『ハルコロ(1)』の続き。
アイヌの少女ハルコロと、美しいいとこウマカシテ、隣のコタン(村)のペケンノウ"ク"("ク"はアイヌ語仮名の小書き文字)、ペケンノウ"ク"の家で召使として働くウナヤンケ。4人の恋のもつれた糸はなかなか解きほぐせない。そんな中、ウナヤンケの父が性悪のキムンカムイ(クマ)に殺される。ペケンノウ"ク"の父もその場にいたらしいのだが・・・。
父の仇を討とうと山に入るウナヤンケ。果たしてクマを倒せるか。
クマ騒動が一段落したころ、ハルコロのコタンではイヨマンテの祭りがおこなわれる。イヨマンテというとよく知られるのは「クマ祭り」だが、実は対象はクマには限らない。イヨマンテは「それ(カムイ)を行かせる」の意で、動物の姿をしたカムイ(神)を「殺し」、神の国へ返すことを意味する。
本作では、クマよりもさらに上位のカムイとされるシマフクロウ(「コタンコロカムイ」)のイヨマンテが描かれる。
イヨマンテは「神を送る」重要な儀式だが、要は、幼いうちに捉えた動物をしばらく大切に飼い、それを殺すことである。たとえ、殺した動物が神の国に戻るのだと信じていても、実際に飼育していた者には悲しい別れの出来事でもある。シマフクロウを大事に育てていた女の子もエピソードも差しはさまれる。
イヨマンテは、コタンの繁栄を祈る大切な祭り。何日も祝宴が開かれ、名人たちがサコロベやマッユーカラを語る。これらは口承文学の一種で、英雄や動物たちの物語を節にのせて語るもの。名人はいくつもの物語を覚え、長いものでは数昼夜にも渡って語りが続くものもあったという。アイヌは文字を持たないが、文学は文字だけではない。豊饒な語りの世界が存在していたのだ。
イヨマンテでは、物語の途中で語るのをやめ、続きが聞きたいと思ったカムイがまたコタンを訪れてくれるように願ったという。
盛大な祭りはまた、恋が発展するチャンスでもある。多くの若者たちが相手に想いを告げる。ハルコロやウマカシテの恋も大きな山場を迎える。
後半は、めでたく母となったハルコロの出産、そして新天地を求めて旅立ったその息子の物語となる。
物語の幕切れは、不穏で、和人との大きな戦の直前で終わる。コシャマインの戦い(1457年)である。
原著者の本多勝一は、既刊の『アイヌ民族』(朝日文庫)を第一部とし、三部作として構想していたようだ。第二部はコシャマインの戦いから明治まで、第三部は明治以降、現代までである。第二部・第三部はこれまでには出版されていないようである。第一部が出てからかなり経っており、原著者が高齢であることを考えると、続編が出る可能性はあまり高くはなさそうだ。
本作は本多の原作に沿いつつも、石坂のオリジナルの部分も2,3割はあり、というところのようだ。登場人物たちの話す言葉にさりげなくアイヌ語が差しはさまれ、生き生きとした親しみやすいストーリー展開である。肩ひじ張らずに読め、アイヌ文化の理解が深まる。巻末の解説も作品背景をより深く知る手助けとなる。