あらすじ
トラウマの臨床に携わる際,まず,トラウマ/外傷ということばが,身体の損傷から取られたたとえ,メタファであり,それ自体は意味のない用語であると理解することは大切である。患者の苦悩・苦痛を身体の外傷と同じように捉えてしまうと,想像上の傷口に手当を施すように傷を癒すことができるといった単純な因果論,万能的な発想に陥ってしまう。
こころの臨床に臨む私たちには,患者の訴える,あるいは症状として表わすトラウマだけを見るのではなく,苦痛を訴え苦悩するその人を見つめ,苦しむこころに触れ続けることが必要となる。
本書ではまず,精神分析におけるトラウマ理論・治療の歴史を概観し,ストレス障害という語の実態に迫り,また,患者との出会いの場面で不可欠となる,その人がトラウマを経験している可能性を考慮したアセスメントについて学ぶ。実際の精神分析的治療については,9編から成る豊富な実践例や応用編を通して,幼少期の虐待や喪失体験,複雑性PTSDや解離の症状といった多様な病態に存分に触れることができる。
第一線で分析的治療を実践し続ける臨床家たちによるトラウマ臨床の手引きとなる一冊である。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
松木先生のこのシリーズは、
多くがビオンを基にした精神分析的視点を、
様々な病態や病状について理論的に描き出され、
かつ豊富な臨床素材が実に勉強になる。
今回トラウマの再検討と定義づけ、アセスメントだけでも、
かなりの情報量で実践的であるが、
困難な事例の数々、そしてマネジメントと応用に、
終始圧倒される感覚だった。
いかに心的外傷が人のこころを蝕むものか、
その深刻さに胸が詰まる。
そのような痛みと混乱に深く関わろうとする治療者たちの全身全霊の臨床が、
特に逆転移の吟味に如実に現れており、
これまた息を呑む。
P64「年単位の相当にながい期間が必要である。(中略)なぜなら私たちは、人の生きてきているこころに関わっているからである。ここには治療者による、ある種の献身が求められいてる。」