BL書店員厳選！今読みたい、切なくて泣けるBL漫画おすすめ18選
※2021/2/24に『3番線のカンパネルラ』『ワンダー・ボーダー』『潮騒のふたり』を追加しました。
主人公たちの恋愛模様や強い絆などを丁寧に描いたBL漫画の中には、「悲しい」だけでなく「切なさ」や「感動」などで私たちの心を揺さぶる、「泣ける」作品が多数存在します。今回は、BL書店員が今おすすめしたい、切なくて泣けるBL漫画を18作品ご紹介します。思い切り泣いて、思い切り萌えて、心のデトックスをしましょう！
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目次
『3番線のカンパネルラ』
完結『3番線のカンパネルラ』 全1巻 京山あつき / 祥伝社 on BLUE comics
【エロ度】★☆☆☆☆
本当の恋とは、知らない間にはじまっているものなのかもしれない
彼氏と別れて1年以上がたつのに未だに失恋の痛手が癒えず、無気力かつダウナーな日々を送るテーラーの加納。駅のホームでぼんやりしていると、自殺未遂と誤解されて見知らぬ男子高校生に助けられ、彼の存在が心のオアシスに。さらに、職場の店長に
「君は――
服も小物もとてもよく映える」
と褒められて、グラっとよろめいてしまい……。
ページをめくるとベッドシーンであった――そんなエッチなホスピタリティ満点のBL作品の真逆をいく本作。なかなかボーイズのラブがはじまりません。だが、そこがいい！ ラブがはじまるまでの余白こそが本作の魅力。「恋ってなんだろう」と思い悩んだり、「誘われたらついて行ったのに」と心が動くのを自覚したり、そうこうするうちにモノクロだった世界が色づきはじめたり。この余白をひっくるめてこそ「恋じゃん!!!!」と思える、繊細で叙情的な物語に胸が震えます。
印象的だったのが、店長からもらった飲み物にずっと手を付けなかった加納が、手渡された甘酒を飲んだときの
「やっと 飲んだか」
という店長のふにゃっとした笑顔……！ はい、ここで恋はじまりましたぁぁぁ!!
あからさまにロマンチックじゃないのに目が離せない。そんな“沁みる”名シーンに、ほろりと涙がこぼれそうになります。
絶食系IT男子が恋に目覚めるまでを描いた『スリーピング・バグ』（祥伝社 on BLUE comics）や、ホームシックがきっかけで体の関係を持った元同級生同士が、2人の間に芽生えた感情に惑う『ヘブンリーホームシック』（祥伝社 on BLUE comics）など、繊細な心の動きを巧みに描き出す京山あつき先生作品。休日の午後、お気に入りのドリンクやお菓子と一緒に、ゆっくりと味わうように読んでみてください。
『ワンダー・ボーダー』
完結『ワンダー・ボーダー【電子限定特典付き】』 全1巻 上田アキ / 竹書房
【エロ度】★★★☆☆
もがけども抜け出せない切ない恋の泥沼に涙……！
優しくて誠実な彼氏と順調にお付き合いを重ね、同棲も目前――というところで、5年前に別れた元カレ・和秋と再会した洋春。和秋に誘われて、“旧友”として飲みに出かけるも、彼の誘いを断りきれずホテルに入ってしまいます。それから、元カレ・和秋と今カレ・夏朗、正反対の男の間で洋春の心は揺れ動き……。
未練のある悪い（？）男よりも目の前の誠実な恋人を大事にしないといけないのに心と体は悪い男に引きずられてしまう問題、有史以来、解決される気配がないのはなぜでしょう。
本作もまさにダメなのに惹かれてしまう、本能に近い恋心がテーマとなっています。高校卒業とともに一方的に別れを告げ、5年ぶりに再会するとぐいぐい迫ってくる和秋の沼力がヤバいんです……。本人は無自覚で、ただ純粋に「洋春のことが好き」だったりするのがまた、タチが悪い。一見クズいのに実は純愛。嫌いな人いないやつです。
彼氏との板挟みで苦しむ洋春に共感したり、和秋の密かな執着に悶えたり、夏朗の不憫さに胸を痛めたり、感情が……感情が忙しい……！ 三者三様の本気がぶつかり合う様に、心を熱くかき乱されます。
恋人としての誠実さや、人としての善良さ、そして切ない表情で腐女子たちをどよめかせた夏朗が主人公のスピンオフ『オーバー・スコール』（竹書房）も号泣必至の名作。BL史に残る感動をお約束します。
『潮騒のふたり』
完結『潮騒のふたり【電子特典付き】』 全1巻 遠浅よるべ / KADOKAWA
【エロ度】★★★☆☆
不良教師と真面目な教師の魂の再生を描く
舞台は1994年、とある海沿いの街。ギャンブル絡みのトラブルが原因で左遷されてきた無気力な中学教師・屋敷。彼の指導教師となったのが、厳しいけれど生徒からも慕われている“ひなっち”こと比奈岸です。はじめは比奈岸を煙たがっていた屋敷ですが、本気で自分に向き合ってくれる比奈岸に、いつしか心惹かれていくようになり……。
青年誌を思わせる劇画調のタッチ、恋愛を通して描かれる2人の男の魂の再生、そして90年代独特のどこか刹那的なムード。すべてが唯一無二すぎて、すごい作品を読んでしまった感に呆然としてしまいました……。
好奇心と性欲からはじまった関係が、1人の人間を更生させて、2人の人生を変えてしまう。しかし、そんな関係も永遠ではない――ページのそこここに漂う絶対的な虚無感と、それを打ち払おうとするかのように足掻く屋敷と比奈岸の姿との対比に、わけもなく涙が溢れてきます。
携帯もスマホもなかった時代、インスタントカメラで撮影した比奈岸の写真を愛おしそうに見つめる屋敷の横顔がたまらなくエモい……。90年代カルチャーが効果的に使われているところも、昭和の腐女子の涙腺を刺激します。
本作で鮮烈なコミックスデビューを果たした奇才・遠浅よるべ先生。生活力ゼロで勃起不全の舞台俳優・トモちゃんと、イケメン少女漫画家・征士郎の甘くて奇妙な共同生活を描いた『ばらとたんぽぽ』（ビズビズコミックス）も中毒性抜群です！
『ボーイミーツマリア』
完結『ボーイミーツマリア』 全1巻 PEYO / プランタン出版
【エロ度】★★☆☆☆
「成長する」って痛くて苦しい、けれど美しい
脳内が小学生のまますくすく育ってしまった高校生男子・広沢大河。入学間もない時期に見た演劇部の催しで、青いドレスの美少女に一目惚れをします。「俺の人生の女（ヒロイン）になってください」と告白するも、美少女こと有馬優は男だった上に、股間にモノがあるのを見せつけられて撃沈。しかし、その場から立ち去る有馬の淋しげな背中が気になってしまった大河は……。
16歳という多感な時期。それぞれ違ったトラウマを抱える大河と優は、近づくほどにすれ違い互いを傷つけるばかり。そんな2人をつなぎとめるのは、優に対する憧れとないまぜになった大河の恋心。「有馬のことをもっと知りたい」という一心で少しずつ大人びていく大河の横顔から、男子高校生の伸びしろの尊さを感じさせられます。
そして、最初は優の外見しか見ていなかった大河が、優の本当の苦しみ、他人に見せない強さに気付き、声を震わせながら
「ただ一緒にいてほしい」
と思いを告げるシーンは涙なしには読めません‥…。本気の恋をした男の子が、短期間で成長する姿が愛おしくも、胸を切なく締め付けます。
優と出会ったことで「人と向き合い傷付く」という自分の弱さを知った大河。反対に、大河と出会ったことで優は、「自分を信じる強さ」をその身にまといます。まったく正反対だった2人が互いから何かを受け取って変わっていく成長の物語――これぞ至高の“ボーイズ”ラブです！
『メトロ』
完結『メトロ【電子限定描き下ろし付き】』 全1巻 本郷地下 / 集英社
【エロ度】★★★★☆
この関係は「破滅するため」にある……
病気で一年休学していたためクラスメイトからは腫れ物扱い、家に帰れば自分を縛り抑圧する母親がいて――誰にも言えない孤独を抱える男子高校生・水葵。そんな彼に唯一触れてくるのは、名前も顔も知らない大きな傷のある男の手。その手に自分でも気づかないふりをしていた淫らな本心を、その男の手に暴かれてしまった水葵は……。
夫の不倫をきっかけに歪んでしまった母親によって、徹底して性的なものから遠ざけられてきた水葵。そのせいで性的なものを恐れると同時に、やり場のない欲望を持て余していました。一方、かつては天才ピアニストとして名を馳せていたものの事故によって全てを失った男・忍。ただ己の破滅を望み、その背に自分と似た絶望をにじませる水葵に痴漢行為をはたらきます。
忍の前でだけ本当の自分をさらけ出せる水葵と、水葵に救い=自分の破滅を求める忍。決して噛み合わないのに、世界に互いしかいないかのように切実に求め合う2人の姿が胸をえぐります。こんなに救いと絶望が同居する作品、後にも先にもないのではないでしょうか。
結ばれてもなお、どこかに破滅の香りを漂わせる水葵と忍。2人の物語を見届けた後ににじむ涙は、一体どんな感情から来るものなのか。そんな割り切れない気持ちも含めて、読者の心に大きな爪痕を残す作品です。
『リンク アンド リング』
完結『リンク アンド リング【電子限定描き下ろし付き】』 全1巻 つゆきゆるこ / 集英社
【エロ度】★★★☆☆
「好きな人がいる」というささやかだけどかけがえのない幸せに涙
大学の授業でシャーペンを貸し借りしたのをきっかけに仲良くなった蒔田と別所。互いに可愛いキャラクター好きという共通点から意気投合し、いつしかかけがえのない親友同士に。しかし、友人以上の感情が芽生えて戸惑う2人は……。
初めて男を好きになった別所、恋愛自体初心者の蒔田。そんな2人が互いの気持ちを確かめ合いながら、ゆっくりと関係を深めていきます。どちらが受けてどちらが攻めるかも、一緒に迷いながら選び取っていくような、しなやかで優しい関係性に新時代のBLの可能性を感じつつ、「恋をするって本当はこういうことなのかもしれない」と、熱いものが胸にこみ上げてきます。
「男同士とかあり得ない」
最初はそう言って、蒔田を突き放したこともあった別所が、自分の言ったことを後悔し、自分の弱さを認められるようになっていく――蒔田の存在の大きさと、1人の人間の価値観を変えてしまうほどの恋心の強さに、じんわりと涙がこみあげてきます。
劇的なドラマはありませんが、それだけに一組のカップルの気持ちの移り変わりが本当に丁寧に描かれていて、「どうか幸せになってくれ……！」という尊さ由来の涙が止まりません……。
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『春と夏となっちゃんと秋と冬と僕』
完結『春と夏となっちゃんと秋と冬と僕』 全1巻 佐岸 左岸 / ふゅーじょんぷろだくと
【エロ度】★☆☆☆☆
季節は流れ、少年たちの恋は終わるかもしれない。それでも私達はBLを愛する
朝、顔を洗う泡も、お昼ごはんのハンバーグも帰り道のアイスクリームだって半分こ。そんな仲良しがすぎる幼馴染のシマとナツオ。色んなものの半分こにとどまらず、図書室でキスをしたり、屋上でイチャイチャしたりと、青春を謳歌する2人。「まだ子ども」な2人の愛はどこへ向かうのか……。
自然豊かな田舎の高校を舞台に、幼馴染同士のシマとナツオのきらめくような青春を描いた本作。部活の合宿、夏休み、お祭り、いつだって一緒にいる2人は眩しいくらいの幸せに満ち溢れています。しかし、高校3年生という、否が応でも将来を考えさせられる時期のせいで、「別れ」や「終わり」を意識するように。
「駆け落ちってやっぱ熱海？」
「月だろ」
「宇宙飛行士になんないと俺」
「…けど、酸素がないって駆け落ちじゃなくて心中じゃない？ 遺書も書かないと」
「…やっぱ熱海にしようぜ」
10代特有の適当さと切実さが入り混じった、繊細な会話に目頭が熱くなる……！
「この2人なら私たちに永遠を見せてくれる！」「この2人でも永遠があるとは言い切れないだろう」。どちらの視点から読んでもクソデカ感情にのたうち回らされる、美しくも恐ろしい1冊です。
『ワンルームエンジェル』
完結『ワンルームエンジェル』 全1巻 はらだ / 祥伝社
【エロ度】☆☆☆☆☆（なし）
誰かを愛するということは、自分を愛することでもあるんだ
30代、コンビニバイトのフリーター。狭くて汚いワンルームに暮らし、金も趣味も友人も恋人も何もない自分を、“生きる価値なし”と自嘲する幸紀。バイト中に絡まれたチンピラに刺され、このまま死ぬのかと思った瞬間、目の前に美しい天使が現れます。しかし、その天使は幸紀を迎えに来たのではなく……。
無事退院して、1ヶ月ぶりに帰ってきた自宅にいたのは、あのときの天使。どうしてあの場に降り立ったのか
「まっ…たく思い出せないんですよ」
という彼と、奇妙な同棲生活が始まります。天使との同棲というファンタジー設定にもかかわらず、「寝る時羽根が顔にあたって邪魔」「こっそりオナニーしているのがバレる」「天使がそうめんを食べながらエンゲル係数を気にする」など、なんとも生活感あふれる暮らしぶり。しかし、そんな生活がずっと続くはずはなく、天使の正体と本当の望みが明らかになっていくとともに、別れの気配が忍び寄ります。2人の人生の中で、この奇妙な同棲生活が一番幸せな時間だったんだろうと考えると、涙が止まりません。
言わずと知れたはらだ先生の名作『やたもも』（竹書房）も、2人でトラブルを乗り越え、何気ない幸せを手にする八田ちゃんとももの姿にじんわりさせられる“泣ける”BL作品。未読の方はこちらもぜひチェックしてみてください！
『Ｌｉｆｅ 線上の僕ら』
完結『Ｌｉｆｅ 線上の僕ら』 全1巻 常倉三矢 / 芳文社
【エロ度】★★★☆☆
迷い傷つきながらも添い遂げた2人の人生に涙
通学路の白線の上を歩き、「落ちたら死ぬ」という設定で、下校中に一人遊びをしていた高校生の晃と夕希（ゆうき）。互いの進路がぶつかったところで手を取り合い、白線の上ですれ違うようになった2人は、いつしかお互いに会うことが楽しみになっていきます。
現実主義者でしっかり者の晃と、想像力豊かで夢見がちな夕希。初めてのキスに尻もちをついて驚いた甘酸っぱい高校時代、2人の関係性が進んだ大学時代、一緒に暮らし始めた社会人と、共に年を重ねていく姿が丁寧に描かれていきます。決して長くないストーリーの中に、2人の辿ってきた人生が詰まっていて、2人の喜びや悲しみ、切なさや葛藤に心が動かされます。
涙なしに読めないのが、2人が28歳の時のエピソード。親から結婚や孫をせっつかれ、晃と付き合っていることを「いっそはっきり言った方がいいのかなあ」とこぼした夕希に対し、晃は「普通の結婚」や「子ども」が目の前にちらつき、2人の心がすれ違い始めます。世間体や現実から、「夕希が好き」という気持ちを貫けなくなった晃の弱さ。晃の気持ちが離れていく様を感じ取っていた夕希の胸の痛み。どちらにも共感できてしまうだけに、ページをめくる手が止まりません……！ 2人が最終的に選んだ結末は……ぜひ本編でご確認ください。
何度読んでも、どのページから読んでも最後には必ず涙してしまう本作。「このBLがやばい！ 2018年度版」の第4位に輝いた良作です。
『僕らの食卓』
完結『僕らの食卓』 全1巻 三田織 / 幻冬舎コミックス
【エロ度】☆☆☆☆☆（なし）
大切な人と囲む、幸せな食卓に心がほっこり温まる
幼少期のトラウマから、誰かと食事をともにするのが苦手な豊。いつも通り、公園のベンチで一人おにぎりを食べていると、年の離れた兄弟・穣（みのる）と種（たね）に出会い、ひょんなことから彼らの家でおにぎりの作り方を教えることに。最初は、金髪でぶっきらぼうな見た目の穣を怖がっていた豊ですが、いつしか彼らと会うことが楽しみになっていきます。交流を続けるうちに、穣も心に傷を抱えていることが分かり……。
恋愛特有の高揚感やハラハラドキドキというよりも、ほっこりじんわり胸に沁みるような優しい雰囲気が漂う本作。食卓に並ぶのは、おにぎりやカレーなど、ごくごく普通の料理ですが、ほかほかと湯気を立てる様子が本作のぬくもりを表現しているかのようです。「僕のからだに 僕の毎日に 何か新しいものが入り込んでくる」という豊の言葉が象徴するように、あたたかい食事と優しい会話が豊や穣の心と体に沁み込み、穏やかで優しい時間が流れていきます。優しいストーリーであると同時に、なぜかほのかな切なさも感じられるのが本作の特徴です。
切なさの理由は、２人が抱えるトラウマ。豊は幼いころに事故で両親を亡くし、引き取られた先の親戚の家で「いらない子」として扱われてきました。一方の穣は、2年前に母親を亡くしてから、心に穴が空いたような気持ちを抱えていたのです。幸せを失った2人だからこそ、何気ない日常に幸せを見出せるのだと思うと……切ない涙がこみ上げてきます。2人の幸せがずっと続くように…と願わずにはいられません。 穣に必要とされることで豊は自分の「居場所」を見つけ、豊が傍にいることで穣は満たされていく様子に、こちらまで癒やされます。
心温まる、繊細な作風が持ち味の三田織先生。包容力のあるガテン系社会人✕ゲイであることを隠している男子高生の『山田と少年』も心がふんわりと温かくなるような名作です。BLに癒やされたいとき、手にとってみてください！
『旧繁華街袋小路』
完結『旧繁華街袋小路』 全1巻 ためこう / ビーボーイ編集部
【エロ度】★★★☆☆
「身代わり」愛は本物の愛になるか？
2年前、自分とそっくりの顔を持つ姉を突然の事故で亡くした、大学生のなずな。「私…あの人に忘れられたくないの」という姉の最期の言葉を守るため、彼女の婚約者だった松葉と、姉の身代わりとして体の関係を持つようになります。全てが思い通りに進んでいるはずなのに、なぜかなずなは胸に苦しさを覚え……。
最初は、愛する人を失った者同士、互いの心を埋めるように体を重ねていた松葉となずな。しかし、いつしかその視線の先には姉ではなく、お互いの姿が映るようになっていきます。それでも、姉を愛する松葉の表情を覚えているなずなは、「身代わり」である自分に、松葉の愛情や優しさを受け取る資格はないと思い悩みます。自分の気持ちにふたをして、亡き姉のため、松葉のためにと決断をした、なずなの不器用な優しさが切ない……。それだけに、姉の身代わりの呪縛から解き放たれた瞬間は、なんともいえないカタルシスが。切ないだけでは終わらせない、再生の物語です。
愛する人と同じ顔を持つ人間を、愛する人の「身代わり」として愛せるのかという問いかけを孕んでいる本作。この問いかけに興味を持った方には、ためこう先生の『カッコウの夢』もぜひ読んでいただきたいところ。事故で長年の片思い相手の人格がセフレの体に入り込んでしまうという、入れ替わりもの。人は何をもって人を愛するのかという深いテーマが、ためこう先生の美しい筆致で描かれている名作です！
『こっちむいて、愛』
完結『こっちむいて、愛』 全1巻 みちのくアタミ / ふゅーじょんぷろだくと
【エロ度】★★★☆☆
不器用な男子大学生の不憫な片思いの行く末は……
自分がゲイであることを隠して日常生活を送っている大学生・鈴原。ある日、鈴原の想い人である、友人の中山から「お金がないからラブホ代わりに部屋を貸してくれ」と頼まれます。自分の部屋から締め出されてしまった鈴原は、勢いで隣室・西野と一夜の関係を持ってしまいます。そして、それを機になぜか西野にからまれるようになり……。
今までずっと本音を押し殺してきたせいか、中山の非常識な頼みも「ここは普通貸すもんだろ？」と聞き入れてしまうなど、「普通」であろうとする鈴原の処世術に心がズキリと痛みます。中山と彼女が帰った後の部屋で一人涙する姿も切ない……。欲しいものを欲しいと言えず、自分の気持ちをごまかし続けてきた鈴原を解き放ってくれたのが、大学で女たらしと悪評の高い西野でした。西野と出会ったことで、素直に喜怒哀楽を表現できるようになったり、傷つくことを恐れていた自分と向き合うことができたり、今まで不憫な生き方をしてきた鈴原が前を向いていく様子に心が震えます。同時収録の書き下ろし「贅沢な日」では、とびきり幸せそうな2人が。鈴原の幸せがしみじみ感じられますよ。
『腐男子高校生活』に代表されるように、ギャグテイストのイメージが強いみちのくあたみ先生ですが、デビュー作は切なく泣ける作品。切ない系のみちのく先生作品なら、吸血鬼と人間の禁断の関係を描いた『レッドベリルにさよなら』もチェックしてみてください。
『スクリーン』
完結『スクリーン』 全1巻 村上キャンプ / 竹書房
【エロ度】★★★☆☆
ゆるくて笑える！でも最後はしっかり泣かせるズルい一冊
小さな会社で経理を担当するサラリーマン・野々宮 和央（かずお）の楽しみは、同棲6年目の恋人であるイケメン俳優・夏目 基（もとき）のファン活動。基に重すぎる愛を注ぐ、充実した日々を送っていましたが、基の活躍の場が広がるにつれて、2人の間に溝が生まれ始めます。
ストーリー序盤で描かれるのは、村上キャンプ先生独特のゆるい画風でギャグが散りばめられた、2人の熟年夫婦感のある日常風景。基がゲスト出演しているラジオ番組に50通ものメールを送ったり、誕生日には写真入りのロケットペンダント（基曰く「これ…戦場に行く人しかつけてるとこ見たことないぞ…」）をプレゼントしたりと、愛が重いと言いつつも、幸せに満ち溢れた2人の様子が描かれます。しかし、基の目標だった、映画の配役の最終選考を目前に、基は「仕事」か「恋人」かの選択を迫られます。誰よりも基を支え、基の夢を応援してきた和央が、基の夢の足枷になるかもしれないという現実に、和央は……？ 何気ない日常の描写があるからこそ、2人が選んだ結末にじんわり涙がにじんできます。
本作のように、クスリと笑わせてホロリと泣かせてくれる村上キャンプ作品といえば代表作『BANBA BURGER』。寡黙で無表情だけど実は妄想癖のあるシェフの蜂谷とオーナー・番場の物語です。こちらもゆるい雰囲気とギャグに油断していると、クライマックスでホロリとさせられてしまいますよ。
『ネオンサイン・アンバー』
完結『ネオンサイン・アンバー』 全1巻 おげれつたなか / 新書館
【エロ度】★★★☆☆
チャラい外見に隠されたギャル男の純情が切ない
クラブでホールスタッフをしている緒方のコンプレックスは、感情が表情に全く出ないこと。緒方は、そのクラブ常連のギャル男・サヤを苦手と思う一方で、楽しそうにはしゃぐ姿に「あのくらい分かりやすくなりたい」と思っていました。ある日の明け方、路上で泥酔するサヤに出くわし、緒方は彼を介抱する羽目に。それをきっかけに、サヤと仲良くなり、緒方はサヤに惹かれていきます。
最初は印象最悪だった2人が、少しずつ仲良くなるという超王道な骨格を持ちながらも、おげれつたなか先生の繊細かつリアルな人物描写によって、唯一無二の泣けるBLに仕上がっています！ 一見すると、チャラくて何も考えていなさそうなサヤが、実は誰にも言えない苦しさや諦めを抱えて生きていたり、サヤを可愛いと思っているはずなのに緒方はサヤの「男の体」を抱けなかったりと、2人には辛い現実が……。ご都合主義に走らない、リアルな恋愛模様こそ、おげれつたなか節。乗り越えた先に、どんな結末が待っているのか、箱ティッシュを準備して見届けてください。
最近では『ヤリチン☆ビッチ部』などコミカルな作風が人気を博しているおげれつ先生ですが、著書の中には『恋愛ルビの正しいふりかた』や『錆びた夜でも恋は囁く』といった、切ない系BLの傑作も。長い冬の夜に“切ない方のおげれつたなか”作品はいかがでしょうか？
『凪子の話』
完結『凪子の話』 全1巻 後藤 / 大洋図書
【エロ度】☆☆☆☆☆（なし）
女の子視点で物語が進む、友情と愛情の物語。
BLでありながら、凪子という女の子が物語の鍵を握り、彼女視点で物語が綴られる異色作です。凪子は、少し抜けているところがある、普通の女子高生。登校中の怪我をきっかけに、女子に人気の和也と、彼の幼なじみでこちらも女子人気の高い浩平と親しくなります。３人は同じ大学に進みますが、その関係性は高校生の時のまま。そのまま3人の友情は変わらないはずでしたが、凪子が病気になり余命2年と宣告されたことから、3人の関係性が大きく動き出します。
出会ってから10年間和也にずっと片想いしていた凪子は、自分に残された時間を知った時、和也と夫婦になることを選びました。浩平の本当の気持ちを知っていても、和也の気持ちが誰に向いているか気付いていても、それらに気付かないふりをし、和也を独り占めした凪子はずるいかもしれません。しかし、凪子は「23年来の親友」という関係性を崩せずにいた2人へのエールを手紙に遺しました。「BLに女はいらない」派の人や「死にネタNG」派の人にとっては、地雷と思えそうな作品ですが、凪子こそ、この作品になくてはならない存在です。地雷原を超えた先に、性別を超えた愛情と友情に触れられる、優しく心に響くBL作品です。
『月影』
完結『月影』 全1巻 SHOOWA / 竹書房
【エロ度】★★★☆☆
激動の時代にひっそりと咲いた美しく儚い恋の物語
雪の降る夜に廓の前に捨てられ、女郎たちに育てられた清人。出入りの医師をはじめ、周囲の大人に可愛がられて幼少期を過ごしますが、いつしか子供時代は終わり、遊郭に生きる人間として客を取らされるようになり……。
表題作と同時収録の続編「逃げ水」の中で語られる、清人の人生は辛く悲しい別れの連続です。思い通りにならない身の上や時代に振り回されながらも、与えられた愛を大切にする健気な姿に心打たれます。そして、愛された記憶を反芻しながら清人がかすかに微笑むシーンには、切なさとも感動ともつかない涙が溢れる事間違いなし。
代表作「イベリコ豚」シリーズとはひと味もふた味も違う、SHOOWA先生の美しく静謐な世界観が堪能できます。
『どうしても触れたくない』
完結『どうしても触れたくない』 全1巻 ヨネダコウ / 大洋図書
【エロ度】★★★☆☆
切なくて泣けるBLの金字塔
人気作家ヨネダコウ先生の商業コミックスデビュー作。前の職場でゲイであることをバラされ、転職してきた嶋。直属の上司・外川は二日酔いで出社してくるだらしない男ですが、嶋はいつしか心惹かれていきます。2人は体を重ねる関係になりますが、過去のトラウマが邪魔をして、嶋は素直に外川に気持ちを伝えられずにいて……。
10年近く前に発行された作品ながら、未だに輝きを失わない名作中の名作。外川の一挙手一投足に振り回されてしまうほど彼に思いを寄せているのに、同性愛者であることに負い目を感じ、「自分では家族を作ってあげられない」と恐れる嶋が健気で……。外川を想う嶋の気持ち、嶋を想う外川を思うと、切なくて泣けます。
サブキャラクターの小野田が主人公のスピンオフ作品『それでもやさしい恋をする』も恋の切なさが詰まった名作。2冊一気読みがおすすめです！
『500年の営み』
完結『500年の営み』 全1巻 山中ヒコ / 祥伝社
【エロ度】☆☆☆☆☆（なし）
250年後の世界で出会ったアンドロイドとの痛くて切ない恋
不慮の事故で死んでしまった恋人・光を追って、自殺したはずだった寅雄が目を覚ますと、そこは250年後の未来。そして、目の前にいるのは恋人の姿を模した、残念なアンドロイド・ヒカルでした。
最初は光と似ていないヒカルに「できの悪い模造品」と嫌悪感を示す寅雄でしたが、ヒカルと一緒にいるうちに、似ていない部分が愛おしく思えてくるようになります。しかし、再び寅雄とヒカルは引き離され、ヒカルを探しに出かけた先で事故にあった寅雄は、さらに250年の眠りにつきます。
500年という長いスパンの中で語られる物語は壮大ですが、実は非常に身近で普遍的な愛について描かれているように感じられます。恋人を探して長い時間と距離を旅した寅雄に、ごくごく普通の幸せが訪れることを願ってやみません。
最後に
「悲しい」「感動」「切ない」「幸せ」……。一口に「泣ける」といっても、こんなにもバリエーション豊かな感情が含まれているのですね。BLの奥深さを改めて感じさせてくれる「泣けるBL」。読みごたえのある作品が読みたくなったら、ぜひ手にとってみてください。その際は自室で一人で読むことを絶対的におすすめしますよ！
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