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「買えなければ盗んでも自分のものにしたくなるような絵なら、まちがいなくいい絵である」。かつて小林秀雄が「今一番の批評」と称賛し、美術エッセイ「気まぐれ美術館」で人気を博した洲之内徹。陰惨な戦争体験を引きずり、癒すことができない飢えを抱えながら、屈託のある達観の文を書いた。振り返られることが少なくなった異才の随想を、稀代の美術評論家・椹木野衣が選りすぐったコレクション。
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Posted by ブクログ
芸術新潮に「気まぐれ美術館」という人気エッセイが連載されていることは当時耳にしたことはあったものの、その頃は美術方面にあまり関心がなく読むこともなかったが、文庫本として刊行されたので読んでみた。 ”気まぐれ”というタイトルのため軽妙洒脱な文章・内容なのかと先入観を持っていたのだが、実際読んでみ...続きを読むたら勝手が違った。もちろん「どんな絵がいい絵かと訊かれて、ひと言で答えなければならないとしたら、私はこう答える。―買えなければ盗んでも自分のものにしたくなるような絵なら、まちがいなくいい絵である、と。」とあるように、自分がいいと思った絵についてのその熱い気持ちは分かるのだが、この本に選ばれた文章全体からは、好き嫌いが激しく、ちょっと狷介で、心の奥底に曰く言い難い暗いものを持っていた人という印象を受けた。その辺りは、若い時代の転向や戦中の北支での共産軍の調査活動といった体験も何かしら影響しているのかもしれない。 「芸術新潮」に連載されていたくらいだから、もちろん絵のことには触れられているのだが、普通に言う絵画評論ではなく、絵との関わりに仮託して自らの人生を語る私小説的なエッセイと言えば良いだろうか。編者のセレクションによりほぼ時代順に各篇が配列されているので、著者の生活や人生観、芸術に対する考え方などの変化や推移が窺われるようになっている。 本書で取り上げられている画家の中では松本竣介、中村彜、林倭衛、鳥海清児、村山槐多といった人たちの絵は見たことはあるが、佐藤哲三、海老原喜之助、森田英二、小野幸吉、加藤太郎、佐藤渓、島村洋二郎といった人たちは名前も知らなかった。著者が文章にし、画廊で展覧会を開催したりしたことで、忘却から甦った人たちもいるらしい。 カバー画に使われているのは、海老原喜之助「ポアソニエール」という作品で、戦時中山西省太原にいた著者は同地でこの作品を画集で見て感動、戦後引き揚 げてきて、あるひょんなことから現物を目にして、力ずくと言っていいほどの熱意で手に入れる。確かに、頭に魚の入ったカゴを乗せた女性の眼差しは美しいし、簡素な服の色合い、瑞々しくイキの良い魚の描写も見事だ。 洲之内コレクションは現在宮城県美術館に引き取られているとのこと。同美術館は2026年6月にリニューアルオープンだそうなので、一度観に行ってみたい。
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