書店員おすすめのヤクザBL漫画13選～ダークな男だけの世界～
※2021/3/17に『四人のにびいろ』『コオリオニ』『素晴らしきこのクソ世界』『NIGHTS BEFORE NIGHT』を追加しました。
「ヤクザもの」と聞くと、強面の男達がドンパチ抗争をしたり、裏切り者が海に沈められたりといった恐ろしげな連想をしがちですが、実はそこにはおいしい萌え要素がたっぷり含まれています。命を懸けた男同士の絆、信頼と裏切り、血を超えた舎弟関係……などなど、まさにBLカップリングの見本市！今回は書店員オススメのヤクザBLを13作品ご紹介します。BLコミック界でトップクラスの人気を誇る、ヨネダコウ先生の『囀る鳥は羽ばたかない』に代表されるような、ハードでダークな男だけの世界――ヤクザBLが今、アツい！
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目次
『四人のにびいろ』
完結『四人のにびいろ』 全3巻 akabeko / 祥伝社 on BLUE comics
ズブズブの共依存に陥った義兄弟を中心に広がる闇の世界
【エロ度】★★★★☆
母親に愛されず、孤独を抱えて生きる十川誠と、その反対で愛されて育った父親違いの弟・十川相（あい）。暴力的な誠の癇癪により肉体関係が始まった二人でしたが、成長後ヤクザになり、誠が謎の青年・ベティを囲い出したことで距離ができるように。誠からベティを逃がそうとするヤンキーの勇を巻き込んで、裏社会の壮絶なお家騒動が始まります。
母親のせいで女性恐怖症になった誠は、唯一のコミュニケーション手段である暴力で強引に相を組み敷きます。そんな義理の兄が哀れで仕方ない相は、憐れみから誠の全てを受け入れます。どうしようもないドロドロの共依存関係の義兄弟＋片っ端から闇落ちしているキャラたち＋地べたから這い上がろうとする懸命さが血で血を洗うヤクザの世界とマッチして、闇女子のためのアンハッピーセットが出来上がり。「自分を見て欲しい」「存在を認めて欲しい」、ただそれだけの願いが叶わないもどかしさが作品からあふれ出しています。
危険だけど脆い誠×まともに見えて一番闇が深い相のメインカップルと、裏社会にズブズブなビッチのベティ×ヤンキーだけどまっすぐな勇、2組のバランスが絶妙。ヤクザ描写、暴力描写も多く、エロシーン含めて全体的に胸が苦しくなりますが、読後感は未来を感じさせる明るいもの。光の腐女子でも安心してお読みいただけます。
『コオリオニ』
『コオリオニ』 1～2巻（上下巻） 梶本レイカ／新潮社
社会から外れた“死にたがり”2人の行方は——？
【エロ度】★★★★★
かつて北海道を震撼させた警察の不祥事。今作はその実話から着想を得て、容赦ない暴力とエロ描写で描き切っています。銃器の取り締まりを専門とする刑事・鬼戸は魔性のヤクザ・八敷をエス（スパイ）とするために近づき、癒着して “やらせ捜査”を行います。
『悪魔を憐れむ歌』（新潮社）などで知られる鬼才・梶本先生ならではの、ぶっちぎりでハードなエロと暴力描写が特徴。ゴリゴリのヤクザ描写、暴力描写がたっぷりなので、血やバイオレンスが苦手な方はご注意ください。反対に、本気のヤクザものを読みたい方、どっぷり闇属性の方、映画「日本で一番悪い奴ら」などがお好きな方は、一刻も早いダウンロードをおすすめします。
正義感ゆえ出世できなかった父のようにはならないと、ごく普通に不正を働き、殺人すらも厭わない鬼戸。父からの性暴力で心を“コオリ”漬けにし、ぶっ飛んだ人生を送る八敷。北海道の特殊な土地柄で、どちらも「自分を普通だと思い込んでいるタイプの異常者」である2人が出会い、生きるために信じあい、腹を探りあい、他人を出し抜く様が、鬼気迫るタッチで描かれます。ラブシーンの糖度が高いだけに、日常のハードボイルドシーンがしんどいのなんの。邪魔者を排除していく2人が、逆に周囲からじわじわと追い詰められる様子から目が離せません。
『素晴らしきこのクソ世界』
完結『素晴らしきこのクソ世界』 全1巻 たうみまゆ / 秋田書店
極道の世界とオメガバースの設定が絶妙にリンク
【エロ度】★★★☆☆
『隅田川心中』（東京漫画社）などを手がけるたうみまゆ先生が、極道×オメガバースという異色の設定に挑んだ意欲作。とある理由で脱サラしてヤクザになった橘（α）は、満島組の若頭を務める五嶋（β）のもとで風俗店のケツ持ちとして働いています。悪質なドラッグの出元を突き止めようとする橘は、その過程で五嶋の秘密を知ってしまい……。
上（α）の存在が絶対という、ヤクザBL・オメガバースの接点を絡めた設定が巧みです。特にカタギの世界から極道に入った橘が、αが牛耳るヤクザの世界が一般社会そのものだとして、「何が『反社』やアホンダラ」と啖呵を切るシーンは胸熱。のんびりしているようで頭がきれ、大人しくみえて豪胆。清濁あわせ呑んだ橘は、ヤクザ界ではあまりに愛おしい存在です。
そんな橘が憧れてやまないのがスタリッシュヤクザの五嶋。仕事ができ、大人の駆け引きを展開する一方、暗すぎる過去を背負う様子がとてもおいしい。そして気になるポジションは……受……ッ！ ヤクザBL属性、刺青フェチ、男前受属性はこぞってお楽しみください。
『NIGHTS BEFORE NIGHT』
完結『NIGHTS BEFORE NIGHT』 全1巻 ナツメカズキ / 東京漫画社
ヤクザの息子×ワケあり元ヤクザのキュン要素多めBL
【エロ度】★★★★☆
ゲイ向けデリヘル「Rain」を舞台にした『MODS』（東京漫画社）のスピンオフ。「Rain」のオーナーで元ヤクザの春は、問題を起こして謹慎処分になった一条組組長の息子・雪鷹を1カ月の間預かることに。出会った雪鷹をみて、春は衝撃を受けます。なぜなら彼が、11年前に亡くなったかつての想い人・時雨にそっくりだったから——。
それもそのはず、雪鷹は時雨の腹違いの弟だったのです。
何を考えているかわからない春に、はじめは反感を抱く雪鷹。しかし、春が11年間ずっと不眠で苦しんでいることを知り、力になりたいと決意します。夜空の下での「……俺が 俺が眠らせてやる」のワンシーンはヤクザBLとは思えないほどロマンチック！ かたや、境遇から逃れたいと思いながらそれぞれが苦しむ姿はヤクザBLの王道パターンで、互いに自分を犠牲にして相手を守ろうとする2人にキュンキュンします。
春と時雨の回想シーンもきちんと描かれているため、本編未読でも問題なし。いかつめ短髪の春が、自暴自棄に生きていたロン毛時代から、時雨のイロを経てカタギになるまでのビジュアルの変遷がおいしすぎます……！ また、時雨によく似た雪鷹が、経験を積んで立派なヤクザになっていく様子にもキュン。満を持しての濃密なエロシーンにも満足できるはずです！
『囀る鳥は羽ばたかない』
『囀る鳥は羽ばたかない』 1～7巻 ヨネダコウ / 大洋図書
美しくアブノーマルな男たちの危険な競艶
【エロ度】★★★★☆
受けがドMで変態のヤクザ幹部、攻めがその部下で元警察官というセンセーショナルなカップリングと、極道の世界を舞台としたノワールな世界観が、全腐女子の心を掴んで離さない、ヨネダコウ先生の新境地。美貌のヤクザ幹部・八代、その部下・百目鬼（どうめき）、八代の学生時代からの友人で傷フェチな医者の影山、影山のもとに身を寄せるチンピラ・久我など、一癖も二癖もあるキャラクターたちがスリリングなドラマを繰り広げます。
『どうしても触れたくない』や『それでも優しい恋をする』など、繊細で切ない作風で知られていたヨネダ先生ですが、そこから一転。本作はコマの隅々までダークで危うい世界観です。忠犬のように言葉少なに八代に付き従う百目鬼と、百目鬼の気持ちを知りながらも他の男と体を重ねていることを隠さない八代。ヤクザ組織の幾重にも張り巡らされた罠に、八代と百目鬼は絡め取られてしまうのでしょうか？ 先の読めない展開に、釘付けにされてしまいます！ 甘さをぐっと抑制したビターなストーリー展開は、まさに「大人腐女子のためのBL」と言えるでしょう。
最新5巻（2018年現在）で1部完結となった「囀る鳥」。2017年末にはコラボカフェが開催されるなど、乗りに乗っている本作をこの機会に手にとってみてください！
『ほんと野獣』
『ほんと野獣』 1～13巻 山本小鉄子 / 海王社
かわいいヤクザと男前警官にキュンキュン♡ 明るく楽しい現代版ロミジュリ
【エロ度】★★★☆☆
交番勤務の警察官・上田朝春(うえだともはる)は非番中に下着ドロを捕まえ、泥棒を追ってきた後藤田輝(ごとうだあき)と出会います。すると明くる朝、オールバックにサングラスという、いかにも“その筋の人”といった風体の若者が自宅を訪ねてきて
「一目惚れだ」
と告白。突然の出来事に戸惑いながらも、とりあえず
「まずはお知り合いから」
と返事をしますが、気付けば輝は上田の中でかけがえなのない存在になっていて……。
ヤクザ✕警察官という、まさに「現代のロミオとジュリエット」と呼ばれるにふさわしい、絶対に許されざる関係性の2人。なのに、なのに……2人の恋愛はどこまでも真っ直ぐで真っ当なのです！ 輝は警察官として働く上田を応援し、上田は極道の世界に生きる輝を心配しつつも理解していて、「ただの理想的なカップルや――ん!!!!」と突っ込みたくなります。しかし、その影には、互いの生きる世界を理解し合おうとする2人の思いが。真逆の世界に属しながらも相手を尊重し、関係性を深めていく過程がなんとも尊い。2人とも本当にいい男なんです……。
また、組の跡継ぎという極道界のエリートでありながら、前髪を下ろせば美少年フェイスでピュアな性格を持つ、輝のギャップもこの作品の魅力。男気はあるものの少し抜けたところもあって、警察官である上田に頭が上がらない力関係逆転感も萌ポイントです。大概のことでは動じない、肝の座った性格の上田のほうがヤクザに向いてるのでは？ と思ってしまうことも。
どこまでもアンバランスで凸凹な2人がゆっくりと愛情を深めていく、優しい世界にどっぷり浸ってみてください。
ヤクザBLにつきもののヒリヒリした危うさは少ないものの、「受けがヤクザなのにかわいい」「1組のカップルを長きに渡って見守れる」「メインカップルがとにかくラブラブで多幸感MAX」などなど、見どころ満載な本作。ヤクザBL好きだけではなく、長編BL好きや、受け溺愛BL好きにもおすすめの作品です！
『四代目・大和辰之』
完結『四代目・大和辰之【コミックス版】』 全1巻 スカーレット・ベリ子 / 新書館
真実の愛が1人の男を本物の極道にする1作
【エロ度】★★★★☆
関東を中心に全国に勢力を広げる一代ヤクザ組織「大和会（おおやまとかい）」。その四代目である辰之（たつゆき）は、なんと失恋が原因でヤクザ業へのやる気をなくし、無気力な日々を過ごしていました。しかし、そんな姿を見かねた若頭の浅生田（あそだ）によって福岡支部に送り込まれ、そこで“運命の人”と出会います。
『ほんと野獣』と同じく組長の息子が主人公。ヤクザの若って、骨の髄から極道って感じが萌えを誘いますよね！ 本作のカップリングは、過去にトラウマ持ちの保父さん・望✕ヤクザの四代目跡継ぎ・辰之。こちらもまったく違う世界に生きる2人が、ゆっくりと互いを理解していく過程に胸キュンが止まらない！ さらにモサモサの黒髪で眼鏡といういかにも草食系な望が、外見に反して天然強気なギャップもたまりません。さらにさらに、普段は攻撃的な辰之が望相手には強気に出られず、抱かれてフニャフニャになってしまうのが美味しすぎる……。それもカタギながらも、幼い頃に救いの言葉をくれた辰之を強く思い続け、彼と再び出会うためだけに生きてきた望だからこそ為せる技。色恋を超えた、強い感情に震えるほど萌えてしまいます！
ストーリーのキーマンである櫓木という人物もまた、魅力的な男。不健康そうでアンニュイな、大人の色香がムンムンです。辰之の父親・明虎と過去に関係があった彼は、明虎の気を引こうと辰之に目をつけます。理由をこじつけて彼を自宅に拉致監禁し、果ては無理やり犯してしまうのです。通常のBLならここでバッドエンドを迎えてしまいそうですが、そうならないのがヤクザBLの醍醐味。2人ともどこまでもタフで、暴力に簡単に屈しないところが尊すぎてしんどいです……。
本作の前日譚である辰之の失恋が描かれた『みのりの手』や、さらに過去に遡った櫓木と明虎の物語『ジェラシー』など、スピンオフも充実している本作。特に『ジェラシー』では、本作では当て馬的立ち位置だった櫓木が、若く今よりも危険な男だった時代のストーリーが描かれ、ヤクザBL好きにはたまらないノワールな世界観が楽しめます！
『媚の凶刃』
完結『媚の凶刃』 全4巻 池玲文 / ビーボーイ編集部
「ヤクザBL萌え」のすべてが詰まった贅沢な世界観
【エロ度】★★★★★
梅崎組・若頭で次期組長候補筆頭の加賦(かぶ)と、彼の部屋住みからのし上がった韮沢(にらさわ)は、極道に生きる男同士としても恋人同士としても深く結ばれた関係。裏の世界で生きていくための知識を仕込んでくれた加賦を、韮沢はまるで神のように崇めているのですが、組織内のしがらみが2人を引き離そうとして……。
組織内外での抗争といった血なまぐさい描写や、ヤクザ同士の濃厚な情交など、「これぞヤクザBL」なエッセンスがたっぷり詰まっているのが本作。『囀る鳥は羽ばたかない』でヤクザものにハマった人にこそおすすめしたい作品です。中でも特筆すべきは韮沢というキャラクター。二十歳前後というまだ幼さの抜けない年頃ながらも、加賦のためなら何でもできる覚悟と実力を持った、加賦専属の猛犬のような男なのです。人前にはめったに笑顔も見せず、拷問にあってもほとんど顔色を変えないのに、加賦の前ではぐずぐずに泣いたり、とろけるような笑顔を見せたりと、すさまじい破壊力のギャップを見せてくれます。もうこれ、重要文化財とかに指定したほうがいいと思うんですけど、どうでしょうか？
『媚の凶刃』シリーズの前作に当たる『媚の椅子』は、シリーズファンなら必見です。肉体的にも性的にも加賦に思い切りいたぶられる韮沢……という、衝撃的なシーンから始まり、最後まで目が離せなくなること間違いなし！ ハードコアであると同時に純愛ものでもある本作、全ての腐女子諸姉に届いてほしいです……！
『プリンス・ノワール』
完結『プリンス・ノワール【完全版（電子限定描き下ろし付）】』 全1巻 りーるー / シュークリーム
見た目はヤクザ、中身は10歳！ 奇跡のショタ攻めヤクザBL
【エロ度】★★★★☆
組内の権力争いによって事故に遭い、小学4年生の頃まで記憶が退行してしまった徳江組組長の工(たくみ)。組織内外の危ういパワーバランスを保つため、その事実は伏せられることに。そんな工の面倒を見ることになったのが、彼の“オンナ”であった若頭の勝頼(かつせ)。身体から記憶を取り戻させようと、心は子どもの工と体を重ねますが……。
見た目や世界観はまぎれもないヤクザBLでありながら、実際はショタ（記憶だけなので合法）✕オヤジというトリッキーな設定がなんとも魅力的です。外見は完全に大人なのに、ピザトーストのピーマンをよけたり、自分の背中の入れ墨にはしゃいだり、セックスの快楽に戸惑いながらも無邪気に享受したり――幼い行動とのギャップがかわいい上に、禁断の関係を持っているがゆえの色気も漂い、もうドキドキしっぱなしです。そんなショタヤクザにときめくほど、大半の予想を裏切るラストシーンに重い衝撃を受け、この作品が忘れがたいものとなるでしょう。
また、りーるー先生が描く、ガチムチのムチが強めな男体も萌えどころ。特に、勝頼の筋肉質なのにむっちりとやわらかそうなボディは、控えめに言って「どちゃシコ（どちゃくそにシコいの略称）」です。ガチムチ描写が気に入った方はレンコン農家が舞台の『どうせ掘るなら深い穴』や、高校生✕アラフォーゲイの『夜明けを待つ君のために』といった作品もぜひチェックしてみてください！
『プリンス・ノワール【完全版（電子限定描き下ろし付）】』を試し読みする
『やさしいあなた…』
完結『やさしいあなた…』 全1巻 西田ヒガシ / 茜新社
“素敵な恋”に憧れた2人のヤクザが迎える恋の結末とは？
【エロ度】★★☆☆☆
行きつけのバーで出会った2人の男――ステージに上って歌う姿が華やかな魅力を放つ春本と、落ち着いた物腰がいかにも紳士然とした水田は、ひと目で互いに好印象を抱きますが、同時に「店の外では会いたくない」とも考えていました。なぜなら、外の世界では2人はヤクザ。店の中で“理想の男”を演じているだけだったのです。
互いの素性を知らないまま、ヤクザが2人して“素敵な恋”を演じていたという、西田ヒガシ先生ならではの、繊細でビターな物語。ヤクザ稼業では暴力も詐欺もお手の物な春本と水田が、2人でいるときには映画デートを楽しんだり、キスに驚いて相手を突き飛ばしてしまったりと、初々しい素振りを見せるのが、胸をきゅうと締め付けます。きっと幸せな時間は長く続かないだろう――そんな予感が切なくも美しいのです。
互いの正体を知ったあとも、“素敵な恋”を演じ続けようとする2人ですが、現実がそれを許してくれません。夢にまで見た南国旅行には行けずじまいで離れ離れに。しかし、意外すぎる場所で再会するラストはまさに圧巻。酸いも甘いも知り尽くした男たちの、遅咲きの純愛に涙腺決壊待ったなしです。
西田先生の裏社会ものといえば、売れないピアニスト・絹川と美しい暴力団幹部・深見との恋を描いた『願い叶えたまえ』も傑作。先生が語る深く繊細な恋心は、シリアスなストーリーでこそひときわ光を放つのでしょう。表紙の雰囲気は少し古めですが、食わず嫌いはもったいない。いぶし銀の魅力を持つ、西田ヒガシ作品を読まずして、BLを語ることはできません！
『寄越す犬、めくる夜』
『寄越す犬、めくる夜』 1～4巻 のばらあいこ / 祥伝社
裏社会を舞台に、万華鏡のようにこじれ続ける三人の恋模様
【エロ度】★★★★★
『秋山くん』で男子高校生同士のエロあまな青春模様を描いたのばらあいこ先生が、雇われディーラー・新谷とその同僚のチンピラ・菊池、そしてヤクザの情夫・須藤の三角関係が複雑にこじれながら展開していく本作を上梓。前作とは打って変わって、ダークでシリアスなムードに満ちています。
妹と2人、それなりに真面目に暮らしてきた新谷の運命の歯車が狂い始めたのは、バイト先のカジノの同僚・菊池のイカサマ行為の共犯だと疑われたとき。ビデオカメラの前で無理やり菊池を抱かされ、挙げ句、須藤からは
「新谷くんは『カワイソウ』な奴に勃つんだろ 業の深い趣味してるね」
と内心を見透かすような台詞を吐かれ、自身の仄暗い部分に気付かされます。家では犬のように自分にすがる菊池を抱きながら、外では化け猫のように性悪な須藤に翻弄され、ゆるゆると堕ちていく新谷。常に漂う“悪い予感”が否応なしに物語を盛り上げます。
ヤクザBLであると共に、ドロドロ三角関係ものでもある本作。気に入った方には『チョコストロベリーバニラ』 『ひずむ三角、ほどけて絡む』 『犬も喰わない』 『あいとまこと』といった作品も手にとっていただきたいもの。面倒くさい恋愛こそ最高のエンターテインメント――そんな人に至福を与えてくれる作品です。
『赤と黒』
完結『赤と黒【電子限定かきおろし漫画付】』 全2巻 桂小町 / 海王社
重すぎる宿命を背負った2人の男子高校生。その宿命の行く先は如何に
【エロ度】★★☆☆☆
それぞれ極道の男を親に持つ美洞大和(びどうやまと)と矢萩由紀夫。親団体の会長の死をきっかけに、その跡目を巡って大和と由紀夫の運命は動き始めます。ままごとのような盃で。生涯に渡る絆を誓った2人が行き着く先とは……。
ヤンキー高校を舞台にしたBLコミック『ROUGE』のスピンオフ作品。『ROUGE』メインカップルの上級生で、ヤクザの息子である大和と由紀夫の物語がこちら。生まれたときから決まっている重い宿命のせいで、男子高校生らしからぬ冷めた視線と侠気を持たざるを得なかった2人。互いといるときだけ、等身大の自分でいられるという特殊な絆がヤクザBLならでは。卒業後の2人が、本物の極道となったその先も見たくなります！（嘆願）
『新宿ラッキーホール』
完結『新宿ラッキーホール』 全2巻 雲田はるこ / 祥伝社
悪者になり切れない女衒ヤクザと強かな天使の美しき腐れ縁
【エロ度】★★★★☆
ゲイビデオ界のポルノスター・苦味(くみ)と女衒ヤクザのサクマ。この2人を中心とした人間模様が描かれるオムニバス形式のコミック。裏社会に翻弄されながら、ときに果敢なく、ときに強かに生きる男たちが登場します。
本作のメインカップリングはサクマ✕苦味なのですが、作中で苦味はサクマ以外の男性達とも体を重ねます。しかし、サクマとの関係は揺るぐ気配もありません。そんな、爛れて救いようがないけれど同時に成熟した関係が大人同士の恋愛らしくて、切ないような愛おしいような不思議な感情を抱かされます。（ほぼ）童貞の筆下ろしから仕込みエッチまで、さまざまな性愛の形を描きながらどこか爽やかさも感じる本作。読めば読むほど、「人を愛する」とはどういうことなのかを、深い部分で考えさせられます。
最後に
シノギの中では悪事に手を染めながらも、情人を想うときはひたむきに純情。そんな危ういギャップと一途さがヤクザBLの魅力なのではないでしょうか？ まずは楽しく読めるライトな作品から入って、最終的にはディープでノワールな世界へズブズブと……。幅広くて奥深い、それこそ極道の男のようなヤクザBLの世界は、いつでもあなたと盃を交わす瞬間を待っています。
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