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現実はわたしたちの外側にただ在るのではない。心は外界を受け取るだけの装置ではない。人間の能動的な予測によって、世界は絶えず構成されている――。心と身体、世界はどうつながっているのか。意識をめぐる最大の謎が、ここに解明される! 「拡張された心」理論によって認知科学・心の哲学をアップデートしつづけてきた世界的第一人者による理論的集大成。
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Posted by ブクログ
本書は認知哲学の第一人者による「予測処理理論」の一般向け解説書。 第1章において「予測処理理論」について理論的な説明が行われ、第2章以下で、既存の現象の説明、今後の応用についての展望が描かれている。 従来の考え方では、経験は感覚情報の入力から始まるとされているが、「予測処理理論」においては、感覚シグ...続きを読むナルはすでに生じている情報に基づく推測(予測)を洗練し、修正するために用いられる。 補遺で詳しく解説されているが、「予測する脳」は、四つの重要な要素から構成される。 一つ目は「生成モデル」であり、二つ目はそれによって刻一刻と発せられる予測である。三つ目は「予測エラー」であり、「予測エラー」は、予測と感覚シグナルの間の誤差に関する情報を伝達し、システムがより的確な予想を発せられるようにするか、世界に働きかけること(=行動すること)で予測に整合するよう感覚入力を整える。四つ目は「適合率」の見積もりで、それによって感覚刺激と予測の相対的な影響力が調節される。 具体例としては、錯視やプラシーボ効果、機能性障害(各種症状がみられるにもかかわらず生理的原因が特定できない障害)などが予測と予測エラー、適合率の観点から説明される。 また、「予測する脳」は身体(内部環境)と外部環境を統合的に捉えるものであり、情報が外部にあるか内部にあるかを問わないものであることから(「拡張された心」)、人類のさらなるITの活用も予想させる。 本書は単に新しい理論を知るだけではなく、読後、自分の思考や感情、感覚についても、予測や先入観の観点から意識するようになり、新たな視点が得られる。 【目次】 はじめに――経験を形作る 第1章 予測する機械を解剖する 視覚の高性能カメラモデル/流れを逆転させる/ポンコツラジオとコントロールされた幻覚/質素な脳/予測の力/正弦波音声と「グリーンニードル」効果/ホワイトクリスマスの幻聴/ドレスをめぐる錯覚など/予測の学習/予測としての知覚 第2章 精神医学と神経学をつなぐ 組織の損傷を超えて/プラシーボ効果とノセボ効果/痛みの自己確証の悪循環/機能性障害/注意の障害/フーバー徴候/慢性疼痛における予想の役割/自閉スペクトラム症におけるバランスの変化/強化された感覚世界/マガーク効果/統合失調症におけるバランスの変化/心的外傷後ストレス障害/では、何が最善のバランスなのか? 第3章 自己充足的予測としての行動 観念運動理論/カモメを見る/すべてを支配するただ一つの配線様式/くすぐりが教えてくれること/外野手から学ぶ/身体化された専門スキル/長期的なゲーム(と楽観的な予測の役割) 第4章 身体を予測する 暗室からの脱出/好奇心と予測エラー/身体予算の予測/情動の身体化/緊密に協調し合う神経回路/心で見る/うつ、不安と身体の予測 ポジティブな情報に対する免疫を作る/増殖する審美的な悪寒 間奏 ハードプロブレム――予測者を予測する? 単純な有感性/私たち自身を予想する/単純な自己モデル/哲学的ゾンビを尋問する 第5章 よりよい予想 自分が感じているものを知覚する/予測バイアスに対処する/有用なフィクション/内受容感覚を改善する/真実に近い?/動くキーボード/リアルさを保つ 第6章 生身の脳を超えて 世界への依存/ひとり暮らし/情報取得のための行動/認識的行動と実践的行動の統合/循環するプロセス/脳を徐々にアウトソーシングする/腸で考える/拡張された感覚/拡張された心/オットーは美術館に行く/ここまでの議論を要約する/資源調達をめぐる謎を解く/脳としての心 第7章 予測する機械をハッキングする 苦痛の軽減の予想/「正直な」プラシーボ効果の不思議/プラシーボ反応を教え込む/バーチャル・リアリティを用いて痛みを緩和する/留意事項/自己肯定の力/経験をフレーミングする/疼痛再処理療法 /自分自身の予想を免れる/幻覚剤と自己――化学的なロマンス/呪縛を緩める/瞑想と注意のコントロール 結論 世界に開かれた予測の生態系 補遺 要素1――生成モデル/要素2、3――予測と予測エラー/要素4――適合率 謝辞/註/訳者あとがき/索引
本書は〈哲学的ゾンビ〉の思考実験で有名なデイヴィッド・チャーマーズとの共著もある認知哲学者の〈予測処理理論〉を一般向けに解説したもの。訳者あとがきによれば著者はチャーマーズの師にあたるそうだ。チャーマーズといえば近著に「リアリティ+(上・下、NHK出版)」があり興味深く読んだが、本書はチャーマーズ...続きを読むと同じく「リアル」を拡張的に捉えながらも、チャーマーズとは逆のベクトルを用いたアプローチにより世界を捉えようとしているのが興味深い。すなわち、チャーマーズが世界存在のリアルさの根源を外部世界を規定する「基底構造」に求めるのに対し、本書は視線を外部世界ではなく人間の内側に向け、「リアルな世界経験を成立させているのは感覚的与件とそれに先立つ脳の予測の双方向的フィードバックループである」と説くのである。チャーマーズのVR理論のようなスケール感には乏しいが、本書は人間の認識や経験の成立を種々の病理や実験をもとに実証的に論じようとしており、生身の我々にとって納得感が得やすい内容となっている。 大まかな印象では、〈予測する脳〉という概念には〈デカルトの悪魔〉に似たところがあるように思う(本書の題名に含まれる「機械」という語もデカルトの機械論を想起させる)。どちらも二元論的に人間認識に「儘ならない」部分を見出し、現実経験の決定不全(ありのままの現実は経験不可能)を主張する。しかし本書が単純な二元論と決定的に異なるのは、本書の予測処理理論は脳のみならず感覚シグナルや身体状態を含めた統合システムにより経験が成立すると論ずるのであり、一方が他方に内包されつつ双方が他方の動きを検知して自らの挙動を統制しあうという、極めて動的な二元を想定するモデルであるということだろう。 このダイナミズムのもとで現実を捉えようとするなら、勢い静的な「心/身体」「知覚/行動」「内部蓄積/外部ツール」といった二項対立の境界は曖昧になる。著者であれば、サールの著名な思考実験「中国語の部屋」に閉じ込められた人物でも、中国語を「知っている」(少なくとも中国語によるコミュ二ケーションを「経験している」)と表現するのかもしれない。 ただ、中盤やや唐突にチャーマーズの〈ハード・プロブレム〉と予測処理理論の関係を論ずる章が挿入されるが、無意識下で稼働する〈予測する脳〉が生む(したがって我々にとって馴染みのない)ある種の傾向こそが「クオリア」でありハードプロブレムの根底だ、という著者の論理立てに素直に納得できる読者は少ないのではないか。予測処理理論は確かに知的興味をそそるスキームだが、「これがまさに〈予測する脳〉である」というような特定の脳神経の発火状態が特定されたわけではないし、そのような予測と修正のフィードバックループを成り立たせている物理的基盤が「どのようであるか」を突き止めるのはなおのこと困難だろう。畢竟、心身の間に横たわる深い溝は残されたままなのだ。トマス・ネーゲルの言葉を借りれば「そのようなシステムであるとはどのようなことか」を探求する過程には、本書の議論だけでは到底尽きせぬとてつもない深淵があるように思えてならない。
副題「心はいかにして現実を予測して構成するか」の方が適切である。 最初の部分で、スマホを持っているとならないのに鳴ったと思って手に取ることがある。という話があり、この例が最適である。スマホのバイブにしているとバイブが振動しているように感じて手に取ることはよくあるだろう、この本は予測処理理論について...続きを読むの本であるから。予測処理理論を勉強するにはもってこいであろう。
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経験する機械 ――心はいかにして現実を予測し構成するか
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