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【全作品レビューあり】雲田はるこ大解剖! BLから落語まで網羅する「くもはる」ワールドに迫る

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雲田はるこバナー

代表作『昭和元禄落語心中』(講談社)のアニメ化、ドラマ化によって注目を集める雲田はるこ先生。その色香の漂う絵で、胸を突く台詞で、大胆なコマ割りで、魅力的なドラマを紡ぎ出す圧倒的筆力で――腐女子から一般漫画ファンまで幅広く支持されています。登場するキャラクターはみな個性的なのに、どこか懐かしい雰囲気も漂う作品世界。多くの人々を魅了してやまない「くもはるワールド」を、くもはるファンの書店員がご案内します!

また、リンク先の電子書籍ストアBookLive!では、新規入会者限定の50%OFFクーポンを差し上げています。気になった方はご利用ください!

※当記事に記載の内容は全て「ぶくまる編集部調べ」です。また、当記事にはネタバレを含みます。

雲田はるこ(くもはる)先生のプロフィール

デザイン系専門学校を卒業後、しばらくたった2002年頃から同人活動をスタート。そして、『ピアニシモでささやいて』(小学館)などで知られる漫画家・石塚夢見さんのアシスタントを経て、2008年に漫画家デビューを果たします。デビューコミックは短編集『窓辺の君』(東京漫画社)。それから『野ばら』(東京漫画社)や『いとしの猫っ毛』(ビーボーイ編集部)などのBL作品を手掛けるほか、2010年から連載開始した『昭和元禄落語心中』(講談社)で初の一般作品を発表します。また、男性の体について語り尽くした対談集『オトコのカラダはキモチいい』の装丁画を手掛けるなど、BL漫画界のトップランナーとして幅広く活躍。

雲田はるこ作品・全作レビュー

【一般漫画】

落語に生涯を捧げた男たちの物語『昭和元禄落語心中』

『昭和元禄落語心中』書影

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完結『昭和元禄落語心中』 全10巻 雲田はるこ / 講談社

時は昭和50年代、テレビの普及や漫才ブームに押されて人気が下火になりつつある落語界において、“昭和最後の大名人”と称される有楽亭八雲。弟子を取らないことで有名だった彼のもとに、刑務所上がりの元チンピラ“与太郎”が押しかけてきて弟子入り志願をし、なんと八雲の一番弟子に収まってしまうのです。

『昭和元禄落語心中』八雲と与太郎

そうして八雲宅に転がり込んだ与太郎は、己の落語の道を模索する中で、師匠である八雲とその兄弟弟子で故人の有楽亭助六との過去の因縁に巻き込まれていき……。

2シーズンにわたるアニメ化、岡田将生主演でのドラマ化(NHK)などによって、雲田はるこ先生をメインストリームに押し上げた代表作。戦前から現代にわたるまでの落語界の変遷を、有楽亭八雲という大名人の人生を主軸に紡ぎ上げる壮大な物語です。
雲田先生自身が落語に惹かれ、もっと知りたいという気持ちから生まれた作品だけに、その描写の巧みさや物語とのリンクは見事の一言に尽きます。

『昭和元禄落語心中』八雲の落語

例えば、落語を愛するがゆえに、落語文化が変わってしまうくらいなら自分が葬り去ってしまおう、と考えている八雲の得意ネタが「死神」なのは、まさにその象徴と言えそうです。

また、菊比古(八雲の二ツ目時代の名前)と助六をはじめ、自分たちの美学に殉じる落語家たちの個性のぶつかり合いも大きな見どころです。菊比古と助六は一番の理解者であり親友でありながらもその性格も落語の型は正反対。完璧主義で優等生タイプな菊比古に対して、やんちゃでだらしないけれど愛嬌あふれる天才肌の助六。

『昭和元禄落語心中』助六の落語

相手の技量は認めるが自分の落語が一番。そこには一切の妥協も譲歩も存在しない――そんなヒリヒリする男同士の関係が描けるのは、雲田先生がBL出身だからこそではないでしょうか。

数十年にわたる時の流れを描いた本作において、登場人物たちの経年変化も雲田先生のこだわりポイントだそう。愛嬌はそのままにお腹の肉とともに貫禄を身に着けた与太郎や、神経質そうなイケオジに育った萬月師匠、すっかり丸くなった小夏など、その姿から漫画には直接描かれていない年月の流れすら感じられ、「あーーー、ここに人生が描かれている。この人達はみんな生きている……!」と謎の涙が溢れ出し、何度でもこの世界に浸りたくなってしまうのです。

人気小説を瑞々しくコミカライズ『舟を編む』

『舟を編む』書影

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完結『舟を編む』 全2巻(上下巻) 雲田はるこ・三浦しをん / 講談社

玄武書房辞書編集部では、新しい時代の辞書「大渡海」の刊行を目指しながらも、ベテラン編集者・荒木が定年を迎えるというピンチに直面していました。そこでスカウトされてきたのが、鋭敏な言語感覚を持つ営業部の馬締光也。言葉を愛する編集者たちの熱くて長い大航海が始まります。

人気小説家・三浦しをん先生の小説を雲田はるこ先生がコミカライズしたなんとも贅沢な作品がこちら。
松田龍平と宮﨑あおいのW主演で映画化され、国内の映画賞を総なめにしただけに、その面白さは折り紙付き。ただでさえ魅力的な物語が雲田先生の手で漫画になっている――この情報だけで、十分に素晴らしい作品であることが伝わってしまうかと思いますが、敢えて語らせてください。小説や映画とは一味違うコミカライズの愛おしさを。

コミュニケーション下手で営業部では厄介扱いされるほどクソ真面目な馬締のかわいさが……150万点……。同じ下宿に住む女性料理人の香具矢さんに惚れて一喜一憂したり、同僚の西岡にからかわれてあたふたしたりするくせに、「言葉」に関しては天才的なセンスを発揮するのです。

この感じ、三浦先生をはじめ、全ての文系女子が大好きな男じゃないですか……?
そして馬締の想い人・香具矢の浮世離れした美しさ。

これは馬締ならずとも、ときめいちゃいますよね〜。

また、馬締と正反対のチャラ男・西岡との友情にもキュンキュンさせられます!
漫画だからこそ表現し得た、キャラクターたちの瑞々しい存在感。原作や映画を鑑賞済みの方でも、また新たな魅力を発見できるはずです。

【BL漫画】

“何気ない幸せ”を全部のせしました。『いとしの猫っ毛』

『いとしの猫っ毛』書影

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『いとしの猫っ毛』 1~5巻 雲田はるこ / ビーボーイ編集部

北海道-東京間の数年来の遠距離恋愛を経て、この春から「またたび荘」でラブラブ同棲生活を始める恵ちゃんとみいくん。のはずが、そこはオカマのポンちゃんや夜の蝶・ヨーコさんらアクの強い住人が暮らす、魔窟のような場所だったのです……。プライベートはほぼゼロで騒がしいけれど愛おしい、「またたび荘」での日々が温かい筆致で描かれます。

昭和の古き良き漫画を彷彿とさせる下宿ぐらし(決して、“ルームシェア”ではないのです、決して……!)で繰り広げられる、ほっこり幸せな日常。1巻の時点で友達として12年、恋人同士としても7年近く付き合っているのにキス以上はしたことのない2人が、いきなり一緒に暮らすことになってもだもだしながらも関係を進めていく様は、眺めているだけでこちらも幸せな気持ちにしてくれます。

『いとしの猫っ毛』キスシーン

住人たちにからかわれないよう、わざと「道に迷ったから迎えに来て」とみいくんを呼び出し、帰り道にキスをするとか……え、かわいさ検定1級保持者ですか……?

そんな甘い日々の中にも、みいくんの唯一の肉親である祖母から交際を反対されたり、

『いとしの猫っ毛』祖母の反対

みいくんのゲイ友達・ハルくんにちょっかいをかけられて、ゲイとノンケの意識の違いを突きつけられたり……。

『いとしの猫っ毛』ハルくんと恵ちゃん男同士で付き合っていく上で直面するであろう問題が描かれています。しかし、そこに重きを置きすぎることはない雲田先生の絶妙なバランス感覚によって、どこまでも優しいのにファンタジーすぎない、唯一無二の「猫っ毛」ワールドが構築されているのです。

今は幸せに暮らす2人ですが、北海道にいた頃は、特にみいくんにとって辛い時期でした。北海道時代のエピソードが収録されているのが『いとしの猫っ毛 小樽篇』。まだ友達同士だった高校時代の2人が気持ちを確かめ合う過程と、みいくんが東京で暮らすきっかけとなる悲しい事件、そしてみいくんと恵ちゃんの別れが描かれています。

『いとしの猫っ毛』小樽篇読むのが辛いシーンもありますが、こうした過去があって今の2人がいるのだと思うと、本編の味わい深さが一層増します。

また、『いとしの猫っ毛 番外篇』では、これまで描かれなかった遠距離恋愛中のみいくんと恵ちゃん、ポンちゃんと鬼編集者・火野さんのラブシーン(!!!)などが描かれています。全作読破後に読めば、「あーーーー!! ここが!! こうなって!! こうね!!!!」と首がもげるほどの巨大カタルシスが得られること間違いなし。「猫っ毛」ファン必読の書です!

ロクデナシどもへの愛の讃歌『新宿ラッキーホール』

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完結『新宿ラッキーホール』 全2巻 雲田はるこ / 祥伝社

新宿の雑居ビルの一室にあるゲイビデオ制作会社(株)ラッキーホール。取締役の桧山苦味はポルノスターKとしてその名を馳せた元人気ゲイビ男優で、スカウト担当のサクマは元ヤクザです。ビジネスパートナーと呼ぶには近すぎて、恋人と呼ぶには事情が込み入っていて、セフレと呼ぶには心が通いすぎている……。そんなロクデナシ2人のエロティックで危ないラブ(?)ストーリー。

主人公が元ヤクザと元ゲイビ男優という、雲田先生には珍しいアウトローな設定の本作。そして、これまた珍しい肌色率高めなエッチシーンの数々が堪能できるのがありがたい……!

『新宿ラッキーホール』ノンケリーマンと苦味

さっきまで「男性となんて無理」と言っていたノンケリーマンも、苦味の手にかかれば即堕ち。自身もセックスを思い切り楽しんでいる苦味ですが、サクマと出会った頃は父親は自殺、住む家も頼るべき大人もなくどん底にいました。

『新宿ラッキーホール』サクマと苦味

そして、サクマも同じく慕っていた組長から見捨てられ、仕事としてゲイビ男優を仕込むしみったれた生活をしているところでした。

『新宿ラッキーホール』若き日のサクマと苦味

世間から見捨てられた者同士で肩を寄せ合って生きていた過去の2人と、飄々とふざけ合ってそんな過去を感じさせない現在の2人が、読み手の中で重なり合った瞬間、一気に物語世界の奥行きが増すような……。雲田先生の構成の妙に思わず膝を打ちます。

吸血鬼に女装男子……あなたのお気に入りのくもはる男子は?『ばらの森にいた頃』

『ばらの森にいた頃』書影BookLive!で購入する

完結『ばらの森にいた頃』 全1巻 雲田はるこ / 祥伝社

表題作を含む4作品を収録した雲田先生3冊目の短編集。
表題作「ばらの森にいた頃」は、食用ばらの栽培を生業とする吸血鬼(バンパネラ)正宗とその恋人の生まれ変わりである人間の少年・陽の物語。萩尾望都先生の人気作『ポーの一族』(小学館)をオマージュした、「バンパネラ」という吸血鬼の呼称が耽美的かつ幻想的なムードを引き立てます。

『ばらの森にいた頃』正宗と陽

血の糸を引く長い舌がエロティック……! 魅入られたが最後その身を滅ぼしかねない、人ならざるものが持つ美しさにゾクゾクしてしまいます。何百年もの時を、生まれ変わりを繰り返して共に過ごしてきた政宗と陽は、今生ではどのような結末を迎えるのでしょうか?

売れないおっさん俳優と今をときめく人気若手俳優の物語「モンテカルロの雨」は、イケメン俳優・ジャンとの女装デートが見どころ。

『ばらの森にいた頃』「モンテカルロの雨」ジャンとレン

21歳の青年らしい無邪気さと色気が同居したジャンの女装は、まさに雲田先生の真骨頂! おっさん俳優・レンの枯れた魅力にも要注目です。

オムニバス『ダメBL』(ブックマン社)に収録されていたフェチBL、「Be here to love me」も、くもはる男子の危うい魅力が満喫できる作品です。

『ばらの森にいた頃』「Be here to love me」先輩と町田くん

女性顔負けの脚線美の持ち主である後輩の町田くんと、足フェチで明るいバカの先輩とのちょっぴりエッチな駆け引きにときめきが止まりません……!

やさしさあふれるハートウォーミング作品集『野ばら』

『野ばら』書影

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完結『野ばら』 全1巻 雲田はるこ / 東京漫画社

表題作の他2篇を収録した中編集。表題作の「野ばら」はバツイチ子持ちアラフォー男性・神田と、神田が働く洋食店の若店主・武が主人公の物語です。くたびれた中にも不思議な色気のある神田のことが気になっていた武は、神田の娘・モネとも家族ぐるみで付き合ううち、彼に恋している自分に気付きます。

デビュー後2作目の本作はややレトロテイスト強めの作画ですが、そのタッチが物語のあたたかさとマッチして、大きなドラマはないものの、読み手の心を大きく揺さぶる作品となっています。中編とあってコンパクトにまとめられていますが、モネの誕生日を武の手料理で祝ってあげたり、電車で眠るモネを膝に乗せた神田がさらに武にもたれかかって……、といった日常描写によって、短さを感じさせない味わい深い仕上がりに。

『野ばら』武と神田自分の気持を打ち明けた武を、バツイチの神田は素直に受け入れられず拒絶してしまいます。2人の恋路は一体どうなってしまうのか……!?

レトロポップタッチがより活きているのが「みみクンのBOYの季節」。体は男・心は乙女のみみクンが、バーテンダーの薫チャンとの恋を成就させるべく奮闘する物語です。

『野ばら』「みみクンのBOYの季節」顔は美少女だけどガタイのいいみみクン。「女の子になりたい」という夢と、薫チャンと結ばれる夢とを両立できるのでしょうか?

2作目にしてノンケ男性✕子持ち男性、性転換希望男子✕ゲイ男子といった難しいテーマを軽やかに描いてしまう雲田先生。その才能の片鱗を感じるのにぴったりの1冊です。

フレッシュな魅力あふれる雲田先生のデビューコミック『窓辺の君』

『窓辺の君』書影BookLive!で購入する

完結『窓辺の君』 全1巻 雲田はるこ / 東京漫画社

専門学校卒業後、同人活動を続けていた雲田先生の商業デビューコミックとなる本作。東京漫画社のBLアンソロ「カタログシリーズ」に掲載された各話が1冊にまとめられています。

表題作「窓辺の君」は、大学教授の助手をしている柴田と、いつも一人で学食の窓辺の席にいる“窓辺の君”のお話です。柴田は初めて彼を見かけてから数年間、一度も声を掛けることなく片思いを続けていました。しかし、研究室にやってきた彼は想像を裏切るおバカ学生で……。
研究の傍ら薔薇の育種をするロマンチストな柴田と、「年下も同い年もおばーちゃんもクリアした今!!」男と付き合いたいと柴田に迫る“窓辺の君”こと竹宮。

『窓辺の君』柴田と竹宮情緒が全く噛み合わない2人が互いを理解し合う奇跡の瞬間は訪れるのか……。デビューしたてのみずみずしい感性で描かれる各話のそれぞれクライマックスに、今の作品にも通じる雲田先生のセンスがきらめいています。

愛嬌命の年下ワンコと生真面目な年上男子が登場する「GOOD BYE,HONEY」は、つれない年上男子が『新宿ラッキーホール』のサクマ、年上男子にべた惚れのワンコ男子が同作・苦味を思わせるなど、後の作品と共通する要素も感じられます。

『窓辺の君』「GOOD BYE,HONEY」最初期作品だからこその表現と、くもはる作品にずっと通底する表現と……といった視点で読んでみても楽しいかもしれません。

【その他】

くもはるファンならマストバイの1冊『雲田はるこBL原画集 Boy’s Life』

『雲田はるこBL原画集 Boy’s Life』書影

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完結『雲田はるこBL原画集 Boy’s Life』 全1巻 雲田はるこ / ビーボーイ編集部

『いとしの猫っ毛』を中心に、雲田先生の全BL作品のカラー・モノクロイラストを集めた1冊。イラストの他に、くもはるファンの文筆家・少年アヤさんによる「猫っ毛」へのラブレター、お菓子研究家・福田里香さんと雲田先生の対談、描き下ろし漫画、雲田先生へのインタビューなどもたっぷり収録されています。

抜群の画力を持つ雲田先生だからこそ実現し得た本作。ページをめくれどもめくれども、雲田先生の美麗なイラストが現れるという幸せは、「眼福」と呼ぶ他に表現しようがありません。青年マンガ『あれよ星屑』(KADOKAWA)や、長寿BLマンガ『春を抱いていた』(ビーボーイ編集部)など、さまざまなマンガに寄せられた寄稿マンガ・メッセージも収録されていて、雲田先生の思考をより深く知ることもできます!

読んで美味しい、作ればさらに美味しい♡『R先生のおやつ』

『R先生のおやつ』書影

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完結『R先生のおやつ』 全1巻 雲田はるこ・福田里香 / 文藝春秋

『雲田はるこBL原画集 Boy’s Life』で対談するなど、雲田先生と交友の深いお菓子研究家・福田里香さんとの共著。初老のお菓子研究家・R先生と、元庭師で甘い物好きのKくん、カメラマンのAさんの3人が織りなす美味しいストーリー付レシピブックです。

ふっくらほこほこおいしいポップオーバーにピンク色がかわいいいちごのスープを添えた「ポップオーバーといちごスープ」や、サクサク食感の揚げ白玉を甘酒に浮かべた「揚げ白玉と甘酒しるこ」など、その名を聞いただけで涎が出そうな、絶品お菓子レシピを25品ご紹介。登場人物たちがレシピ掲載のお菓子を美味しそうに食べるコミックページにそそられて、自分でもお菓子作りに挑戦したくなってしまいます!

キーワードで読み解く「くもはるワールド」

男の「女装」は似合いすぎてないのがいい!

「女装男子」というと、女性顔負けの可憐な美少年というイメージですが、雲田先生が描く女装男子はガタイがよかったり、むっちり体型だったりと「ザ・男の女装」。雲田先生自身「装うことで男らしさが強調されるから、男丸出しな女装が好き!」なのだそう。
実際に『野ばら』収録の「みみクンのBOYの季節」の主人公・みみクンは平均的な男性よりも大柄でむっちりした体型。それゆえ、天然気味かつ乙女チックなみみクンからも、青年らしい色気が感じられます。『いとしの猫っ毛』に登場するオカマのポンちゃんもしっかり男性体型。世話焼き女房的なキャラクターと男性っぽい体型のギャップがアンビバレントな魅力に。

愛があれば受けでも攻めでも……「リバ」

受け攻めが逆転する「リバ」が見られるのも、くもはる作品の特徴。そこには、受け攻め関係なく、互いが互いに性的に惹かれるのが自然ではないかという、雲田先生の考えが反映されています。

中でも印象的なリバといえば、やっぱり『新宿ラッキーホール』のサクマと苦味ではないでしょうか。最初は借金のカタに売られてきた少年と性技を仕込むヤクザとして出会った2人。当然、サクマが攻める側でしたが、苦味が成長し、対等な男同士となった頃に一度、受け攻めが逆転します。苦味の前ではどこか“保護者”として振る舞っていたサクマが苦味に抱かれてトロトロになってしまうこのシーン、「やっと2人は結ばれた」と目頭が熱くなります。「リバに大事なのは物語による説得力」というのが雲田先生のポリシー。リバが苦手な人にも、くもはる作品のリバだけは読んでみてほしい……!

年輪を重ねたからこそ立ち上る「初老」の魅力

『昭和元禄落語心中』の八雲師匠をはじめ、くもはる作品に登場する初老の男性たちは齢を重ねてきたからこその奥行きある魅力をたたえています。日本独特の侘び寂びにも似た、初老男性の枯れた色気……。雲田先生が日本に生まれてきてくれたことを感謝するしかありません! 特に八雲師匠は大名人と呼ばれながらも落語に絶望していた初老期から、色々な肩の荷を下ろした穏やかな晩年という変化も描かれています。一匹狼然とした気難しい八雲師匠もいいですが、穏やかに微笑む姿にも胸が締め付けられる……。年を取るほどに「生き様が顔に出る」といいますが、キャラクターの佇まいや表情からその生き様を感じさせる、雲田先生の卓越した画力にシビレます。

「人の気持ちを自分の都合で決めつけてはいけない」という考え方

『いとしの猫っ毛』や『昭和元禄落語心中』など、複数の作品で表わされている「人の気持ちを自分の都合で決めつけてはいけない」という考え方。たとえば『いとしの猫っ毛 小樽篇』で、恵ちゃんとの関係を壊さないため自分の恋心は封印しようとするみいくんに対して、母の友人でゲイの年上男性・清水が自分の過去の恋人との別れを振り返って、「全ての間違いの始まりは僕が勝手に彼の気持ちを作っちゃったとこ」と語ります。そして、自分が傷つかないために「相手のためだ」なんて言い訳せず、本当に恵ちゃんのことを考えるように、と。

漫画の「お約束」に収まらない、繊細で複雑な感情表現がくもはる作品の真髄。八雲師匠の「憎んだり甘えたり泣いたりせわしないね 人間なんてなァそんなような訳のわからねえ心持ちでできてんだ」という台詞からも、その懐の深さが垣間見えます。

雲田はるこ・作品年表

※クリックしてご覧ください

雲田はるこ・作品年表

終わりに

BLでも落語でも、テーマに対する深い愛を持って作品を作る雲田先生。それゆえに作品世界にはあたたかな優しさに満ち溢れ、読めば思わず頬が緩みます。特に、『猫っ毛』の恵ちゃんや『落語心中』の与太郎らが見せる「ピャハ!」という笑顔は世界を平和にすると断言できます!! 漫画を読むことで得られる幸せが全て詰まった「くもはるワールド」。次作は「じっくり準備中」なのだそう。次はどんな新しい世界を見せてくれるのか、そして恵ちゃんとみいくんの関係はどんな展開を見せてくれるのか。心ときめかせながら待ちたいと思います!

関連ページ

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