高校時代の担任の葬儀で再会した元3年6組のクラスメートたち。懐かしさ、うれしさ、そして未だ癒えない心の傷。
卒業して7年。大人になったつもりでいた。けれど……。
現在の自分を見つめ直し、これからの自分を作っていく。そんな若者たちを描く群像劇。
◇
8月11日午後0時。
...続きを読む カナダのトロントに住むある女性のスマホに着信があった。発信者は不明だが表示された番号は、その女性には心当たりがある。
存在すら忘れていた相手。自分に電話をしてくることなどないと思っていた相手の顔が思い浮かんだ。 ( 第1章「八月十一日 正午 カナダ トロント」) 全16章。
* * * * *
いくつもの人生が絡み合う、読んでいて胸が痛くなるような物語でした。また、群像劇ではあるのですが、中心になるのは2人です。
1人は、柏崎優菜。優しく自己主張の強くない女性で、本好きでもあった優菜は現在、母校の白麗高校で司書教諭をしています。
優菜は高校1年の時、ある女生徒のグループからイジメを受けていました。仲間外れ。陰口。イヤミに皮肉。思ったことを言い返せない優菜にとって、心に深い傷を負った苦しい1年間でした。
2年でクラスが分かれたものの3年で再びイジメグループの急先鋒だった北別府華と一緒のクラスになります。ただし1人になった華の方も仕掛けてくることはなかったのですが、悪かったと思っている様子もなく図々しく接してくる華を見ると、優菜の心の傷は疼くのでした。
高校を卒業後、華の顔を見ることなく7年が過ぎ、ようやく心の傷も癒えたと思った矢先のこと。急死した水野先生の葬儀で華と再会した優菜の心に、また苦しさが蘇ります。傷は癒えてなかったのです。
もう1人は、船守大和。高校3年のある日、機嫌の悪かった水野から授業でパワハラめいた扱いを執拗に受け、不登校になった男子生徒です。大和は以後も復学することもなく7年経った今、ある決心をして1人で風冷尻山に登ってきました。
実は大和は家庭でも問題を抱えており、登場人物の中でもっとも苦しい人生を送っていたのです。
それについては物語の重要部分なので直接お読みください。
この2人を軸に、イジメっ゙子の華、アロマンティックと思われる一木来良 ( 男子です ) 、恐らく同性愛者の碓氷彩海、高校時代は明るく人気者で目立ちたがりだった望月凛 ( 男子です ) が、それぞれの人生を見つめ直していきます。
自分の黒歴史のケリをつけるのはかなり難しい。ましてや主原因が自分にない黒歴史ならなおのことです。
終章を読んだとき、ようやくタイトルの本当の意味がわかります。
乾ルカさんの『白麗高校』シリーズの中ではもっとも心に重くのしかかってくる、それでいて雲の切れ間から覗く陽光を見たような気持ちにさせてくれる作品でした。