【感想・ネタバレ】盗まれた最高機密 原爆・スパイ戦の真実のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『インテリジェンス1941』と同じ山崎啓明の著作。相変わらずスパイ活動を興味深く描いている。科学者を大きく描いているのが知的流暢性か高くて好き。あの時代の核物理学者は多士済々だから。

『インテリジェンス1941』では国と国の化かし合いに重点を置いたのに対し、今作ではスパイ活動でみる科学者の戦争と言えるであろう。オッペンハイマー、フォン・ブラウン、プランク、ボーア、アインシュタイン、ハイゼンベルクなど、物理という銀河で綺羅星のような顔ぶれが出てきて興奮する。当時の人間が敵国の科学技術を類推する様は、後世からみたある程度客観的な歴史とは違った面白さがある。

アメリカ人のファーマンの目的はナチスドイツの核技術の把握である。ドイツの核技術の論文を中立国経由で手に入れ、その著作者を把握し、1942年から核技術の論文が増えていることを確認。その著者をメモり、ドイツから亡命してきたオッペンハイマーに相談する。オッペンハイマーはそれらの著者と面識があり、「核実験に必須の重水とウランの集まるところで開発されているのではないか」と助言した。少しずつではあるが敵国のことがわかっていくプロセスが読み応えある。

狂気から逃げたアインシュタインと、「ユダヤ人にも大変貴重な人間がいる」と言いヒトラーの逆鱗を買ったプランク、ユダヤ人を弁護し「白いユダヤ人」と呼ばれ拷問寸前で堕ちたハイゼンベルク。

イギリスの『フリッシュ=パイエルスメモ』で、核兵器の実現が示唆され、チャーチルがドイツより先に作るべきとアメリカに情報を提供し、マンハッタン計画が始動した。なんと従来のアインシュタインによる働きかけはあまり大きな影響はなかったという。これは驚きだった。

アメリカ諜報部アルソスが、ついにハイゼンベルクの片腕、フライシュマンを見つける。場所はストラスブール市民病院。なんと、病院を隠れ蓑にしてウラン原爆を研究していた!

ハイゼンベルク暗殺作戦もあったのか!? もしハイゼンベルクを失えば人類史の一大汚点になるだろうが。非戦闘員の殺害であり、国際法国内法ともにもとる行為である。ヒトラーが悪いとはいえ戦時下ではノーベル賞受賞者すら暗殺の対象になるとは。と思ったら、どうもハイゼンベルク暗殺計画をマンハッタン計画の科学者が提案したらしい。二重に驚き。

「ドイツの核開発が先行することを恐れているなら、代表的な科学者を殺すことで優位を覆すことができる」

ノルマンディー上陸作戦からアルソスの諜報活動が再開し、アメリカはついにハイゼンベルクを見つける。しかし、なんと、ドイツの核技術は子どものそれとしか言いようがなかった。集めたウランは単に原子力エネルギーの研究であり、平和的活用だった。アメリカ政府、科学者のパラノイアはイラク戦争のそれを思い起こさせる。イラクの60年前に同じ失敗を起こしていた。

ハイゼンベルク暗殺計画は未遂に終わって良かった。刺客モー・バーグは何故か暗殺を行わなかった。もしやっていれば現代アメリカ史にもう一つ汚点が染み付いたことだろう。

そして、ドイツ核開発の心配がなくなった今、マンハッタン計画はソ連の牽制という意味合いを持つようになる。ソ連スパイが優秀である以上、原爆の機密は遅かれ早かれ失われる。故にウランをソ連に渡さないことが肝要だ。ウランのある街を猛爆したり諜報員自ら強奪したりとやりたい放題。ついでにユダヤ人科学者が離反しないように「ドイツが原爆開発に失敗」の情報は伏せられている。

こんどはソビエトの頭脳争奪戦。オーストリア、ドイツの科学者がソビエトに連れ去られる。アメリカの刃から(何故か)難を逃れたハイゼンベルクは今度はソビエトの鎌と槌に狙われる羽目に。3ヶ月前にドイツの敗戦を予期していたハイゼンベルクは疎開していたが、アメリカに捕まり、イギリスで監視される。原爆投下時にはありえないとして認めようとしなかったらしい。

ソ連の原爆に関わるスパイ活動には目をみはる者がある。頭脳明晰な科学者が何人か、ソビエトに情報を売っているのだ。セオドア・ホールはマンハッタン計画に参加したものの、原爆の威力を恐れ、ソ連に情報を流した。核抑止で本当に世界が平和になったか議論すべきではあるが。

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2021年10月20日

Posted by ブクログ

第二次大戦中の原爆開発に関して,各国のスパイが動き回る姿を描写しているスリルに満ちた物語だが,アメリカがマンハッタン計画を進行させながら,ドイツの情報を探り,的確な判断をしていることに,今更ながら驚いた.情報の重要さを軍部も政治家もよく把握しているからだろうが,ドイツが進展していないことを察したあと,ソ連の動きに注目している点も素晴らしい.国内のスパイが情報をソ連に渡していることは,想定内のことのように思えるが,穿った見方だろうか.

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2016年06月30日

Posted by ブクログ

マンハッタン計画の諜報機関アルソスのメンバー、ロバート・ファーマンについて。
アインシュタインのDVはひどかったらしい。
マンハッタン計画はアインシュタインの提言から始まったように思われているが、チャーチルのモード委員会がきっかけ。
ジョン・ケアンクロスがソビエトスパイだった可能性が高い。
V2か原爆かを選択しようとしたとき、ハイゼンベルクが短期間で作れないことを強調してしまったがゆえに、ナチスはV2のほうに軍配を上げてしまった。
アレクサンドル・ワシリエフによる、日米開戦時のKGB工作について。ボリス・ポドルスキーもソ連スパイだったよう。
マンハッタン計画の科学者セオドア・ホールがソ連スパいだった。

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2015年11月30日

Posted by ブクログ

原爆開発に向けて諜報組織が活躍してた第二次世界大戦。主に研究者達を掘り下げて取材している。日本の理研も開発研究してた原爆。謎のスパイMの正体はマンハッタン計画に参加してた最年少の物理学者であるセオドア・ホール。ソ連のスパイだった。ヴィルナー・ハイゼンベルクを殺そうとした元大リーガーでスパイのモー・バーグ。スパイ合戦は映画や本では定番だがリアルな話は興味深い裏話も多い。全体的に映像の世紀の番組を見てたせいか既視感溢れる内容になっていたかな。

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2016年10月12日

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