感情タグBEST3
Posted by ブクログ
─彼らがやっていたことは医療というより手術工場だった
─まるでアクロバットの披露会
─地域トップの大病院があんな無法地帯だったなんて
衝撃の文言がとびかう、群馬大附属病院で起きた医療ミスと組織隠蔽を追ったルポ。
小説よりも事実が奇なるか確かめたくて手にとった。しかし結果は、なぜ事故が起きたかの原因が「誰か」のせいではないと知った。犯人がいないことが、逆に奇ではないと言える証左なのかもしれない。
2010〜14年を中心に、膨大な取材からデータと証言と推論で完璧に仕上げられている。敢えて推論と言うのは、肝心の執刀医と教授だけ取材に応じていないから。
とはいえ悪役は執刀医だけでもなければ教授でも病院でも、学会や厚労省でもない。強いて言うなら全員がワンオブゼム。冒険的な先進医療にストップをかける仕組みに欠いていた。実態は、患者の命を二の次にして繰り広げられていた実績レースだったのだ。
人間がもつ功名心という名の欲。
それをセーブする新たな仕組みができて、その中で意識も変わらなければ被害者の無念は浮かばれないだろうと思う。
話は逸れるが、人がおこす災いの元はすべて支配と被支配だ(『模倣犯』宮部みゆき)というフレーズを思い出した。医師と患者は、望むと望まないとに関わらず支配関係が決定している。人間性しか頼るものがない脆弱さがある。
外科医の仕事はすべてに優先していいと考えている(『泣くな研修医』中山祐次郎)というセリフも、強いモラルや自制心をもつ主人公の本音だからこそ安心できた。それでも寝不足で切り刻む危なっかしさを不安視してしまう。外科医の技術が症例数と比例するのは致し方ないとしても。
こうした環境下でモラルハザードを起こさず医療の発展、医師の成長を支える仕組みとは。この事件を契機として医療業界全体が変わりつつあることまで学べた。
本当に勉強になった。
あとがきが追跡調査なのも作者の誠意を感じる。
一般の読者だけでなく、医療従事者の方にもぜひ読んでもらいたい渾身の記録。
さて、先進医療特約は解約しようナウ。
Posted by ブクログ
政治的な背景により「手術工場長」に選ばれた執刀医による異常な死亡率の医療事故。人柄は悪くないだろうが業績の水増しや隠蔽は医療の4原則に反しているとみられる。
丹念な取材で最後に群馬大学病院による現状改善まで書かれている。亡くなられた患者さん達もこれを以て瞑すべしとなるかは定かではないが…
Posted by ブクログ
群馬大学病院で腹腔鏡手術を受けた8人の患者が死亡するという医療事故に関する医療ノンフィクション。
死亡事故全てを執刀した若い医師の個人の責任に止まらず、相当な技術が必要とされる腹腔鏡手術を、ここまでの死者が出ても止めることがなかった病院としてのガバナンスに問題があるとして、丁寧にその要因がまとめあげられる。その過程では「安全な手術だから」という医師の言葉を信用して手術に同意してしまったという遺族の悲しみと怒りを拾い上げていく。
医療事故を起こすのは決して、技術が低い一個人の問題だけではなく、むしろそうした一個人の暴走を許してしまう組織的なガバナンスの不備にあるという洞察は、医療事故に限らず企業での不祥事にも共通するものがある。
また、本書では優れた高度医療期間としての権威を失墜させた群馬大学病院が、反省と再発防止策のもとでどのように信頼を取り戻していっているかというプロセスについても、冷静な目で記載されており、医療事故の発生前後を長い時間軸で捉えている点も、本書の価値を高めている。