☆5では足りない面白さだった。
私のベスト本10冊を決めるとしたら、ランクインすると思う。
たくさんのメッセージと人間や世の中への皮肉がうんと込められていて、ズシンと心に残る。
それでいて面白くてユーモアに富んだストーリー。
たった数ページ、十数ページの短いストーリーでありながら想像もつかない展開。
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はぁ、ため息が出ます。
読み終わってから2週間くらい経ったと思うのですが、いまだに余韻が消えません。
単純に面白くて笑ったのが「西部に生きる男」。
星新一はこんな話も書くのかと以外だったのが「愛の鍵」。
そして珠玉の短編ばかりのこの小説の中でも、ずば抜けて良かったのが「処刑」と「殉教」。
「西部に生きる男」
西部で決闘が行われる。
男は相手の裏をかくが、相手も負けずに裏をかく。
裏をかきすぎて、もはや何が何だかわからない。
最初は真面目に読んでいたが、途中から笑いを堪えられず。
「愛の鍵」
本当は相思相愛なのに喧嘩をしてしまった恋人たち。
最後にステキな展開が起こる。
星新一といえばシュールな短編のイメージが強く、背筋が冷たくなるようなオチが待っているのではとドキドキしながら読み進めたが、まさかの(?)ハッピーエンドに。
こんなパターンもあるのか、と新鮮。
「処刑」
犯罪者は、銀の玉を持って処刑地である惑星にパラシュートで降ろされるのだった。
ボタンを押すと水が出る、けれどいつか爆発して死ぬのだ。
1回目なのか、100回目なのか、それは誰にもわからない。
どこからか聞こえてくる爆発の音は誰かの命が絶たれた音。
諦めて、無気力で、生きた心地もしないまま、恐怖に慄きながらボタンを押して毎日をやり過ごす。
どれだけの月日が過ぎたのかもわからない。
けれど、主人公ははたと気付いたのだった。
これは地球での日々と実は何も変わらないのではないかと。
鳥肌が立ちました。
根拠のない漠然とした未来への不安と恐怖を抱えて日々生きる人間のなんと多いことか。
私はそんな風に生きたくない。
「殉教」
死者との通信ができる機械の発明。
そこでわかったことは、死の世界はとても素晴らしいということだった。
今まで人間の根底にあった死の恐怖がなくなったことにより人々を制御するものがなくなったのだった。
「処刑」のあとに「殉教」…これ、わざととしか思えません。
私が「殉教」の世界の中にいたらどうするのか。
もしかしたら私も死の世界を選んでしまうかもしれないと思うのです。
死にたいということではなく、この大きな流れの中、仲間がいるかもわからないのに生き残ることが正直怖い。
そんなことを考えてしまう自分に戦慄しました。