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ある日、突然姿を消してしまったシンガーソングライター・多野小夜子。ファンも友達も恋人も、彼女の行方を誰も知らない。多野小夜子が消えたことによって、僕たちの生活は少しずつ変化していくーー。彼女を知らない人にとっては取るに足らないことだけど、僕らにとって彼女は「かみさま」だったんだ。 宮崎と東京を舞台に、6人の男女が織りなす淡く美しい群像劇。
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Posted by ブクログ
かわいそうな人は、かわいそうではない。何かが欠けているのを、上手に隠せないだけ。短所は個性だと誰かが言っても、その揺るぎない不安感を言葉にすることもできない。比べて、苛まれて、本当は認められるはずの個性を、誰にも認められないまま死んでいく。 まぶしく在れば、何かが欠けていてもいいのか。私はまぶしく...続きを読むないから、小さな翼しか生えていない。着の身着のままで生きるべきだと、誰かに教えられた訳でもないのに、無意識的に私が私を無価値に思わせる。誰が悪い?誰も悪くない。ただひとりだけの「かみさま」の、背中の翼がまぶしかった。 情緒や愛の上限を、知らずに生きていくことの無謀さを、僕は指折り数えて生きる。指に唾をつけても変化はないが、僕はそれを保身の手立てにしている。興味がないものに愛を撒けない。僕のどれたけの弱さを、あなたはどれだけの弱さで数えてくれるのか。屈折する光に倣って、僕は僕なりに傷ついてみる。 表現し続ける日々は、限りなく自傷に近い。取り留めのない私は、私をすり減らして、取るに足らない日々を消化する。何もかも持っている純潔な「かみさま」にはなれない。私は薄汚れて埃を纏った、誰をも救えない芥だから、誰よりも私は幸せになれない。私のことを見てくれる人なんて、どこにもいない。 一人よりも二人の方が、寂しくなるって知らなかった。あなたとの心地よい退化は、僕も誰もあなただって知らない。死にたくなったこともない僕に、あなたの気持ちは解らない。でも、正しく生きることに精を出せない。「かみさま」は、己を犠牲に表出することを、死んでも辞めようとしなかった。 どうしようもなく悪い人、はいない。だから「ヒーロー」も「かみさま」もこの世には存在しない。道理がかなってない。でも僕は失った時、「かみさま」に掬い上げられた。僕はまぶしくのない捨て猫なのに、あなたは僕をかわいそうだと思ってくれた。 でも僕が悪い人のレッテルを貼られた時、あなたは「ヒーロー」ではないと解ってしまった。僕はかわいそうな自分が好きなだけだった。 その情緒の支柱が消滅した時、僕はあてどない虚無感と不安感を一心不乱に吐き出すことしかできなかった。その先、この世界で一人だけの偶像を、僕なりの解釈で感情的に包みこもうとした。あなたの知らない顔を、僕はただかわいそうという言葉でしか理解ができなかったのだ。 私の「かみさま」は、私のことを置き去りにしていった。少しだけでも、さみしいと思ってくれているか。私は、さみしいと思ってくれる誰かを、花瓶いっぱいに詰め込むことができただろうか。そんな私のひみつの話を、誰が純潔な心で受け止めてくれるのだろうか。 わたしはかわいそうなひと。
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取るに足らない僕らの正義
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川野倫
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