将棋界最強の棋士である著者が、勝負に対する考え方をまとめた本であり、天才棋士の頭の中を垣間見た心境。
当初は、感情の起伏もなく、常に冷静でコンピューターのような思考回路なのではという勝手なイメージを持っていたが、「プロといえども感情の起伏はある。ポカをやらかせば自分自身に腹が立つし、予想外の手を指
...続きを読むされれば動揺する。」と述べているところなど、著者の為人に触れることができ、大変興味深く、また著者を身近に感じることのできる本であると思う。
しかし、やはり凡人とは大きく違うと痛感させられるのは、将棋にとどまらない広範で重層な識見と、それらを支える知的探究心である。
例えば、集中力の深さというテーマからアインシュタインの相対性理論、神話、神学の世界にまで話題がおよんだり、はたまた、記憶力のテーマでは、認知心理学やエビングハウスの忘却曲線の引用がなされたり、さらには、将棋とチェスの違いから、その奥にある文化的背景や西欧諸国の社会情勢への深い洞察など、著者の知的興味は尽きることがなさそうである。
この圧倒的な知的探究心による広範で重層的な識見こそが、著者のいう「経験から培われる」大局観の源となっているのではないかと感じた。
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2021/01/23追記
数年前にみた羽生さんがAI世代との激闘の末、27年ぶりに無冠となった時のインタビュー番組で、誰よりもコンピュータを将棋の研究に取り入れてきた羽生さんが、こんなことを言っていた。
“AIも強いのは間違いないが、一年たつと一年前のバージョンに7割から8割ぐらい勝つと言われているので、絶対的に正しいと思わない方が良い。と言うことはその中に間違いがあるということ。自分なりに考えて判断することが大事だと思っている”
無冠になることが決定期的なった広瀬棋士との終盤戦では、プロの目から見れば既に勝負は付いているなかで、「もつちょっと、もうちょっと」と最後まで差し続けるセーンがあった。
“棋士は最終的には自分が持っているものをどれだけ伸ばしていけるかだと思っている。逃れようがない。そうゆう世界に入ってしまったな、と思っている”
勝負に対する諦めない気持ち、と言うそんな程度のものではなく、人生そのものだからなのかもしれない。
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2021/01/30追記
木を見て森を見ず、全体を把握していない状況の逆が「大局観」
プレッシャーを感じた時こそいい。山の8合目まできている。能力が発揮されやすいというプラス思考は昔からそうだったのか?
『プレッシャーを対処すればいいか昔はわからなかった。プレッシャーで負けたり、うまく対処できなかったりと、いろんな経験を繰り返す中で、プレッシャーに対する考え方を今はそのように考えている。10年先同じ考えを持っているかはわからない。進化と呼べるかはわからないが、今後また変化はしているかもしれない』
少なくとも、現状に甘んじているようでは第一線で勝ち続けられないということだと感じた。