設置や本社の地方移転
⑧幼稚園の認定こども園化
Posted by ブクログ
本題の「保育園問題」は、副題である「待機児童、保育士不足、建設反対運動」だけではなく、もっと広い視野で見なければいけない問題だということが良くわかる。
Posted by ブクログ
序章のある一家のケースが圧倒的。自身がまったく当事者でなかったため、これまで新聞などで保活について読んでもなかなかピンときてなかったが、この本の事例はどういうわけか非常に腑に落ちた。赤ちゃんがお腹にいるときからこんなに必死に活動しなくてはならない、ただでさえ体調管理には気を遣う時期なのに心の方もすり減るだろうし、もし入所できなかったら、人によっては仕事を失うかもしれないという理不尽さに恐怖を覚えた。
こうしたショッキングな、けれどもおそらく決して珍しくはないケースを冒頭に読んだ後だと、その後の冷静な調査分析も非常に身にしみてくる。筆者の方は横浜市の副市長時代にさまざまな取り組みをされており、その現場感もあって理解しやすい。
この本が出版されてから8年が経ち、待機児童の数は驚くほど減少した。この問題ばかりクローズアップされる状況が落ち着き、保育園問題はより本質的な課題、子どもの育ちと社会との関わり、働き方や生き方について向き合う時期がようやくきたのだと言えるのかもしれない。