国内小説 - 講談社 - 講談社文芸文庫作品一覧

  • 西海原子力発電所/輸送
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    原子力発電所をかかえる閉鎖的な地域社会のなかで起きた一件の不審火。原発の危険性と経済的依存との葛藤を劇的に描きつつ、〈原爆文学〉と〈原発文学〉とを深く結びつけた記念碑的労作「西海原子力発電所」。チェルノブイリ原発事故を受け、核廃棄物輸送事故による被爆と避難生活がもたらした生活の破壊と人間の崩壊を予言した「輸送」。3・11でフクシマ原発事故を経験した現在から、先駆的〈核〉文学はいかに読み解かれるか。
  • ロッテルダムの灯
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    戦地における命あるものの美しさと儚さ――作家・庄野潤三の兄で、数多くの児童文学作品を世に残した著者が、従軍した中国や東南アジアで胸に刻まれた命あるものの美しさ、尊さ、儚さを、異国情緒をまじえて綴った初めての随筆集。戦中の思い出と戦後の日本、欧州とが絡まり、作者自らが「何よりも愛着深い作品」と述懐した、エッセイストクラブ賞受賞の名作。児童文学の大家である著者が、従軍した際の経験をまとめた名随筆集にして、弟の庄野潤三をして「英ちゃんのいちばんの名作」と言わしめた作品。
  • わがスタンダール
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    ファブリスを中心にみれば、『パルムの僧院』は宛然一個の冒険小説である。―――スタンダールに魅了され、それを終生問い続けた当代屈指のスタンダリアン=大岡昇平。綿密な探究と思考、対象を徹底的に見極めようとするダイナミックな意志。鮮明な自己認識の大いなる軌跡を示す〈スタンダール論〉34篇を収録した決定版。
  • 才市・簑笠の人
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    念仏に生き、83歳で一生を終えた、下駄職人・浅原才市。下駄作りの際に出るかんな屑に書き残した、1万首に及ぶ信仰の歌……。「わしのこころわ わやわやで/くもともとれの/きりともとれの/かぜともとれの」……無名の庶民の営為に心惹かれて、その謎めく生涯を深く追究した、伝記小説「才市」。一所不住・清貧孤独に徹した良寛の境涯に迫る「蓑笠の人」。信仰を主題の力作2篇。
  • 或る年の冬 或る年の夏
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    性と思想に切り裂かれる青春を、頑なまでに潔癖に生き、後年の著者の、厳しく深い文学と人生を予感させる青春像。昭和初期に青春を生きた知識人が不可避だった「思想」問題、それを自らに苛酷に課した著者の苦闘、家族への深い愛。時代と自分の良心を誠実・厳格に生きた、著者の青春自伝。
  • わが塔はそこに立つ
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    親鸞と時代の社会主義思想に激しく引き裂かれ、自らの底深くに敢えて矛盾を取り込み、超えようと苦闘する、主人公・海塚草一の青春の葛藤。昭和10年代・京大時代を背景に、性・宗教・文学・社会――混沌の坩堝の中の青春を描いた、自伝的長篇小説。〈全体小説理論〉の実践化として、『青年の環』へとひきつがれてゆく問題作。
  • 幼年 その他
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    「幼年」は、堀辰雄の『幼年時代』の影響の下に描かれ、福永武彦の「幼くして失った母」という原風景である。そして「母」は、はかなく淡い観念として、この作家に、美しくも深く悲しい旋律を奏でる。意識と無意識、現実と夢の境を行きつ戻りつ、ロマネスクな二重奏組曲。福永文学の輝ける魅力をたたえた、詩情豊かな10編の作品集。
  • 幕が下りてから
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    「悪い仲間」「陰気な愉しみ」で芥川賞を受賞、「海辺の光景」で野間文芸賞、芸術選奨両賞を受賞した著者が、新たに挑戦した長篇秀作。敗戦による価値の混乱と青春の惑乱を共にした、一主人公の「やましさ」の根源を、底深く洗いただし、極めてモラリッシュな文学世界を創造した長篇。毎日出版文化賞受賞作品。
  • 愛国者たち
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    異能の私小説家の知られざる名作――昭和24年、日本訪問中のロシア皇太子ニコラスへの暗殺未遂事件=大津事件に関わった愛国者たち……。津田三蔵、畠山勇子、明治天皇、児島惟謙らを軸に、歴史の変動の渦中にあつ人間を見つめた表題作、ほか7篇。戦後日本の転換点に直面した異能の私小説作家が、自己の文学的葛藤と追究の痕跡を刻印した、独自の私小説風世界の魅力が横溢する作品集。平林たい子文学賞受賞作品。 ※本書は、『愛国者たち』(1973年11月、講談社刊)を底本としました。
  • ひべるにあ島紀行
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    冬の国(ひべるにあ)=アイルランド。スイフトの『ガリヴァー旅行記』に導かれ冬の国(ヒベルニア)=アイルランドを訪れた「わたし」。謎めいたスイフトの生涯を、一人の女性への「激しい友情」を核に読み解くタテ糸。「わたし」と妖精のような男たちとの「優しい性愛」を物語るヨコ糸。さらに、架空の国・ナパアイをガリヴァーのように旅する「わたし」が目にする、グロテスクな意匠。重層的な表現でタペストリのごとく織られた、富岡文学の達成。孤絶した魂が谺し合う交響詩! 野間文芸賞受賞作品。
  • 冥途の家族
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    父親の両腕、両脚にからまれ、しがみつくように寝る幼い娘。デキの良い娘に、何ひとつ不自由させず、こよなく愛する父親。やがて娘は成長し、家を出て、絵かきのセンセと同棲する。父の脇腹にカタマリができ、娘の渡米中に父親は癌死する。濃いつながりを持つ父と娘、母と娘、家族群像を鮮かに描き、女流文学賞を受賞した、富岡多惠子の初期を代表する傑作!
  • 当世凡人伝
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    なんの変哲もないありふれた人生。独得の語り口で、あるがままに描き出し、したたかに生きる平凡な人々の日常に滲む哀しみを、鮮やかに浮彫りにする、富岡多惠子の傑作短篇集。川端康成文学賞受賞「立切れ」ほか、地方都市で妻と二人ひっそりと暮す退官した警視・松尾文平に纏る「薬のひき出し」、「名前」「ワンダーランド」「幼友達」「富士山の見える家」など12篇の傑作短篇を収録。
  • 月は東に
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    起きてしまった知人の配偶者との「関係」の事実を、男は謝罪し弁明するほどに、ますます窮地に陥ってゆく。露呈する主人公の心の「やましさ」を、作家の眼が凝視する。救いを願う個我の微妙な感情と心理を描いた、意欲的長篇。夏目漱石、志賀直哉らと日本の近代小説が探求し続けてきた、人間の「倫理とエゴ」の重く切実な主題を共有する、『幕が下りてから』に続く著者中期の代表作。
  • 書物の解体学
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    欧米を代表する文学者思想家に批評の直感で挑んだ画期的作家論集! バタイユ、ブランショ、ジュネ、ロートレアモン、ミシェル・レリス、ヘンリー・ミラー、バシュラール、ヘルダーリン、ユング――現代の世界に多大な影響を与えた欧米の作家・詩人・思想家9人の著作は、翻訳を通じて、どこまで読み解くことが可能なのか。批評家としての経験のみを手がかりに、文字通り縦横無尽に論じた画期的作家論集。
  • 無きが如き
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    原爆投下から30数年後、〈女〉は長崎を訪れた。坂の上の友人の家で、人々と取り止めのない話を交わしながら、死んでいった友たちや、14歳で被爆した自らの過去を回想する。日々死に対峙し、内へ内へと籠り、苦しみを強いられ生きる、被爆者たち。老い。孤独。人生は静まり返っているが、体験を風化させはしない。声音は、低く深く響く。原爆を凝視する著者が、被爆者の日常を坦々と綴る名篇。
  • 鳴滝日記・道 岡部伊都子随筆集
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    「美の巡礼者」岡部伊都子の京を巡る随想集。いとはん育ちの著者は、婚約者を戦争に送った慚愧を胸に戦後を生き、暮しの細部に宿る美、哀歓を美しい言葉で綴った。土地の精霊との交感から生まれた清々しい初期随筆集! ――ふしぎなめざめにうながされて……、凍てつく土中から虫たちが這い出すように、女ひとり、戦後をつよく生きる想いを綴る「四季採譜」。大阪のこいさん育ちの著者が生涯の地・京に移り住み、暮らしの中から紡ぎ出す美しい言葉で古都の魅力を語り尽す「鳴滝日記」。古の道、ふるさとの道、露地の道を行き交う人の運命を哀切に描く「道」など4篇。豊かな感性と強靭な志の1冊。
  • 谷間/再びルイへ。
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    昭和20年、長崎の兵器工場学徒動員で、被爆。多くの死をくぐり抜け、少女は生き残った。結婚、出産、幼い命を育てるのは、恐怖との闘いであった。20数年後の離婚、それは個の崩壊であり、8月9日の闇なのか。80歳を越えて書いた小説「再びルイへ。」は、著者の歩んだ人生への回答、あるいは到達でもある。川端賞受賞作「三界の家」を含む、心うつ短篇小説集。
  • 希望
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    1945年8月9日、長崎に投下された原爆によって、絶望が始まった。しかし、長い時間の末に、被爆者たちにも、一筋の光が見えた。もう悲劇を繰り返さないように。祈りの短篇集。 ――8月9日、長崎で被爆した人たちの苦悩が始まった。生と死の狭間を体験し、未来への絶望との闘いの日々に、彼らは、時の流れで癒されていったのであろうか。自らの足跡を確かめ、振りかえり見つめ続けた著者が、いつかその運命を希望へと繋げていく……。3月11日を経験した、すべての日本の人々に捧げる、林京子の願いと祈りを込めた、短篇集。 ※本書は、『谷間』(講談社刊 1988年1月)『希望』(講談社刊 2005年3月)を底本としました。
  • 母よ
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    母よ、あなたの素顔を見たい、どのような顔をしていたのでしょう。現存している写真はたったの1枚、「ひんやりとした感じの、きれいな人だったのよ」と、少年のぼくに語ってくれた姉。──実母への切実な想いと、別居している理英との間に生まれた保育園にかよう男の子の成長ぶりを、清澄なことばで綴った秀作。第43回読売文学賞受賞作。
  • 珍饌会 露伴の食
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    博覧強記の文豪が描く、奇奇妙妙の「食」尽くし。露伴とその周辺の好事家たちをモデルに描く抱腹絶倒の戯曲「珍饌会」、河豚を愛した文人たちの漢詩を読み解く「桃花と河豚」、故事来歴から料理法まで網羅した「鱸」など随筆六篇を収録。稀代の碩学・露伴の「食」をめぐる蘊蓄と諧謔を味わう名篇集。南條竹則・編。
  • 鮎・母の日・妻 丹羽文雄短篇集
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    幼くして生母と離別し、母への思慕と追憶は、作家・丹羽文雄の原点ともなった。処女作「秋」から出世作「鮎」、後年の「妻」に至る、丹羽文学の核となる作品群。時に肉親の熱いまなざしで、時に非情な冷徹さで眺める作家の<眼>は、人間の煩悩を鮮烈に浮かび上がらせる。執拗に描かれる生母への愛憎、老残の母への醜悪感……。思慕と愛憎と非情な<眼>による、「贅肉」「母の日」「うなずく」「悔いの色」ほか10篇。
  • 夜逃げ町長
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    出馬予定の県会議員選挙の前夜、町長が行方をくらました。地方の平和な田園風景の中にくりひろげられる滑稽な人間模様の数々! 事実に基づく題材を、鋭利で、しかも軽妙な文体で活写した、記録文学の傑作。他に不可抗力として著者を襲った「落第について」、「幻、夢、うつつ。」など8つの作品集。哄笑・傑作小説集。
  • 少年たちの戦場
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    「私は怖れていたのだ。私などが絶対に踏み込んでは行けない場所を頑なに守っている生徒という他人が怖かったのだ」――敗戦の色濃くなった昭和20年の初め、農村に学童疎開した34名の少年たちの、不安と飢えの日。最もおとなしいはずの生徒の脱走の波紋。没後見つかった引率教師の当時の日記に綴られた、激しく揺れる文字。少年らの裡に生まれる孤独を見据えて描く、鮮烈な秀作。
  • 壺坂幻想
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    盲目で死んだ祖母への鎮魂に、作家は壺坂寺に詣でた。山道を辿ると、みかん水を売って祖母を大切にした叔父の悲運、生きている母の姿など、親族の誰彼もの不幸が思い浮かんでくるのであった……。『雁の寺』『越前竹人形』『飢餓海峡』の著者が、作家生活20年にして初めて、書かずにはいられないテーマに突き当たった。水上文学晩年の陰翳に満ちた豊かな文学世界の到来を約束する、家族を巡る追想の連作短篇集。生きるとは、私とは、何か?
  • 私の長崎地図
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    生まれ育った町を振り返りながら書き綴った「私の長崎地図」を中心に、筆者の長崎へ対する思いが溢れる小説、随筆を編纂した作品集。――生まれ故郷・長崎。しかし、そこは再訪するのに四半世紀の時を必要とした地でもあった。強い郷愁と訪れることへの不安が、町の色や海の香に彩られた過去から、現在に至る心の風景を紡ぎ出す。長崎を舞台にした「私の長崎地図」「歴訪」「色のない画」などの小説や随筆を精選したこの作品集は、『私の東京地図』と対をなす著者の魂の彷徨である。※本書は『佐多稲子全集』(講談社・昭和52年11月~昭和54年6月刊)、『小さい山と椿の花』(講談社・昭和62年10月刊)、『思うどち』(講談社・平成元年6月刊)を底本としました。
  • 夏の栞―中野重治をおくる―
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    文学的友情で支え合った中野重治との永遠の別れ。熱く深い思いで綴る感動の名作。――1979年8月、作家中野重治が逝去した。中野重治に小説家として見出された佐多稲子は、この入院と臨終に至るまでの事実を、心をこめて描いた。そして50年にわたる、中野重治との緊密な交友、戦前、戦中、戦後と、強いきずなで結ばれた文学者同士の時間を、熱く、見事に表現した、死者に対する鎮魂の書。毎日芸術賞・朝日賞を受賞した、感動の文学作品。
  • 『わが性の白書』
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    癌で死んだ或る作家の遺書『わが性の白書』の出版をめぐる、関係者たちの思惑とその「真相」。逆手にとりつつ、文壇・マスコミに登場する女流作家の放胆な軌跡。現代という時代の「世界の空虚さ」の真只中で演じられる、真摯に生きようとする者たちの喜劇的なドラマ。文芸評論家・中村光夫が、初めて50代で執筆発表した、痛撃な批評と苦いユーモアの漂う、意欲的長篇小説。現代風俗を取り込んで描く、果敢な挑戦作。
  • 百日の後 坂上弘自選短篇集
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    「第三の新人」世代に続く、「内向の世代」グループの一人である坂上弘は、「第三の新人」とは違った意味で、生活者の視点から小説世界をつくり上げてきた。文学が特別な社会を対象としたものでなく、日々の暮しのなかでのサラリーマンであり、同人雑誌仲間との交友でありと、一見、平凡な日常のうちに、ニュアンスを含んだ人生を見出す。表題作ほか著者自選の5篇を収録。
  • 美しい墓地からの眺め
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    戦時下、大病で富士山の見える故郷・小田原の下曽我に帰った著者は、自然界の小さな虫の生態にも人間の生命を感じ、自然との調和のなかにやすらぎを見出す。本書は、文学への出発時の芥川賞受賞作「暢気眼鏡」から、最晩年の作品「日の沈む場所」にいたる14作品を収録。これらをたどることで著者の人生、ひいては人が生きることへの発見、喜びと慰めを読みとることが出来る、珠玉の作品集。
  • 浦島草
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    広島で被爆した女性が、庭先に浦島草の咲く東京の家でひっそりと暮らす。そこへ11年ぶりにアメリカ留学から主人公の雪枝が帰って来る。後を追う恋人のマーレック。女性には雪枝の兄・森人との間に、自閉症の息子・黎がいた。多くの人物が広島の滅びの光景を引きずり、物語が進む。人間の無限の欲望と、その破滅を予感する作家が、女たちの眼を通して創出した、壮大で残酷な詩的小説世界。
  • 志賀直哉・天皇・中野重治
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    医師として、遅咲きの小説家として、独自の文学世界を築きあげた藤枝静男。平野謙と本多秋五という刺激を与え続けた友人、そして深く傾倒した師・志賀直哉の存在。志賀直哉に関わる作品を中心に名作「志賀直哉・天皇・中野重治」など、藤枝文学の魅力をすくいとった珠玉の随筆選。文学の師に関わる思いと藤枝文学の底流が、ここにある!
  • 故人
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    自分を文学の世界に導いてくれた、兄のように慕う先輩作家が、原稿を郵便で出した帰途、トラックに轢かれ死んだ。理不尽な死を前に混乱、自失する家族や友人たち。青年は深い喪失感を抱えながら、社会との折り合いに惑い、生と死の意味を問い続ける。三四歳で早世した山川方夫の人生を、彼の最も近くで生きた著者が小説に刻んだ鎮魂の書。
  • 一族再会
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    早く死に別れた生母を思い求めることに始まり、一族のさまざまな生き方、在り方を、時代、社会、歴史とのかかわりにおいて捉え、言葉の、高い緊張の世界に、鮮やかに凝集した、江藤淳渾身の力作。深い感動を呼びおこす名篇。
  • 死の影の下に
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    無意識の記憶の突然の喚起をきっかけとして、主人公の城栄は、静岡県の田舎で伯母に育てられた牧歌的な日々の回想に誘いこまれる。早くも「喪失」の意味を知った少年は、伯母の死後、冒険的実業家の父親と暮らし始め、虚飾に満ちた社交界をつぶさに観察することになる。新しいヨーロッパ文学の方法をみごとに生かした、戦後文学に新たな地平を拓き、戦後文学を代表する、記念碑的長篇ロマン。
  • 春の華客/旅恋い 山川方夫名作選
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    急激に変貌していく戦後日本を背景に新しい感性による現代文学の興隆を牽引し、短い作家活動のうちに数多くの鮮烈な作品を残した山川方夫。その早熟ぶりが同世代の仲間を震撼させた学生時代の作品から、時代を先取りしたモチーフや研ぎ澄まされた文体によってジャンルの枠を超えた才能を開花させた後期作品まで、不慮の事故による早逝が惜しまれる著者の多彩な魅力が凝縮された傑作選。
  • 猫道 単身転々小説集
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    失礼ですが御主人は? 収入は? 本籍地は? 保証人は? バブル後期の東京で"単身女性の安全な住まい"を求めて漂流する長編「居場所もなかった」に加え、後の"家族"キャト、ドーラ、ギドウ、モイラ、ルウルウをめぐる住居転々の短編。さらに不意の別れを描く「モイラの事」、その悲しみを越える単行本未収録の「この街に、妻がいる」、作者と猫の書き下ろし近況エッセイ二編も収録。
  • 幽 花腐し
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    中華街のバーで、二十年以上前に遇った女の幻影に翻弄される男の一夜を描く、事実上の初小説「シャンチーの宵」、芥川賞候補作「幽」、同受賞作「花腐し」ほか全6篇。知的かつ幻想的で、悲哀と官能を湛えた初期秀作群。社会から外れた男が生きる過去と現在を、類稀な魅力を放つ文体で生々しく再現し、小説の醍醐味が横溢する作品集。
  • 黄金の時刻の滴り
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    夢中で読んできた小説家や詩人の生きた時に分け入り、その一人一人の心を創作へと突き動かし、ときに重苦しい沈黙を余儀なくさせてきた思いの根源に迫る十二の物語。それは「黄金の時刻」である現在を生きる喜びを喚起し、あるいは冥府へと下降していく作家の姿を描き出す。永遠の美の探求者が研き上げた典雅な文体で紡ぎ出す、瑞々しい詩情のほとばしる傑作小説集。
  • 凡人伝
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    主人公の英語教師はあるときふと思い立つ。世に偉人伝は数多あるが、第二のナポレオンは現れない。ならば失敗に鑑みる『凡人伝』を書くほうがよほど有益だ。神童と謳われ、その後凡人の道を歩む自分の伝記を書こう、と。自然主義、プロレタリア文学隆盛時に全く新たな分野を開拓、「ふつうの人々」の生活に寄りそい、上質で良識ある笑いを文学にもたらした、ユーモア小説の第一人者による傑作長篇。
  • 我が愛する詩人の伝記
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    「各詩人の人がらから潜って往って、詩を解くより外に私に方針はなかった。私はそのようにして書き、これに間違いないことを知った」。藤村、光太郎、暮鳥、白秋、朔太郎から釈迢空、千家元麿、百田宗治、堀辰雄、津村信夫、立原道造まで。親交のあった十一名の詩人の生身の姿と、その言葉に託した詩魂を優しく照射し、いまなお深く胸を打つ、毎日出版文化賞受賞の名作。
  • 東京の横丁
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    「俺は二、三日うちに死ぬ気がする。晩飯の支度なんか放っておけ。淋しいからお前もここに坐って一緒に話でもしよう」妻にそう語りかけた数日後、永井龍男は不帰の人となった。没後発見された手入れ稿に綴られた、生まれ育った神田、終の住処鎌倉、設立まもなく参加した文藝春秋社の日々。死を見据えた短篇「冬の梢」を併録した、最後の名品集。
  • 星に願いを
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    ブルームーン(六月十五日)。妻は庭のブルームーンの咲いたのを三つ切って来て、書斎のサイドテーブルに活ける。――山の上の家で、たんたんとした穏やかな日常。子供も成長し、二人きりの老夫婦に、時はゆったりと流れてゆく。晩年の庄野作品の豊かさと温もりを味わえる上質の文学。
  • 「私小説」を読む
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    志賀直哉、藤枝静男、安岡章太郎を貫く「私小説」の系譜。だが、著者はここで日本文学の一分野を改めて顕揚したり、再定義を下したりはしない。本書は、我々が無意識・無前提に受け入れている「読みの不自由さ」から離れ、ひたすら、いまここにある言葉を読むこと、「作品」の表層にある言葉の群との戯れを通じ、一瞬ごとの現在を生きようとする試みなのである。「読むこと」の深見と凄みを示す、文芸批評の名著。
  • 風の系譜
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    遠い先ばかり見つめていた父は、絶望している。堅実な実際家の母は、希望をかけている。父と母の半生を中心に、複雑な一族の系譜を私小説作家が揺るぎなく描ききった長篇小説。新たに発見された、著者の手の入った原稿で野口冨士男の処女作ともいえる作品を七十余年の時を経て、初文庫化。
  • 酔いざめ日記
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    昭和七年(二七歳)から、亡くなる直前の昭和四三年(六四歳)までの木山捷平の日記、初文庫化。詩から始まり、昭和八年に太宰治たちと同人誌「海豹」創刊後、小説を発表し、様々な作家と交遊を深めた木山。生活は困窮をきわめ、体調をくずしながらも書き続けた日々。作家の心情、家庭生活、そして何よりも、自らの死までも、じっと作家の眼で冷静に描ききった生涯の記。
  • エオンタ/自然の子供 金井美恵子自選短篇集
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    過去と現在。記憶と現実。存在と不在。 自己と他者。周到に仕組まれた言葉の奔流が、確かと信じられている輪郭をことごとく溶かし、境界を混じりあわせ、めまいにも似た乱反射を読む者に引き起こす。「読むことが、私の生きている証し」老練な読者たる著者が、最初期二作品を含む初期作品群から、現在の眼で選んだ短篇集、第三弾。
  • 酒と戦後派 人物随想集
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    「近代文学」創刊同人(荒正人、平野謙、佐々木基一、小田切秀雄、山室静、本多秋五)、藤枝静男、野間宏、原民喜、堀辰雄、椎名麟三、梅崎春生、高橋和巳、三島由紀夫、大江健三郎、安岡章太郎、辻邦生、石川淳、中村真一郎、武田泰淳・百合子、竹内好、丸山真男、渡辺一夫、大岡昇平他。20世紀日本を代表する文学者をユーモラスに、時に感動的に素描する。戦後派屈指の文章の上手さ、描写の確かさ、知的センスに舌を巻くはず。
  • 落葉・回転窓 木山捷平純情小説選
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    男と女の出会いと恋愛の機微を永久の時間のなかで紡ぎ出す短篇小説の魔術師・木山捷平。その鮮麗なる筆致は読む者すべてを魅了する。「村の挿話」「猫柳」「空閨」「増富鉱泉」「男の約束」「落葉」「回転窓」「留守の間」「口婚」「好敵手」「七人の乙女」を収録。
  • わが胸の底のここには
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    私は己れを語ろうと決意した。憎悪すべき己れの過去を。生きようとする生命の火を、情熱を燃え上がらせるために――。終戦直後から五年に亘り執筆した、著者の代表作ともいえる自伝的長編小説を初文庫化。没後50年記念刊行。
  • 谷崎潤一郎論
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    『細雪』の刊行、文化勲章受章とまさに谷崎評価の絶頂期、それまで雑誌や新聞の注文に応じて執筆していた著者が、初めて「僕の方から頼んで書かせてもらった」挑戦的評論。武田泰淳は「乱れが無さすぎるほどよく整理された論文」として、その手さばきを有能な外科医の手術に喩え、「病根を知る者の緊張が、彼を徹底的にする」と絶賛した。読み物としても面白い独創的年譜に、補遺を加えた決定版。
  • 新東京文学散歩 漱石・一葉・荷風など
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    東京をこよなく愛し、住んだ文人たち。近代文学の中心・東京は、先の戦争で焦土荒廃の地と化した。野田宇太郎は、消え失せたそこに文学者の影を求め東京を、やがて全国を「文学散歩」し始める。『新東京文学散歩 上野から麻布まで』の後篇を、戦後七十年を機に読者のもとに届けつつ、近代文学の香りと共に、改めて東京文学散歩へ誘う……。
  • 死の淵より
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    つめたい煉瓦の上に/蔦がのびる/夜の底に/時間が重くつもり/死者の爪がのびる(「死者の爪」)。死と対峙し、死を凝視し、怖れ、反撥し、闘い、絶望の只中で叫ぶ、不屈強靱な作家魂。醜く美しく混沌として、生を結晶させ一瞬に昇華させる。"最後の文士"と謳われた高見順が、食道癌の手術前後病床で記した絶唱63篇。野間文芸賞受賞作。
  • 新東京文学散歩 上野から麻布まで
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    「文学散歩」という言葉を創案したのは、野田宇太郎である。東京の文人の辿った跡を丹念に歩き尽くしたこの作品――東京は、近代文学史上に名を刻んだほとんどの文学者の私生活の場所でもあった……。近代文学の真実に触れる事、すなわち東京を知ることと考えた著者の、生涯をかけた仕事『新東京文学散歩』は、文学を愛する読者に献げた、文学案内の礎でもある。
  • 原民喜戦後全小説
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    広島への原爆投下の惨劇を克明に描いた傑作「夏の花」三部作、亡妻への痛切な思いが滲む「美しき死の岸に」ほか、壮絶な体験と苦悩を刻んだ小説群。戦後70年を経て尚鮮烈な光を放つ戦争文学の金字塔を、文芸文庫スタンダードとして新装版刊行。
  • その言葉を/暴力の舟/三つ目の鯰
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    東京で三年ぶりに再会した、故郷の俊才の変わり果てた姿「その言葉を」。他人の怒りと攻撃性を誘発せずにはおかない、風変わりな先輩との四年間「暴力の舟」。父の葬式で一堂に会した親族たちの、幼い頃は窺い知れなかったそれぞれの事情「三つ目の鯰」。七〇年代の青春の一光景を映し出す、瑞々しい初期中篇三作。
  • 新編 日本の旅あちこち
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    木山捷平は、昭和三十年代後半から四十年代前半の彼の晩年ともいえる日々を、日本中を旅する取材執筆に費やした。北海道から九州まで、日本の津々浦々を巡り「新しい紀行文」を書き続け、それは詩や小説にも昇華した。それぞれの土地に、死の陰を刻みながら・・・。初めての北海道旅行での詩「旅吟」から、病床で書かれた最後の詩「オホーツク海の烏」を収録、二九篇厳選。
  • 鳥の水浴び
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    名作『夕べの雲』から三十五年。時は流れ、丘陵の家は、夫婦二人だけになった。静かで何の変哲もない日常の風景。そこに、小さな楽しみと穏やかな時が繰り返される。暮らしは、陽だまりのような「小さな物語」だ。庄野文学の終点に向かう確かな眼差しが、ふっと心を温める。読者待望の、美しくもすがすがしい長篇小説。
  • 地獄変相奏鳴曲 第四楽章
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    本第四楽章をもって、〈連環体長篇小説〉『地獄変相奏鳴曲』がついに完結。十五年戦争の時代をくぐり、敗戦・占領下の混乱、そして戦後の激動を生き抜いてきた、一組の老齢に達した夫婦が、周到な準備のもと、何ゆえ「情死」を選びとったのか? 互いに敬愛する男女の仲に根づく〈無神論的・唯物論的にして宗教的〉な境地とはいかなるものか? 日本人の現代および近未来の課題に果敢に挑戦した最終楽章「閉幕の思想」。
  • 地獄変相奏鳴曲 第一楽章・第二楽章・第三楽章
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    第一楽章「白日の序曲」の初稿発表より40年の歳月を経て完成した「連環体長編小説」――全四楽章のうち、旧作の新訂版である第一楽章から第三楽章までを本書に収録。異姓同名の男女の織りなす四つの世界が、それぞれ独立した中篇小説でありながら、重層化され、ひとつの長篇小説となる。十五年戦争から、敗戦・占領下、そして現代にいたる、日本人の精神の変遷とその社会の姿を圧倒的な筆致で描破。
  • 公園 卒業式 小島信夫初期作品集
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    著者十六歳、岐阜中学校校友会誌に掲載された小品から、昭和二十年代までの初期作品を集成。第一高等学校時代の透明感溢れる心象風景を綴った伝説的佳品「裸木」や、同人誌「崖」に発表された「往還」「公園」などの戦前作品、また、著者固有のユーモアの深淵を示す「汽車の中」「卒業式」「ふぐりと原子ピストル」など、〈作家・小島信夫〉誕生の秘密に迫る十三篇を収録。
  • 天安門
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    アメリカ生まれの著者が、初めて訪れた中国。都市を離れて、中国の奥へ奥へ――そこには現代があった。国境、言語を越え、歴史を遡るアイデンティティの旅。自身に流れる血を通して、自己の存在を、「仮」と「真」の中で映し出そうとした衝撃の作品群。一人の越境者の魂の漂泊は、現代中国の真の姿を求める。伊藤整賞受賞作「仮の水」を含む、鮮烈の短篇五作。
  • 流域へ 上
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    1~2巻1,463~1,562円 (税込)
    共産党一党独裁が終焉を迎えつつあった1989年夏のソ連、在日朝鮮人の小説家・林春洙とルポライター・姜昌鎬は中央アジアを当局の招待で旅している。スターリン体制下の1937年、極東沿海州を追われ中央アジアに強制移住させられた「高麗人」たちを訪ねるのが目的である。2人は故国喪失者の哀切の日々を知る――日本語文学として、世界的視野での表現への挑戦が始まる。
  • 家族会議
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    東京の兜町で株式売買をする重住高之は、大阪の北浜の株のやり手仁礼文七の娘泰子に心惹かれている。だが、――文七はあくまで高之に熾烈な仕手戦をしかけて止まない。金の絡みと高揚する恋愛の最中、悲劇は連続して起こる。資本が人を動かし個人が脅かされる現代に人間の危機を見、「純粋小説論」を提唱実践した横光利一が、その人間崩壊を東と西の両家の息づまる対立を軸に描いた家庭小説の傑作。
  • 錨のない船 上
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    1941年、アメリカの厳しい経済制裁で資源確保が困難化、進退窮まる日本。武力解決を訴える勢力の圧迫を受けつつも、ワシントンに飛んだ来島平三郎特命全権大使は、妻の故郷アメリカとの開戦回避の道を懸命に模索していた。だが、ルーズヴェルト大統領、ハル国務長官を相手の交渉は難航、だましうちのように真珠湾攻撃が敢行されてしまう――。戦争に翻弄される外交官一家の肖像をつぶさに描く傑作長篇。
  • ピアノの音
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    小高い丘の家に住まう晩年の夫婦の穏やかな生活。娘や息子たちは独立して家を去ったが、夫々家族を伴って“山の上”を訪れ、手紙や折々の到来物が心を通わせる。夜になれば、妻が弾くピアノに合わせ、私はハーモニカ……。自分の掌でなでさすった人生を書き綴る。師伊東静雄の言葉を小説作法の指針に書き続けてきた著者が、自らの家庭を素材に、明澄な文体で奏でる人生の嬉遊曲。
  • 悪い夏 花束 吉行淳之介短篇小説集
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    初期から最晩年まで、短篇小説で辿る吉行淳之介の世界。男女の心象風景を凝縮するイメージで描く散文詩風の「藁婚式」、少年の眼を通して恋愛の生理と心理を追う「悪い夏」、父エイスケとの屈折した関係を主題とした「電話と短刀」、親友の13回忌に訪れた男女の齟齬を描く「花束」等14篇を収録。明晰な文体と実験的手法で、人間の生と性の不条理を追究した著者の珠玉の作品集。
  • 朱を奪うもの
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    女性としての自立、性・喪失・生を描く現代女性必読の名作。女性としての喪失感に荒寥とした思いをする主人公。幼児から祖母の物語の世界に生きた滋子の人生の歩みは、やがて青春期にかけて、家を出て自立したいという強い思いへと変っていく。結婚さえも、人生のスプリングボードとして考え、自分らしく生きようとする女性を描いた、円地文子の代表作。谷崎賞受賞作『朱を奪うもの』3部作の第1部。
  • あじさしの洲 骨王
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    叔母の悲しみとそれに寄り添う少年の想いが原初的風景へと還元される名品「あじさしの洲」、旧約的世界を背景に、部族王の誕生とその最期を、心象の劇として描いた「骨王」、読売文学賞受賞作「ハシッシ・ギャング」等、初期作品から近作まで11篇を収録。簡勁な文体で人間の原質を彫琢し、影の暗示力が、生と死の流転の相を炙り出す。小川文学の魅力をあますところなく示す自選短篇集。
  • 台風の眼
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    悪性腫瘍の手術後、作家は最後になるかもしれない小説を書きはじめる。自分が確かに生きていたと思える、記憶に深く刻み込まれた情景をつなぎとめながら。世界というものをふいに感じた4歳の頃の東京・赤坂、小学時代を過ごした植民地・朝鮮の田舎町、京城の中学時代、焼け跡の中の旧制高校、特派員として赴いたソウル、そしてサイゴン。自伝と小説の間を往還するように描かれた、新しい試み。
  • 酩酊船 森敦初期作品集
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    昭和9年、横光利一の推輓で新聞連載された、森敦22歳の文壇デビュー作「酩酊船」。小説を書きはじめようとする青年の思考を日記やノートで辿ることそれ自体が、その小説の実現を意味するという冒険的試みで、のちに独自の創作理論を打ち立てることとなる著者の資質がいかんなく発揮される。そのほか19歳の作「酉の日」から36歳の作「夏の朝」まで、貴重な初期作品5篇を精選。
  • 思い出す顔 戸板康二メモワール選
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    昭和を代表する劇評家、推理作家、俳人の戸板康二はまた、歌舞伎、映画、雑誌など、幅広い世界で蒐集した「ちょっといい話」を絶妙な筆致で描く無類のユーモリストだった。数多の著書から60代に書かれた『回想の戦中戦後』『思い出す顔』の2作品23篇を抄録。師折口信夫も市井の無名の人も同じあたたかい目線で捉えたエスプリ溢れる文章は、読む者に幸福感を与えてやまない。時代と人への芳醇なメモワール。
  • 堀辰雄覚書 サド伝
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    日本人にとってキリスト教信仰はいかに可能か、という問題意識のもと、戦時下より親交のあった堀辰雄の作品を対象に、その純粋性から宗教性へ、さらには古典的汎神論の世界へと考察を深めた最初期の評論「堀辰雄覚書」、また、リベルタンとしての歩みを進めることで、キリスト教規範と闘い、性と自由の先見的な思想を掴んだサドを赤裸に描いた「サド伝」を収録。著者の表現の根幹を知るための貴重な一書。
  • 五月巡歴
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    突然舞い込んだ「メーデー事件第二審の証人として法廷に出て頂きたくお願い申し上げる次第であります」との手紙。20年前の己れの遠い過去の甦りに、怯えを隠せぬ男の、同時に捲き込まれる現勤務先での一就業規則違反事件。昭和27年、高揚するメーデーのデモ隊に加わって、皇居前広場に乱入し逮捕された者、逃げ惑った学生らのその後の時間の重みと心の傷の襞を鮮烈に追う長篇力作。
  • 落花 蜃気楼 霊薬十二神丹
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    闊達自在、卓抜典雅な文章で貫ぬかれた揺るぎない批評眼、飛翔する想像力。世相を鋭く風刺し、幻想的世界と現実とが交錯する石川文学中期作品群7篇。──かつて東北の鄙びた温泉場で、俄に腹痛におそわれた〈わたし〉が、土地に伝わる丸薬でそれを治した話に始まる「霊薬十二神丹」ほか、「落花」「近松」「今はむかし」「蜃気楼」「かくしごと」「狐の生肝」を収録。
  • ゆう女始末 おまえの敵はおまえだ
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    九州の僻地の医院に嫁した古い箏歌を口ずさむ老女の話「越天楽」、黄金の鶏を求め竹林に分け入り片目片足を失った竹細工人の話「金鶏」、ロシヤ帝国皇太子ニコラスの負傷事件により自決した魚問屋に働く女の話「ゆう女始末」の奇談3篇と、理想の虚しさを鋭く風刺した著者初の戯曲・芸術祭主催公演「おまえの敵はおまえだ」、「一目見て憎め」の戯曲2篇を収録。
  • 紋章
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    自意識の分裂に悩み戸惑う知識人の久内と、狂気のような熱情をこめて醸造技術の発明に没頭する一途な男雁金。ふたりの対照的な成り行きに、近代の合理的な人間認識と"日本精神というもの"との相剋を見る。漱石、芥川以来の「西欧的近代と向き合う人間」というテーマを内包しつつ、"第四人称"の「私」という独自のスタイルで物語る。晩年の『旅愁』へと向う前の著者中頃の代表的長篇小説。
  • 寝園
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    持ち株の暴落で事業に失敗し破産しかかった青年梶と、その梶を強く慕う奈奈江や、幾組かの男女の"愛"の葛藤。伊豆山中の狩猟の最中に起きた突発的傷害事件への発展。「純文学にして通俗小説」なる"純枠小説"を自ら実践し、恋愛における現代人の"危機意識"を緻密な文体で追った「紋章」「家族会議」等の先駆となった画期的名篇。
  • 影 裸婦変相 喜寿童女
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    三品財閥の女婿である外交官の鳥栖庄五は役所の機密書類を密かに持ち帰る途中、秘密探偵社の一団に誘拐される――社会機構を痛烈に風刺した「影」をはじめ、幻想的世界と現実とが妖しく交錯する「裸婦変相」、喜寿を迎えた名妓お花が11歳の幼女に変貌する奇談「喜寿童女」ほか、「ほととぎす」「大徳寺」など、鋭い批評眼と絶妙な文体で描かれた中期作品群より7篇を収録。
  • 黄金伝説 雪のイヴ
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    常に時代と対峙し、辛辣な批判精神と強烈な抵抗精神で戦い続けた著者の、文学的出発期の作品「鬼火」「ある午後の風景」「長助の災難」「桑の木の話」。行方不明の女を捜し彷徨することで生を繋ぐ"わたし"が、娼婦となった女と再会――敗戦後の混乱を鋭く凝視し絶望を再生に転化させる新たな出発を示した「黄金伝説」、他に「無尽灯」「雅歌」「雪のイヴ」など収録10篇。
  • 荒魂
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    荒ぶる魂、生まれながらにして、生と死を抱え持つ佐太。この存在を無気味な背景に展開される"変革"の劇。精神の逼塞の根に仕掛けられた爆薬のような強烈な"発条"。初期世界からの独自な精神の運動を持続し続けた、石川淳の『白頭吟』から『狂風記』の間を繁ぐ白眉の長篇。
  • 青葉の翳り 阿川弘之自選短篇集
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    戦時中に青春を過した主人公は、学徒動員で海軍に入隊。戦友の多くが死んでいったなかで、現在も生きているのはほんの偶然の結果だという感覚に支配されている。戦後社会との違和に直面しながらも、生活者として中年にいたった現在を描く代表作「青葉の翳り」。他に「霊三題」「鱸とおこぜ」「野藤」「スパニエル幻想」「空港風景」「さくらの寺」と短篇的趣向の名品を収録。
  • 愛の挨拶 馬車 純粋小説論
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    人間存在の危うさと脆さを衝く小説「マルクスの審判」、"国語との不逞極まる血戦"が生んだ新感覚派小説の「頭ならびに腹」とそれらを支える文芸評論「新感覚論」、1幕もの戯曲「幸福を計る機械」および「愛の挨拶」、新心理主義小説「機械」と、その後の評論「純粋小説論」等。昭和の文学の常に最前衛として時代に斬り込み時代と格闘した作家の初期・中期短篇、戯曲、評論を1冊に集成。
  • 吹雪物語
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    希望の裏打ちのない若者の行為があり得ようか過去・現在・情念・観念の行きかう193X年冬の新潟。鋭利、俊敏な安吾が、全青春を賭けて敢闘した力作――後の"安吾"を生んだ"夢と混沌"の巨大な"坩堝"。同時代の批評に埋没させられていた秀作『吹雪物語』。
  • 走れトマホーク
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    奇妙でユーモア溢れるアメリカ旅行記「走れトマホーク」。身辺私小説仕立ての「埋まる谷間」「ソウタと犬と」。中国の怪異小説家に材を取る「聊斎私異」など多彩な題材と設定で構成されながら、一貫する微妙な諧調――漂泊者の哀しみ、えたいの知れない空白感。短篇の名手の円熟した手腕が光る読売文学賞受賞作。表題作を含む9篇を収録。
  • 桜 愛と青春と生活
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    六尺二十貫、ロス五輪、ボートの日本代表選手・田中英光。太宰治を敬愛すること深く、太宰の逝った翌年、文化の日、三鷹禅林寺の太宰の墓前にて自裁。巨大な体躯をもてあますような傷つきやすい魂を持ち、純粋に、戦中・戦後を生きようとして果てた著者の初期秀作「桜」、また、結婚までの青春の錯綜を描く「愛と青春と生活」。
  • 仮装人物
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    仮装舞踏会で被せられたサンタクロオスの仮面の髯がマッチを摺るとめらめら燃えあがる、象徴的な小説の冒頭。妻を亡くした、著者を思わせる初老の作家稲村庸三は、"自己陶酔に似た"多情な気質の女、梢葉子の出現に心惹かれ、そして執拗な情痴の世界へとのめり込んでゆく。冷やかに己れのその愛欲体験を凝視する"別の自分"の眼。私小説の極致を示した昭和の名作。第1回菊池寛賞。
  • あにいもうと 詩人の別れ
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    長い沈潜の後、自らの抒情を封じ、野性の愛を描いて見事に第2の昴揚期を開いた「あにいもうと」(文芸懇話会賞)。深い愛で妻の発病と命の揺らぎを見つめた「死のいざない」。親しい詩人達の友誼と理非を超えたその死を語る「信濃」「詩人の別れ」ほか、「つくしこいしの歌」「庭」「虫寺抄」等。逞しい作家魂とひたむきに追う犀星の美意識が展開する多彩な中期作品群より8篇を収録。
  • 極楽 大祭 皇帝 笙野頼子初期作品集
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    群像新人賞「極楽」を含む最初期の作品三篇。地獄絵を描くことを人生の究極の目的とした男の心象を追求した「極楽」、現実からの脱出を願う七歳の子供の話「大祭」、初期の代表作「皇帝」。著者の原点三篇を収録。(講談社文芸文庫)
  • 贋物・父の葬式
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    私小説作家にして破綻者の著者。彼の死とともに、純文学の終わりとまで言われた。その作品群は哀愁と飄逸が漂い、また、著者の苛烈な生き方が漂う。(講談社文芸文庫)
  • 暗い流れ
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    ハレー彗星が地球に大接近し、湯河原で幸徳秋水が逮捕された明治43(1910)年、著者5歳から書き起こし、関東大震災の翌年、田舎の代用教員を辞し東京に出て地元の有力者の書生となった大正13年20歳を目前にする頃までを、北海道の原野を背景に描く自伝小説。抗し難い性の欲望に衝き動かされた青春の日々を独得の語り口で淡々と綴る傑作長篇。日本文学大賞受賞。
  • おまんが紅・接木の台・雪女
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    片隅に生きる職人の密かな誇りと覚悟を顕彰する「冬の声」。不作のため娼妓となった女への暖かな眼差し「おまんが紅」。一葉研究史の画期的労作『一葉の日記』の著者和田芳恵の晩年の読売文学賞受賞作「接木の台」、著者の名品中の名品・川端康成賞受賞の短篇「雪女」など代表作14篇を収録。
  • やすらかに今はねむり給え/道
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    昭和20年5月から原爆投下の8月9日までの日々――長崎の兵器工場に動員された女学生たちの苛酷な青春。一瞬の光にのまれ、理不尽に消えてしまった〈生〉記録をたずね事実を基に、綿密に綴った被爆体験。谷崎潤一郎賞受賞作「やすらかに今はねむり給え」のほか恩師・友人たちの最期を鮮烈に描いた「道」を収録。鎮魂の思いをこめた林京子の原点。
  • しあわせ/かくてありけり
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    母と別れた父親の“果たせぬ夢”であった慶応幼稚舎に入学。しかし母は芸者屋の主人でありみずから左褄もとっていたので、家業や住所は“秘匿”する習性がついていた。幼時・少年時に住んだ土地を訪ねるに始まり、時代を写し自らの来しかたを凝視して読売文学賞を受賞した表題作と短篇の名品と呼ぶべき「しあわせ」を併録した鏤骨の一冊。
  • 澪標・落日の光景
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    亡き妻への愛を吐露して哀切限りない「夢幻泡影」。読売文学賞受賞の名著、著者のヰ夕・セクスアリス「澪標」。夫婦ともにガン発病、迫り来る死とたたかう闘病生活の不思議な明るさと静寂感充ちる「落日の光景」「日を愛しむ」。愛する者の死。人生の不可思議。末期の眼。死へ向う透明な生。外村文学の鮮やかな達成4篇。
  • 兵隊宿
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    乗船直前、自分の家に泊った3人の出征将校の姿に、未知の大人たちの世界を知り微妙に変わる少年の心の襞。川端康成文学賞受賞「兵隊宿」と、「少年の島」「流線的」「緋鯉」「虚無僧」ほか共通の主人公による9つの短篇群。『往還の記』『式子内親王・永福門院』等、日本の古典を材に優れた評論を持つ著者の『儀式』『鶴』に続く代表的名篇。
  • 時に佇つ
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    昭和初年のプロレタリア文学運動。弾圧下の非合法活動。戦前・戦中・戦後を通し真摯に闘い続ける著者が、激動の時代の暗い淀みを清冽、強靱な“眼”で凝視し、「時」の歪みの底に沈む痛ましくも美しきものを描出する自伝的短篇連作12篇。窪川鶴次郎の死の周辺を綴った「その十一」の章で川端康成文学賞を受賞。
  • 女の宿
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    大阪に住む友人の女流画家とその義妹の家に宿をかりた私。そこに偶然訪れた二人の女客。隣家から響く無遠慮な女の声。さりげない日常の中に、時代の枠に縛られながら慎しく生きる女たちの不幸と哀しみとを刻み込む、女流文学賞受賞作「女の宿」。ほかに名篇「水」、「泥人形」「幸福」など、人々の真摯な生きざまを見事に描き上げた13篇を収録。
  • 私の東京地図
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    上野池之端清凌亭のころ、丸善時代、芥川龍之介や中野重治らとの出逢い。非合法活動、結婚、敗戦……住み馴染んだ東京の街、戦禍で失われた街。様々な思い出を、人々の善意と真摯な営みの中に描く。戦争責任追及の渦中に身を晒しながら自らの過去を探り、心に自らを問い、自らを確かめるように書き刻んだ名作。
  • 供述調書 佐木隆三作品集
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    ジャンケンで決めるという奇抜な発想で、企業の首切りを痛烈に諷刺した「ジャンケンポン協定」(新日本文学賞)、ダム建設に反対し一人で国家権力と闘った男がモデルの実録的小説「大将とわたし」、著者の沖縄生活が生んだ基地の街の男女の生態を描く「シャワー・ルーム」等、作家の軌跡の節々の作品に、犯罪を主題に現代の若者の精神の崩れを衝く「供述調書」を加えた代表作5篇。
  • 大陸の細道
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    M農地開発公社嘱託として満州に赴いた木川正介。喘息と神経痛をかかえ、戦争末期の酷寒の中で、友情と酒を味方に人生の闘いをはじめる。庶民生活の中の「小さくて大きな真実」。“日本の親爺”木山捷平が、暖かく、飄逸味溢れる絶妙の語りくちで、満洲での体験を私小説世界に結晶させた。芸術選奨受賞作。

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