【感想・ネタバレ】大学病院の奈落のレビュー

あらすじ

「医の仁術」に背を向けた医師たち。病院内の幼き対立構造には呆れるーー作家・塩田武士氏絶賛!
日本医療ジャーナリスト協会賞特別賞を受賞した話題作を文庫化。

群馬大学医学部附属病院で手術を受けた患者8人が、相次いで死亡していた。
読売新聞医療部のスクープ記事から、医学界を揺るがす大スキャンダルが発覚する。死亡例が積み重なるなかで、なぜ誰も「暴走」を止めなかったのか。
その背景には、群馬大学病院内のポスト争い、学閥、セクハラ問題が影を落としていた――。

2014年に相次いで亡くなった患者・8人の手術は、いずれも早瀬(仮名)という40代の男性医師が執刀していた。
院内調査によって、さらに10人が死亡していたことが発覚。
技量の未熟な早瀬が、超一流外科医でも尻込みする言われた高難度の最先端手術に挑んだのはなぜなのか。
患者には知らされない、保険診療の闇。
旧帝大がいまだに力を振るう、医師会の勢力争い。
乱れ飛ぶ怪文書。
変わることなき「白い巨塔」の病理と、再生への道のりを描いた医療ノンフィクションの傑作。

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Posted by ブクログ

─彼らがやっていたことは医療というより手術工場だった
─まるでアクロバットの披露会
─地域トップの大病院があんな無法地帯だったなんて


衝撃の文言がとびかう、群馬大附属病院で起きた医療ミスと組織隠蔽を追ったルポ。
小説よりも事実が奇なるか確かめたくて手にとった。しかし結果は、なぜ事故が起きたかの原因が「誰か」のせいではないと知った。犯人がいないことが、逆に奇ではないと言える証左なのかもしれない。

2010〜14年を中心に、膨大な取材からデータと証言と推論で完璧に仕上げられている。敢えて推論と言うのは、肝心の執刀医と教授だけ取材に応じていないから。
とはいえ悪役は執刀医だけでもなければ教授でも病院でも、学会や厚労省でもない。強いて言うなら全員がワンオブゼム。冒険的な先進医療にストップをかける仕組みに欠いていた。実態は、患者の命を二の次にして繰り広げられていた実績レースだったのだ。

人間がもつ功名心という名の欲。

それをセーブする新たな仕組みができて、その中で意識も変わらなければ被害者の無念は浮かばれないだろうと思う。


話は逸れるが、人がおこす災いの元はすべて支配と被支配だ(『模倣犯』宮部みゆき)というフレーズを思い出した。医師と患者は、望むと望まないとに関わらず支配関係が決定している。人間性しか頼るものがない脆弱さがある。
外科医の仕事はすべてに優先していいと考えている(『泣くな研修医』中山祐次郎)というセリフも、強いモラルや自制心をもつ主人公の本音だからこそ安心できた。それでも寝不足で切り刻む危なっかしさを不安視してしまう。外科医の技術が症例数と比例するのは致し方ないとしても。

こうした環境下でモラルハザードを起こさず医療の発展、医師の成長を支える仕組みとは。この事件を契機として医療業界全体が変わりつつあることまで学べた。

本当に勉強になった。
あとがきが追跡調査なのも作者の誠意を感じる。
一般の読者だけでなく、医療従事者の方にもぜひ読んでもらいたい渾身の記録。

さて、先進医療特約は解約しようナウ。

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2024年02月17日

Posted by ブクログ

良くなる為にはその過程で誰かが泣くのか
泣く人を出さない為に良くしていくのか
慣例を壊していくのは本当に骨が折れる

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2025年09月19日

Posted by ブクログ

□問い:腹腔鏡下肝切除術で8人死亡 なぜ執刀医を止められなかったのか?
□答え:院内の勢力争い、功績を評価されたい外科医の心理、安全性・有効性評価の倫理手続きに対する意識の低さがあったため
□所感:
"患者・医療者の診療記録共有―世界の流れと群馬大学医学部附属病院における取り組み"; を読む中で
この本の存在を知り読んでみた
「腹腔鏡手術後八人死亡 高難度の肝切除 同一医師が執刀」(「読売新聞」二〇一四年十一月十四日付朝刊)
の記事が公開され明るみになった
医療事故の概要は 2010年12月から2014年6月までに同院第二外科が行った腹腔鏡下肝切除の手術後、約3ヶ月以内に患者8人が死亡 といったもの
当時はまだ同手術は保険適用外であったため、本来は院内での倫理手続きを経て実施しなければならないが、"高難度手術に挑み院内・院外で実績をあげること" を優先して同科判断で実施されたことに驚いた
第8章 先端医療の落とし穴 に記載されている 元大阪大学名誉教授で公衆衛生の専門医である多田羅氏の
コメントが印象に残ったので抜粋する
「患者と医師は決して対等になることはありません。なぜなら、病気を治してほしいと切望する患者は、医師にすがるような必死の思いでいる。医師が熱心に説明すればするほど、患者は「お願いします」と言うしかなくなり、医師が勧める選択肢に誘導される。その力関係は非常にはっきりしている。だから結果的に、患者はリスクを押しつけられることになりかねないのです」
地方にいけばいくほど大学病院は"最後の砦"としての存在が大きくなる
かかりつけ医から紹介され同院を受診し最後の望みを医師に託した患者さんの希望とは裏腹に"患者さんを救う"といった本来の目的から外れた医療行為が当時行われてしまった事実があったことになんとも言えない気持ちになった
さいごに 執刀医、そして同医師を管理する診療科の責任者であった医師はいまもどこかで医師として働いているとのこと・・

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2024年09月01日

Posted by ブクログ

政治的な背景により「手術工場長」に選ばれた執刀医による異常な死亡率の医療事故。人柄は悪くないだろうが業績の水増しや隠蔽は医療の4原則に反しているとみられる。
丹念な取材で最後に群馬大学病院による現状改善まで書かれている。亡くなられた患者さん達もこれを以て瞑すべしとなるかは定かではないが…

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2024年04月19日

Posted by ブクログ

群馬大学病院で腹腔鏡手術を受けた8人の患者が死亡するという医療事故に関する医療ノンフィクション。

死亡事故全てを執刀した若い医師の個人の責任に止まらず、相当な技術が必要とされる腹腔鏡手術を、ここまでの死者が出ても止めることがなかった病院としてのガバナンスに問題があるとして、丁寧にその要因がまとめあげられる。その過程では「安全な手術だから」という医師の言葉を信用して手術に同意してしまったという遺族の悲しみと怒りを拾い上げていく。

医療事故を起こすのは決して、技術が低い一個人の問題だけではなく、むしろそうした一個人の暴走を許してしまう組織的なガバナンスの不備にあるという洞察は、医療事故に限らず企業での不祥事にも共通するものがある。

また、本書では優れた高度医療期間としての権威を失墜させた群馬大学病院が、反省と再発防止策のもとでどのように信頼を取り戻していっているかというプロセスについても、冷静な目で記載されており、医療事故の発生前後を長い時間軸で捉えている点も、本書の価値を高めている。

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2023年10月08日

Posted by ブクログ

群馬大学病院の腹腔鏡手術の事故のルポ。
技量、患者とその家族に対する思いやり、医師としての覚悟全てが欠けた医師による起こるべくしておきた事故とわかる。メスよ輝けにでてくる渡瀬を思い出した。

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2023年05月15日

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