【感想・ネタバレ】医学的根拠とは何かのレビュー

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Posted by ブクログ 2021年10月20日

めちゃめちゃ。とんがった医師がいた。津田敏秀は、岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。専攻は疫学、環境医学、因果推論、臨床疫学である。著者が言っている断定的表現は嫌われるだろうなと思う。だけど、好きだなぁ。容赦しない姿勢が、だから平気で国を訴訟できる学者なのだ。
本書から、水俣病のところだけを拾って...続きを読む、私の理解を含めて説明すると以下のようになる。
水俣病は、有機水銀による食中毒事件である。それは、熊本県も国(厚生省)も認識していた。
1956年5月に最初の患者の届け出。これが公式の水俣病患者の届け出となる。1956年11月に奇病や伝染病でなく、熊本大学医学部は食中毒であるとした。
にもかかわらず、厚生省は「原因物質がわからない」として食品衛生法の適用をしなかった。
この理由は「全ての原因食品が汚染されている証拠が必要」という。食中毒が起こった時に原因物質が解明されている必要性という前例がない。食品衛生法に基づいても違反している。食べたものを食べさせない処置をすることはとても必要だ。明らかに厚生省の過失、過誤である。
水俣病は、公式確認直後の早い時期から伝染性の疾患ではなく、ある種の重金属による中毒と考えられ、水俣湾の魚介類を食べることによって引き起こされた食中毒との共通認識はあった。
水俣病が食中毒だとすると食品衛生法の適用を受ける。水俣病が公式確認された当時の食品衛生法第二十七条によれば、食品等に起因して中毒した患者等を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない。保健所長は、この届け出を受けたときには調査し、かつ都道府県知事に報告をしなければならない。都道府県知事は、この報告を受けたときには厚生大臣に報告をしなければならない。当時の食品衛生法第四条によれば、「有毒な、又は有害な物質が含まれ、又は附着している」食品等については、採取や販売等が禁止されている。
というのが、食品衛生法に伴う処理の方法であるが、厚生省はそれを認識していながら、食品衛生法を自ら法的に処理しなかった。食中毒事件報告書がない。厚生省は法律違反を自ら犯したのである。
当たり前の食中毒事件処理が行われなかったために、不知火海沿岸に拡大。チッソ工場の排水が続いている状態を続ける。魚を食べるための禁止処置などをするべきであったが、しなかったので被害が拡大した。
水俣病は、「昭和52年判断条件」に基づく認定をしている。食中毒事件で、いちいち認定をするってありえない。医学者は水俣病の基準が、よくわからないので、認定基準が曖昧。現地調査もきちんとしない。なぜ医学的根拠が、科学になっていないのだろうか?と疑問を投げかける。
最高裁の判断は「昭和52年判断条件に定める症候の組み合わせが認められない四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的な実証はない」といい、症状の組み合わせを水俣病の認定条件とすることに科学的根拠はないとしている。
全く、著者の言われていることに同意する。水俣病に対する著者の立場は鮮明である。
本書は、医学的根拠は何か?問いかけている。
福島原発メルトダウンによって放射能の閾値が発表されている。100ミリシーベルトを目安として「がんの増加が見られない」とする報告を元に、いつの間にか100ミリシーベルトはガンにならないと言われるようになった。WHO(世界保健機関)の健康リスクアセスメントは、100ミリシーベルト以下であってもがん発症の可能性を指摘している。なぜ世界基準と日本基準は違うのか?を問いかけている。いくつかの事例(PM2.5問題、発がん物質問題、ピロリ菌問題、タバコと肺がん問題、O157問題、赤ちゃん突然死問題など)は象徴的な事件は医学的根拠の不理解の中にある。
医学的根拠は、直感派、メカニズム派、数量化派の3つに分類できる。直感派は医師としての個人的な経験を重視。メカニズム派は動物実験など生物学的研究の結果を重視。そして数量化派は、統計学の方法論に基づく疫学的解析にあるとする。コロナ禍で、8割おじさんと揶揄されたが、日本には直感派とメカニズム派が主流で、現在のような広範囲に起こる病気に対して対応しきれないという。
それが、水俣病でも明確に現れたと主張するのだ。
医学博士になるための論文は、臨床研究の人が少ない。「いまどき分子メカニズムの研究でないと医学博士がとれない」「動物実験こそが研究だ」と人間、患者から離れていくことになっている。医学が患者を扱わないことが、問題なのだ。医者は「実験室」ではなく「診察室」に向かう必要があると言っている。日本の医学の世界では軽視されがちな疫学の重要性を,歴史的な系譜を説明する。
科学的根拠に基づいた医学(Evidence-Based Medicine:EBM)。臨床研究で集められたデータは、人に関するデータであり、数量化された疫学方法論を取り入れることが必要だと説く。
大気汚染、重金属汚染、放射能汚染などは、公衆衛生学に基づいた医学的根拠は数量化された統計学で解析されない本質が見えない。まして直感派やメカニズム派では対応できない。医療の質を変えないと水俣病のような迷走が起こり被害を拡大・長期化する。
いやはや。医学界にも、稀有な人がいるもんだ。著者の鋭いツッコミを支持する。

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Posted by ブクログ 2018年08月10日

"医学と仮説"とセットの本とのこと。
まだ飲み込み切れてないし、疫学以外の医学の価値をあまりに低く見てる気もするけど、そこを割り引いてもとても大事なことを言ってるっぽい。自分がまさにメカニズム派あるいは病態生理派であるだけに、なおのこと響く。



例えば、

メカニズムがわから...続きを読むないと環境因子の効果自体を認めないってのは全くおかしい。

日本の医学部がラボ的な実験医学にあまりに傾倒しており、本来なら医学部で多数行われてよい臨床研究ができていない。臨床研究あるいは医療統計の教育環境が貧しい。

食中毒の原因が細菌でもウィルスでもなく、先行する知見のない毒物だった場合、病原体探しは無意味、あるいは、判断を遅らせるならば有害。原因物質の同定はあとでやればよく、速やかに疫学的な判断を行い人々を原因から遠ざけねばならない。


ただし、個々の患者を治療しようとする臨床医と、疫学あるいはEBMの相性が微妙なところなのは逆によくわかった。原因のわからない高血圧の患者を前に、減塩と降圧剤だけ勧めて終わりにするのは、EBM的にはOKかもしれないが、やっぱり医療としては違う。何か妙な原因を隠しているかも、、という直感を元に行った別の検査で真の治療標的が見つかり的確な処置が可能になることもあるし、その意義はこの本では十分に論じられてない。このあたりは"不確かな医学"に記述あり。
他方、集団のふるまいを論じる上では、個別の患者が別の原因で発症している可能性を全て排除する必要はない。それは2×2図で結論すること。


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Posted by ブクログ 2014年09月24日

痛快な本。一気に読み切った。これまでの、そして現在も続いている医学研究や教育についての問題点を痛快に書かれている。ここまで書いていいのだろうかと実名で色々な研究者を批判もしている。数量化の著者による直感派やメカニズム派への批判であるが、数量化が現在の科学的根拠となっている。水俣病や放射線の問題も直感...続きを読む派やメカニズム派の意見のために間違った結論しかでていないと手厳しい。EBMもこのように説明されると理解しやすいが、素人のような読後感となってしまった。

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Posted by ブクログ 2013年12月11日

「医学的根拠とは何か」
この本の題名であるが、何か起こるたびに、さまざまな“専門家”という何がどう専門なのかわからないような人が「医学的根拠」という言葉を用い、その度に考えることでもある。

そして私は身をもって知っている。日本は医療技術は高くても、医学教育水準は前近代的なうえに貧相極まるものである...続きを読むことを。今の医療レベルの高さは経済発展と国民教育水準の高さに伴ったものであり、医学教育水準が発達してない以上、これから数十年後に日本の医療は金に依ってガラパゴス化した身動きの取れない豚のようになるのではないかと危惧している。

筆者は今まで日本の医学における問題を一般の書籍において啓蒙してきた方である。いずれも読ませていただいたが、本書は実に良い。根本的な問題点をわかりやすく整理されている。すべての医学生に読んでもらいたいのに加えて、医療者以外にも読んでいただき、“専門家”という有象無象の発言には、「本当だろうか」という疑問を感じてもらえることが大事だと思う。

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Posted by ブクログ 2018年10月13日

日本のEBMがまやかしでしかありえない、それは日本の臨床医が科学的ではないから。そのことは多分みんなわかっている。あきらめない、や、がんばらない、なんて旧時代の医者が言っているうちはEBMにはなりません。

そのことがよくわかる本。

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Posted by ブクログ 2016年08月16日

医学的根拠つまりエビデンスには三つあり、それぞれ直感、メカニズム、数量化に分かれる。大学の経営や高等教育研究にも通じる記載が多くとても参考になった。大学のIRは疫学から学ぶことが多いかもしれない。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年09月06日

日本の医学界の閉鎖性をエビデンスを軸に追及しているのだが、これだけ国際的な学術交流というものが盛んでありながらそこまでガラパゴスになれるものかという疑問も拭えない。

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Posted by ブクログ 2014年07月29日

日本でいまだに続いている医学的根拠の混乱について、疫学者の立場からするどく問題提起している。
自分の中にも、直感的判断、メカニズム重視の思考、統計学的根拠それぞれが混在しているのを思い知らされる。
「真実とは何か」に一歩近づくことができる。

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Posted by ブクログ 2014年07月29日

疫学の入門として読みやすいんではないかな。

疫学史や、日本へ近代医学が導入された歴史を ①直感派、②メカニズム派、③数量化派のキーワードを用いながら概観して最近(2014現在)の医学研究に絡む時事問題まで至り、そこから日本の医学部教育の問題点(非科学性)を明らかにしていく。

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Posted by ブクログ 2014年03月12日

「医学的根拠とは何か」というタイトルに惹かれて読んだ。

内容は少し難しいかもしれないけれど、筆者の主張は一貫しているので、わかりやすいと思う。
根拠に基づいた医療、EBM(evidence-based medicine)とは何かを
わかりやすく解いていて読みやすい。

医療が科学的であることについ...続きを読むて著者はつぎの3つを認めている。1医師の直感 2分子レベルのメカニズム研究の成果
3統計的な疫学調査。
その中で、最も重視するのは「統計的な疫学調査」。

この筆者の主張には一理あるものの、他の視点(立場)を重視する人がこの本を読むと、反論があるだろう。

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Posted by ブクログ 2014年01月09日

日本の医学の臨床研究の遅れを実感させられる本であった。しかし医学だけでなく心理学にも同じことがいえるので、心理統計を学ぶ学生にとって、読むと統計の使い方が変わると思われる。

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Posted by ブクログ 2013年12月27日

医学に限らず、日本人は何かに恐れている気がする。
日本に住んでいると、バスは定時にやってくる。
約束を守らない人はまれだ。
時間厳守や正確さが日本を覆っている。
もし・・・それが破られると攻撃を受ける。
アメリカは訴訟大国だという。
しかし、日本は「なますを吹く」大国だろう。
数値は怖いのだ。
根拠...続きを読むのない(統計は根拠とは見なさない)ものは明確ではないのだ。
日本人が変わらなければ、医学も変わらないでしょう。

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