【感想・ネタバレ】「好き」を育てるマンガ術のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

Q どうすれば自分の好きな作品からの影響を自分のものにできますか?
 感動したりキュンキュンしたり元気をもらったり刺激を受けたり、心に残るキャラクターがいたりして大好きな作品ができたときに、「いつか自分でもこんな作品を作ってみたい」と思うこと。僕も何度も思ったことがありますし、作品を作ろうという多くの人がそのような感情を経験しているのではないでしょうか。
 しかしながら、質問にもある通り自分のものにして描かずに、いくら大好きとはいえキャラクターや設定をそのまま真似してしまうと被りどころか、行きすぎるとパクリだと後ろ指をさされかねません。
 残念なことにならないように僕がおすすめしているのは分解することです。例えば、もし僕が担当したろびこ先生の『となりの怪物くん』(2008〜2013)を好きな方がいてくれたとして、キャッチコピーにもしている「冷血女子×超問題児」をそのまま真似して同じような性格、造形のメインふたりのキャラを作ってしまうと被りやパクリになってしまう可能性が高くなります。
 でも、『となりの怪物くん』のよさをもっと突き詰めてみるとどうなるでしょうか。実際に読者の方にもらった感想に、「恋愛をして初めて味わう感情に戸惑う姿がかわいい」、「思い合っているのになかなか想いが噛み合わないのが面白い」、「たくさんの友達と触れ合うことで成長するのが尊い」、「思ったことと反対の行動や言動を取ってしまう当て馬が魅力」などなどがありました
そのような感じで、好きな作品に対して漠然と「全部いいんだよなあ」、「このキャラ最高だよな」と思ったままにしておかず、感想を自分の琴線に触れた部分ごとにひとつひとつ分解してみるのです。
 分解してみたら、今度はトーナメントをしてみましょう。その中で最も自分の心を捉えた要素はどれでしょうか?
 どれかひとつに絞るのが難しいと感じたら、ひとつの作品だけでなく、できれば三から五作品くらいでやってみてください。そうすると、たぶんどの作品にも共通する要素があるはずで、それがきっとあなたの心を一番揺さぶる要素なはずです。
 結果、もし「恋愛をして初めて味わう感情に戸惑う姿がかわいい」が一番だったとしたら、それだけに絞って自分ならどう描くかを考えてみましょう。そうすると、まんま被ることにはならず、自分ならではの作品になっていくと思います。
 難しく言うと、抽象化と再具体化ということなのですが、こうやって分解することで自分の「好き」の本質を探ってみる。それがひとつ。
 もうひとつおすすめしているのが遡ること。ほとんどの場合、あなたが好きな作品もまた何か別の作品の影響を受けたり、他の作品をベースやモチーフにしていたりするものです。それを調べて、さらにもとの作品へと遡っていくのです。大好きな作品は一体何をもとにして、どんなふうにその影響を生かしているのか。大好きな作品とそのもとの作品、両方を知ることでたくさんの学びを得ることができるかもしれません。

 さて。前章でも書きましたが、物語についても行ったり来たりが重要になります。物語についても「パッと一気に最後まで思いつく」ことが重要なわけではないのです。思いつきだけで物語を進めてしまうと、あなたが「本当に」描きたいことが描かれないままになってしまったりするのです。
 例え話として「友達に結婚の報告をするときの話をよくします。何を伝えたいかを最短距離と最大効果に当てはめて話すとすると、「今付き合ってる人がいるって言ってたじゃん。付き合って二年目なんだけどさ、うまくいかないときも多くて、もう別れることしかないと思ってたんだけど。実は今度結婚することになった」ということになります。
 「結婚することになった」という事実を伝えたい、ということに関しては十分目的を果たしていますが、果たしてここで本当に伝えるべき部分はそれでよいでしょうか?
 その話を聞いた友達はおおむねこんな反応をするはずです。「ええ!? マジで? なんで?」。そう、「一体なんでそうなったのか」が知りたいことであり、本来話したい、伝えるべきことであるのです。
 何かを描こうとしたときに、最初の思いつきの段階では、この「なんで?」という興味を沸かせる部分までたどりつけてないケースが多くあり、いったん描いてみて初めて「本当に描くべき」部分に気づくことがよくあります。
「何を描くべきか」に気づき、よりはっきりしてくると、自然と今度は「本当は描かなくていい」ことも出てきます。なので、「行ったり来たり」しながら、描くことと描かないことをはっきりさせていく。
 プロで活躍している人たちは、打ち合わせをするごとに、物語を描き進めるごとに、「本当に描くべき」部分を探していきます。これを描くべき部分の「解像度を上げる」と言ったりしますが、せっかく一生懸命に描くのであれば、描きたいものの解像度を上げて「本当に描くべき」部分にぜひたどりついてほしいです。

鈴木海 長く続けてもらいたいという思いは、僕も常にもっています。それと鈴木さんのおっしゃった「理解できる人を増やす」という話は、主人公だけじゃなくて、周りのキャラクターを作る上でも大切ですよね。主人公以外のキャラクターは、その物語における役割を埋めていくという方法で作っていくことがどうしても多くなっちゃう。でも、「こういう役割のキャラだよね」という考えのみで登場人物で増やしていくと、キャラクターが単なる機能になってしまう。そうならないために、脇役にもそのマンガ家さんの主観が入っていてほしい。すごいマンガ家さんの作品を読むと、「複数の主観」をもっているように感じませんか? その「複数の主観」を獲得するためには、人間観察が大事だと思っています。外からただ漠然とみているんじゃなく、その人の立場になって考えてみる。創作物からキャラクターのバリエーションを学ぶのも大事だけど、他人の視点になって物事を見られるようになると、キャラクターのバリエーションが広がっていくと思います。
鈴木重 人間観察は本当に大事。若い方が多いので仕方がないことではあるのですが、新人のマンガ家さんって考え方の幅が狭い人が少なくない。唯一の正解を特定のマンガに置いてしまっている人も多いので。「複数の主観」を獲得することで、正解を増やしていくことが大切ですよね。

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2023年11月05日

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