Webのおかげで、個人が簡単に発信できるようになったが、個人そもそも発信に際して守らなければならないルール、気を付けるべき事項を改めて知っておくべきという問題認識。
著者は、小学館で編集総務部長として、訴訟処理、人権差別問題、編集倫理問題と取り組んだ経験があるだけあって、生々しい事例が豊富に紹介されていて、大変面白かった。
以下、引用。
・著作物とは
「…逆に、著作物ではないものを知ることが早道だろう。例えば、歴史的な事実や科学的なデータは創作的な表現でないので、著作物ではない。しかも、思想、感情にもあてはまらないから、重ねて著作物ではない。
続いて、思想・感情は込められていても、個性が現れていないありふれた表現や、誰が取り組んでも同じような定石的で決まりきった表現も、創作性がないので、同様に著作物ではない。…
また、アイデアや思想そのものは表現物ではない。誰かが一言口にしたプランや特集する企画記事の着想の源―これらはまず、表現物になっていない情報という段階では「創作的に表現されたもの」ではないため、著作物ではない。…
小説や漫画を読んで、その作品に触発されて湧き上がってきた着想をきっかけに全く別の作品を作り上げたとしても、法的には問題はない。夏目漱石の『吾輩は猫である』を読んで、『吾輩は犬である』の世界観の小説を作っても大丈夫だ。…アイデア・着想の類似は著作権的な問題とはならない。
・著作権エキスパートとして「引用」成立の基本ルール6条件
1.公表された著作物か:手紙・日記など未公表のものはダメ。
2.使用目的に必然性があるか:本文で表す自説の照明や補足などのためであり、使用理由に根拠があること。必要最小限であることが条件。
3.主と従の関係があるか:あくまでも自分の文章が量的にも主であり、引用するほうは従であること。
4.明瞭に区分されているか:引用したい文章は、段を下げたり書体や大きさを変えたり「」でくくったり、はっきりと区別する。
5.改変してはいけない:原文に手を加えてはいけない。勝手な修正はいけない。
6.出所を明示しているか:引用した文章、絵画、写真など、そのすぐ近くに入れるのが最善。書誌名、著作者名、出版社名を書き添える。
・著作権と商標権の相違について
「ところで、著作権は著作物を創作した時点で自動的に発生する。出願し登録する必要はない。しかし、商標権は、日本では特許庁に出願し、登録を認められないと発生しない。これは、特許、実用新案、意匠も同様である。しかも、商標登録後の10年が存続期間で、更新手続きをおこなわないと権利を継続できない。著作権には著作者の死後50年間という保護期間の規定があるが、商標権には保護期間の定めはない。だが、商標は更新を続けるかぎり、10年単位で半永久的に権利を保持できるともいえる。この違いを知っておく必要がある。」