あらすじ
児童相談所における虐待相談対応件数が激増している昨今,医療や福祉をはじめとするあらゆる支援の現場には,逆境的環境で育ち,こころにケガをしている子どもがさまざまな支援ニーズを抱えて登場する。
こうした子どもたちへの治療や支援を考える際には,まず,彼らがこころにケガ(トラウマ)をしているということを念頭に置いて対応すること(トラウマインフォームドケア)が何よりも求められる。
本書は,理論の核となるトラウマインフォームドケアの他,被虐待児に起こるPTSDの諸症状やアセスメントのポイント,重要な治療プログラムとしてのTF-CBT,アタッチメントや発達障害とトラウマとの関連,児童精神科臨床の実態など,多岐にわたる臨床実践的観点から構成されている。
長年,精神科臨床に携わってきた著者によって子ども虐待とトラウマケアに必要なさまざまな視点や対処法を示す,臨床家だけでなく保健・福祉・教育・司法といったあらゆる支援の現場の方の指針となる一冊。
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Posted by ブクログ
子ども虐待の領域では第一人者の著者の、虐待とトラウマについてのまとまった著書である。子ども虐待は子どもの時からPTSDを起こすだけでなく、逆境的小児期体験として将来にわたって影響を及ぼす。また子ども虐待をトラウマの視点から見直すと、虐待された子供や養育者の行動が理解しやすくなり、適切なケアにつながる。最後の章に取り上げられているトラウマインフォームドケアというものであるが、現在は精神科病院での拘束対応にも、この視点が取り入れられ、効果が出ているそうだ。トラウマインフォームドケアとは、「トラウマの影響を理解し、それにしっかりと対応するためのストレングスを基盤にした枠組みである。トラウマインフォームドケアでは、支援者とサバイバー双方の身体面・心理面・感情面の安全が重視され、サバイバーがコントロール感を取り戻しエンパワーされる機会を提供するものである」とHopper(2009)がまとめられているものが最も分かりやすい。最も対応が困難である子ども虐待の臨床現場で長年取り組んできた著者ならではの成書であり、児童精神科のみならず、大人の精神科現場でも役に立つ本だと思う。