あらすじ
気づけば深い闇のなか――小説投稿サイト・エブリスタに集まった10万作超の中から、身も心も震える恐怖の物語ばかりを集めた短編集。
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Posted by ブクログ
祖母の家には座敷牢に神棚の冷やご飯を供えるという謎の習慣があった。父方の祖母の家に預けられた私は、祖母に叱られながら、冷やご飯を供える役割をしていた。やがて空っぽであるはずの牢の中に何かしらの気配を感じるようになる。
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久しぶりの5分後シリーズ。表紙のおどろおどろしさにひかれて購入した気がする。
5分で一話読み切れるシリーズ。こちらのシリーズは初めてかな?ほかの出版社から出ているシリーズもこちらのシリーズも怖い部分しか買わないので……。
こちらのシリーズは全体的に灰汁の強い作品。テーマは様々だが、タイトルにあるようにどの話も「最悪のラスト」を迎える。
話の雰囲気や文体はいつも読んでいる5分間シリーズより難しい感じなので、ちょっと対象年齢は上の方なのかも。その所為か、話の内容もいつも以上に容赦がないかつ恐ろしい。
全部で13編載っているが、その中からお気に入りの話をいくつか。
「雑踏」
会社員である諒子はいつも通り会社からの帰路を急いでいた。ふと、自分を呼び止める声がして振り返ると見たことがない男が物腰柔らかに、宝石が付いた上等な万年筆を諒子の落とし物だと差し出してくる。自分の物ではないと返事をすると、男は舌打ちをして去っていった。意味不明なやり取りに首をかしげながらも、帰宅する諒子。
そしてその一週間後、品は違うものの同じ男が同じセリフを吐き諒子に物を渡そうとする。さすがに怖くなってきた諒子は強く断ると足早にその場を去った。
だが、更にそれから数日経って再びその男に再び声をかけられてしまい……。
人の悪意が凝縮した話だった。諒子を陥れようとする相手の執念がすごい。用意周到というか、本当に綿密に計画して、計画して実行した作戦といった感じ。
何がそこまで犯人を突き動かしたのかは分からない。それは些細なことだったのかもしれないが、相手にしたら耐え難い事だったのかも。でも最近はウザいというだけで相当恨まれたり、排除されそうになったりするので一概にはそういえないかも。
原因になることが自分のあずかり知らぬところで発生していることもあるしなんとも難しい。
作中では行動に移すきっかけになった出来事は書かれていないので推測することしかできないが、犯人は相当諒子を恨んでいて、本気で貶めようとしているというその事実に寒気がした。ある意味その根性にあっぱれ。
「選ばれた生贄」
父親を事故で亡くした私は、母と一緒に九州へと引っ越した。中途半端な時期に転校生となってしまった私は、クラスになじむことができずいじめられる日々を過ごしていた。
学校が終わっても遊ぶ人もおらず、また一人で生計を支えている母のために家事をしていた私は、ある日近所のおばあさんの荷物運びの手伝いをすることに。お礼にお茶に誘われ、その日からおばあさんとのお茶が習慣になっていった。
その年の11月初旬。いつもは明るいおばあさんの表情が暗い。訳を聞いてみるとかつておばあさんが子供だった頃、住んでいた村で行われていた恐ろしい儀式についてぽつりぽつりと語り始めたのだった。
村の因習についてのホラー。途中経過も結末もなかなかにショッキングなので注意。
最初は私が過ごしていた寂しい日々に光がさして、楽しい雰囲気になりつつあったのに、おばあさんが自分が昔儀式で行ったことを話し始めたあたりから事態が急展開。
話したことで事態が動き始めたのかな?と一瞬思ったが、多分この土地では前からそういうことがあったのではないかと思う。
ただ、その事件が起こるスパンが非常に長いので前後の関連性が見いだされることはなさそう。
起こった事件のぞれぞれが関係しているという結論に至れるのは、村の因習を知っているおばあさん(真実に気付いているかどうかは不明)と主人公だけだろう。
主人公は成長し、自分の身の回りで同じようなことが起こるようになってから、真実に気付いたが、気づいたところでどうしようもない。
もう半分以上影響を受けている様子だし、あと何年持つか……。主人公はもはや受け入れようとしているし、もう駄目なのかもしれない。
「百話目の怪談」
暑さに辟易していた私は、納涼のためお寺で開催された百物語に参加することにした。
簡略化されながら、可能な限り正当な百物語に近づけようとしたその大会は、中々に雰囲気がある。
しかし、語り手達は大半が素人なので、聞いた事のある話や、怖さがいまいち伝わってこない話など様々だ。だが、そこはご愛敬。めいめいに話しながら、雰囲気を楽しんでいた、私と参加者たち。
そして、いよいよ99話目という段になり、ここで怪談師の様な男が語り始める。
その話が語り終えられたとき、何が起こるかも知らずに……。
怖いが、中々ユニークな終わり方を迎えた話。かなりユーモラスで好きだ。
99話目のトリとして話される怪談話自体はなかなかに怖い。怪談話のオチ自体は都市伝説で何度か焼き直されたものであったのはやや残念であるが。
それでも、臨場感のある話っぷりはまさに怪談師の様で素晴らしい。
そしてやっぱり、最初に述べた通りこの物語自体のオチが最高。
そういう終わり方かー!と感心してしまった。とっても面白い。最後の怪談を話した男の人の語り口も飄々としていて、深刻さを感じさせないので肩の力を抜いて読めた。
ただ、ラストろうそくが消えた後に何か起こっていたとしたら、参加者たちはたまったものではないので、場を盛り上げるための悪い冗談であったことを祈るばかりだ。
さて、13編のうちお気に入りの3編を紹介したが、他の10編も甲乙つけがたいぐらい面白かった。
できれば全部紹介したいぐらいだが、私の力量ではそれがかなわず、とん挫する可能性が高そうなので、ご容赦ください、と言いたい。
どの話も面白かったので、またこんな短編集を編んでほしいなぁ。