遠藤乾のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
単にスピード感だけで時事のことを扱う、内容の薄い新書も多い中、本書は本当に質の高い新書だと思います。EUが今抱えてるいろいろな問題について、それぞれ丁寧にここにいたる経緯や状況の変化を説明してくれます。
内容が本当に盛りだくさんでまだまだ咀嚼できてない(いい意味でもう一度読みたい)のですが個人的には、シェンゲンであったりユーロであったり目に見えるメリットを与えてくれていたEUが、まさにそのメリットである部分から大いに問題(ユーロ危機、難民問題、テロリストの問題)が生じてしまっているということが一番大きいのかなとこの本を読んで感じました。一方で、欧州か議会というものに対して直接選挙ではあるが遠 -
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ネタバレ日本を代表するヨーロッパ統合研究者によるEU論。
「複合危機」における「複合」とは、「複数性」(複数の危機が同時多発的に発生していること)、「連動性」(これらの危機が互いに連動し、相乗効果をもたらしていること)、「多層性」(危機が国際、EU、加盟国、地域・地方といった多次元で起きていること)を指す。
2016年出版ということで、「複合危機」を具体的に扱った第Ⅰ部は、今日においてはやや古さは否めない。しかしながら、今世紀の危機を政治学的に分析した第Ⅱ部は、大変読み応えがあった。
とりわけ、機能的にはさらなる統合の深化が必要であるにも関わらず、民主的な正統性を得られないために統合が滞り、さら -
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ユーロ危機、欧州難民危機、ウクライナ危機やパリ同時テロ事件といった安全保障上の危機、イギリスの国民投票によるEU離脱決定という、2010年代のEUを襲った複数性、連動制、多層性を持った危機を「欧州複合危機」と捉え、EUが大きな分岐点にあることを指摘した上で、それぞれの個別の危機を振り返るとともに、欧州複合危機の背景や構造を歴史的、政治学的に分析し、今後の展望を示している。
本書では、歴史的には、EUは、ドイツ問題と東西冷戦の解決の手段として形成されてきたが、現在のEUは「問題解決としてのEU」から「問題としてのEU」になってしまっていることが指摘される。そして、それを読み解くキーワードとして「 -
Posted by ブクログ
学者先生の本というのは、どうにもお堅いものが多い印象で、この本もお堅いなあと感じました。
ただ、文章こそお堅いものの、難解な表現はそれほどなく、EUのことなど全然よくわかっていなかった自分にも、EU事情をだいぶ整理することができました。
この本で特に注意すべきは、大要次のとおりだと思います。
いま世間の人々をエリートと大衆という形で大雑把に二分した場合、大衆のエリート不信が高まっている、ということです。
我が国でも左派とかリベラルとか言われる人たちが選挙の得票はからっきしで、アメリカであればポピュリズムと言われながらもトランプ大統領が誕生したわけですが、これは断じて軽視すべからざる -
Posted by ブクログ
20世紀に戦火にまみれた欧州を国境を越えて統合する壮大なイニシアチブは、ユーロ・ギリシア危機をはじめとして、シリアからの難民や、テロ、そしてはたまたBREXITと、2010年代に入って次々と困難に渦に飲み込まれることとなります。
PWCの予測ではEU加盟国が世界のGCPに占める割合が10%未満へ低下する、としています。そうした中、欧州はアメリカそして今後より成長していく新興国(中国、インド、ロシア、ブラジルなど)に伍していくために、より一層バーゲニングパワーを結集させていく必要があることでしょう。著者は、そうした競争的側面から、EUは存在意義があることを本書の後段で述べています。
一方欧州