マイスモールランド

川和田恵真

第72回ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞・特別表彰を受けた映画「マイスモールランド」を監督自身が小説化！

ここにいたい。願うことも罪ですか？日本で暮らすクルド人少女の願いと闘いの物語。
幼いころから日本で育ち、埼玉の高校に通うクルド人の少女サーリャは、バイト先で東京の高校生・聡太と出会う。県境を流れる荒川の岸辺で、少しずつ心を通わせていく二人。しかしある日突然、在留資格を失ったサーリャの家族は、就労を禁じられ、自由に移動することもできなくなる……。
現代社会の不条理を、居場所を求めて闘う一人の少女の視点で描き、ベルリン映画祭で高く評価された映画「マイスモールランド」（2022年5月6日公開・嵐莉菜、奥平大兼出演）を監督自ら小説化した注目作。
第72回ベルリン映画祭ジェネレーション部門正式招待

• カテゴリ: 小説・文芸
• ジャンル: 小説 / 国内小説
• 出版社: 講談社
• ページ数: 208ページ
• 電子版発売日: 2022年04月26日
• コンテンツ形式: EPUB
• サイズ(目安): 1MB

[ブクログ · ★★★★★]

在日クルド人一家を通して日本の入管行政の冷酷さを描いた映画。クルド人チョーラク・サーリャは幼い頃に家族と共に来日した。埼玉県で父のマズルム、妹のアーリン、弟のロビンと暮らし、高校に通っている。小学校の教師になるという夢を持ち、大学進学のためにコンビニエンスストアでアルバイトしている。

マズルムは政府から弾圧されて出国しており、日本で難民の申請をしたが、却下されてしまう。日本政府は難民認定に消極的である。難民申請却下を告げ、在留カードに穴を開ける公務員の態度は機械的で冷酷である。他人の生活を考えようともしない。

在留資格を失ったサーリャ一家は就労を禁じられ、県境を越えて移動することもできなくなる。居住地の都道府県から出るためには入管の許可が必要である。まるで『翔んで埼玉』の世界である。移動の自由も職業選択の自由も基本的人権である。他人の生活を何だと思っているのか。

マズルムは不法就労していたとして収容施設に入れられてしまう。マズルムは強制送還を希望するようになる。帰国したら弾圧されることが予想できるにも関わらずである。これは出入国在留管理庁の人権無視の過酷な扱いで人格が歪められてしまったのではないかと思わせる。現実に名古屋出入国在留管理局では体調不良を訴えていたのに適切な治療を受けられずにウィシュマさんが死亡した事件が起きていた。

マズルムの強制送還希望には続きがあった。出入国在留管理庁はマズルムに裁判で争わずに帰国すれば、子ども達には特別在留許可を出すとの裏取引を持ち掛けたという。相手の弱みに付け込む卑怯な手口である。子ども達に特別在留許可を出すならば父親が一緒にいた方が安定した生活になる。父親を強制送還することは公務員の点数稼ぎである。

[ブクログ · ★★★★★]

トルコから迫害を逃れて日本に来たクルド人サーシャ一家は、難民申請しながら日本に10年以上暮らしていたが、突然難民申請が不認定となり、仮放免の暮らしになる。「就労禁止、在住県から移動禁止、大人ひとり20万から30万円の保証金の納付、保険が自費など、その条件の厳しさ不便さに愕然とする。
そのルールは守れるはずもなく、破れば入管に収容される。
そしてサーシャの父親も。
これが現実に日本で起きていることなんだ！

[ブクログ · ★★★★★]

監督自らが映像作品を文章で表現した作品。読んでいると、映像の美しさが甦ってくる。
そして、映画では描かれなかった「お母さん」の姿や、トルコから日本へ逃れてきた道程も描かれるので、サーリャの思いに、より深く触れることができた気がする。そして、お父さんの、悲しく、深い、子どもたちへの思い、クルドへの思いも。
故郷はここだというサーリャたちの（たくさんのサーリャたちの）思いに、日本はなぜ、応えてあげられないのかと口惜しい。

[ブクログ · ★★★★☆]

何て日本は冷たい国なんだろう。難民申請が通らないだけでなく、難民に対しての非情さ。日本で生まれた難民二世の親を収容する、就業させない。どうやって生きていけ、と言うのか。日本人には手厚い補助や支援があり、法で守ろうとしてくれるのに、なぜ難民には法で自由を奪おうとしるのか。その一方でら難民のために奔走してくれる山中弁護士のような日本人やサーニャと心を通わせる聡太がいることが救い。

[ブクログ · ★★★★☆]

僕はある一時期川口に住んでいて、蕨がとても近かったです。でもその頃はまだここまでグルド人の町にはなっていなかったはず。そういう認識ありませんでしたので。
国を持たない世界最大の民族と言われているそうで、トルコからの迫害で日本に亡命を希望している人が沢山いて、蕨周辺に集まり「ワラビスタン」なんて言われているようです。

日本は移民の受け入れに非常に消極的な国な上に、日本とトルコは昔から関係が深いのでなかなか難しい問題になっています。そんな亡命希望の親子、そして日本で生まれもはやパーソナリティーが日本人でしかない子供たち。それでも受け入れず仮認定すら取り消す日本。アイデンティティをどこに持てばいいのか、基本的な人権すら保障されない立場で生きて行かなければいけない。働かないと生きて行けないのに就労を禁止されてしまう人たち。八方ふさがりの中で夢に向かって努力するクルド人の少女「サーリャ」の目線で見たとき、
日本がどれだけ冷たいか慄然とする事でしょう。
受け入れる事だけが道だと言うつもりはありませんが、これから人口が減って衰退していく日本。血統だけを大事にして重要なところを置き去りにしていないでしょうか。

[ブクログ · ★★★★☆]

障がい者、LGBTQ、加害者家族…少数派にココロを向け、認めていこうという動きを耳にすることがしばしばある。でも不法滞在に対しては聞いたことがなかった。私たちは、他国の人に対して本質的に無関心なのだ。

[ブクログ · ★★★★☆]

小説として面白いか否かを超えて、「自分が知らないところで、こんな現実がある」ということが知れて、それだけで読めて良かった。
「クルドって知ってますか。私の国はないんです」という主人公のモノローグ。でも私がとれるリアクションも、友だちになった聡太と変わらんのよ。大人なのに。
そういう意味で、多くの人に読まれたらいい。

[ブクログ · ★★★☆☆]

僕にとってのクルド人は、船戸与一氏の『砂のクロニクル』が描く戦士に留まっていた。国をもたないクルド人が、聖地奪還と独立国家樹立を悲願に戦う。しかし、彼らが歴史に刻もうとした足跡は、タイトル通り砂に記す記録のごとく虚しく消え去る。当時クルド人たちが来日、集住されるとは思ってもいなかった。あれから三十数年を経て、とりわけ今後は一気に難民をはじめ移民は増える。コロナ禍前に改正入管法が施行されたが、労働者不足を補う思惑が強く、最近はこうした小説に学ぶことが多い。ただ、綺麗事では守れないものもある。拙速は望まない。

[ブクログ · ★★★☆☆]

映画の副読本として良い。映画をもう一度観たくなった。巻末掲載の参考文献/資料も絶妙な分量。片っ端から読んだり観たりしていきたい。

[ブクログ · ★★★★☆]

難民として、幼い頃に家族と日本へやってきたクルド人のサーリャ。成長するにつれて、クルドとしての誇りを持って生きる父に対して、違和感を覚えるようになり、ついに初めて衝突してしまう。そんな中、彼女たちの難民申請が不認定となり、仮釈放の処分を受ける。

生まれ育った日本にいながら、他所者として自由を奪われるサーリャたち。
当たり前にこの場所で築き上げてきた全てのことが崩れ落ちてしまう恐怖や不安、どこにも所属できない孤独感が彼女を苦しめていく。
自分は誰なのか、ここにいていいのかという問いの答えを見つけようともがく姿に胸を打たれた。

仮釈放処分となった人々は、就労も許されず、県外への移動も許可が必要になる。また、入管に拘束され、何年も出られないという人もいるそうだ。
彼らは紛争で祖国を追われ、やっとの思いで行き着いたこの国でも、制度の狭間で居場所を奪われそうになっている。
いつこの国から追い出されるか分からない不安の中、生きている人が今もたくさんいるのだと思うと、もっとこのことをよく知らなければと感じる。