毒親・機能不全家族を描いた漫画6選【過干渉・モラハラ・抑圧】
ここ数年で耳にすることが増えてきた「毒親」という言葉。1989年に出版されたアメリカの書籍『Toxic Parents, Overcoming Their Hurtful Legacy and Reclaiming Your Life(邦題:毒になる親)』に由来しています。子どもを“自分に属するもの”と見なして思い通りにコントロールしようとしたり、暴力や性的虐待で一生消えない傷を負わせたりする毒親たち。そんな毒親との過去を振り返るエッセイ漫画をはじめ、「毒親」をテーマとした漫画6作品をご紹介。子どもを苦しめる親の弱さ、虐待から立ち上がろうともがく子どものやるせなさと強さに心を揺さぶられます。
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※当記事に記載の内容は全て「ぶくまる編集部調べ」です。また、当記事にはネタバレを含みます。
『毒親サバイバル』
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『毒親サバイバル』 1巻 菊池真理子/KADOKAWA
十人十色のサバイバル術
アルコール依存症の父の元で育った経験を描いたエッセイコミック『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)がヒット、2020年には映画も公開された菊池真理子先生。菊池先生と担当編集のハタノさんが聞き手となって、毒親家庭で育った人たちの過去と今を綴ったのが本作です。AV監督・文筆家の二村ヒトシさんのような著名人から一般会社員の方まで、さまざまな年齢・職業の毒親サバイバー11名が登場します。
子どもの給食費やアルバイト代までパチンコにつぎ込む母親、四六時中家族の動向をチェックしてはケチをつける父親、幼い孫を殴りつけて階段から突き飛ばす祖父――猛毒エピソードを、菊池先生は優しく寄り添うように聞き、漫画にまとめています。フィクションなら「ひどい親が死んでせいせいした」「でも、なんだかんだで今の自分があるのは親のおかげ」「年老いた親と和解できた」といったわかりやすい結末を作ることができるかもしれません。しかし、登場する方のほとんどは、大人になった今もどこかに生きづらさを感じながら、その生きづらさと向き合っている最中で、それが現実なのです。そんなシビアな現実を描いているのに、読んだ後には希望が湧いてくるのは、「許さなくてもいいんだよ」「毒親育ちでも変われる」という菊池先生のメッセージが随所から伝わってくるから。毒親からサバイブしようとする人を勇気づけてくれる作品だと思います。
また、「私は穏やかな家庭で育った」と話していた編集・ハタノさんの家庭にも、実は問題が……。暴力や暴言を浴びせられることだけが“毒”というわけではないのです。このエピソードを読んで、「これは他人事じゃない」とハッとする人も多いのではないでしょうか。また、知らず知らずのうちに自分がパートナーや子どもを傷つけているかもしれないと、考えさせられもします。
日常生活で感じる生きづらいエピソードを描いた『生きやすい』(秋田書店)も多くの人の共感を集めています。「友達との会話中、自分の発言に脳内でダメ出し続けて帰り道はヘトヘト」とか、あるあるすぎて自分のことかと……! ふんわりと穏やかな絵柄で、生きづらさを包み込んでそっといたわってくれるようです。
『きみが心に棲みついたS』
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完結『きみが心に棲みついたS』 全9巻 天堂きりん/祥伝社
泥沼恋愛劇かと思いきや、業深すぎの毒親漫画でした
吉岡里帆主演のドラマが「イライラするのに目が離せない」「星名さんが怖すぎる…!」と好評(?)だった『きみが心に棲みついた 新装版』(祥伝社)。その続編である本作が2020年についに完結。挙動不審でいわゆる“イタい女”のキョドコ(本名:今日子)と、大学時代にキョドコにトラウマを植え付けた腹黒イケメン・星名、おおらかで誠実でものすごく健全な心身を持つ漫画編集者・吉崎の三つ巴の恋愛劇はどこへ向かうのか。そして、タイトルの Sが意味する「Sacrifice(生贄)」とは一体誰のことなのか!?
前作で自分を追い詰め苦しめる先輩・星名に散々振り回された挙げ句、「私は星名さんから離れない!」と心に誓ってしまったキョドコ。コマ扱いされようが約束を反故にされようが星名にすがりつくという頭を抱えたくなる展開ですが、前作からの読者ならご存知のはず。これが“見捨てられ不安”をこじらせたキョドコの通常運転だということを。
しかし、どこまでも真っ当でキョドコとも対等に接してくれる男・吉崎と急接近してから状況は激変。星名から離れようとするキョドコですが、そんなことを彼が許すはずもなく、仕事でもプライベートでも妨害に次ぐ妨害が始まります。正直、何が星名をそこまで駆り立てるのか。ああ、ヤバい男だと分かっているのに目が離せない……。
そんなメンヘラ男女のイタい恋愛が主題かと思いきや、その裏にはもっと根深い問題が。これまで最凶の悪魔として周囲の人間をもれなく餌食にしてきた星名ですが、両親によってグロテスクなまでのトラウマを植え付けられた過去があったのです。ラスボスだと思っていた人物も実は「Sacrifice(生贄)」だったかもしれないなんて。しかもその悪意が同じく毒親育ちのキョドコに向かっているのがつらすぎます。
誰を責めればいいか分からない悲劇の連鎖にやるせない気持ちを抱くと同時に、こうして“毒”が受け継がれていくのかもしれない、と寒気を感じます。ここまで毒親の恐ろしさをじっくり描いた女性マンガは他にありません!
両親から受けた呪いによってタタリ神のようになってしまった星名はどこへ向かうのか、そしてキョドコは星名の支配下から逃れられるのか。ドラマ版よりも星名とその両親(特に母親)とのエピソードや、星名のアフターストーリーが容赦なく描かれているので、ドラマ視聴済みの人でも、いや視聴済みの人こそ楽しめるはず!
『虐待父がようやく死んだ』
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『虐待父がようやく死んだ』 1巻 あらいぴろよ/竹書房
壮絶な虐待の記憶から解放される日はくるのか
父は母や子どもたちを殴り、祖母は母をいびり、母もそんな環境に狂わされて奇行が目立つようになり……。そんな過酷すぎる家庭環境で育ったあらいぴろよ先生の幼少期から“虐待父”が死ぬまでを描いたエッセイコミック。この虐待父が本当にひどくてですね……。殴る蹴るは当たり前、言葉による人格否定、果ては主人公・ぴろよが中学生になると「女の体してやがんな」「お前の体は俺んもんだぞ!」と娘に手を出そうするのです。おぞましすぎて女性読者でなくともゾッとしてしまいます。しかも、虐待父からの悪影響は実家を出てからも続くのでした。
親からの虐待によって傷つけられるのは心身だけではありません。その後の人生における価値観や人との関わり方すら歪められ、傷つけられるのです。ぴろよも自らの空虚と歪みを埋めるため、恋愛で得られる快感に依存するようになっていきます。(そのあたりの詳しい話は映画化もされた『“隠れビッチ”やってました。』(光文社)にて!)
そうした恋愛感情の搾取によって間違った自信を獲得し、上から目線で人と接したり、メンタルが弱い人をバカにしたりするように。結果、職場で孤立して転職を重ね、うまくいかないことを「父親のせいで人生を狂わされた」と恨みを深くする――終わりの見えない負のスパイラルに、毒親の影響の根深さを痛感させられます。
現在、一児の母であるあらい先生。一時は父親と同じように息子を虐待してしまうのではないかという恐怖から、自分を追い詰めてしまったことも。しかし、そうした過去を乗り越えて、『今日からしつけをやめてみた』、『まんがでわかる 子育て・仕事・人間関係 ツライときは食事を変えよう』(主婦の友社)といった育児に関する書籍にも関わっています。
『毒親こじらせ家族』
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『毒親こじらせ家族』 1巻 松本耳子/竹書房
もしかしてウチの家族“普通”じゃないの!?
“いつも過積載トラックのよう”なトラブルてんこ盛りな半生を赤裸々に語ったコミックエッセイ『毒親育ち』(扶桑社)が「毒親本」の嚆矢となった松本耳子先生。本作では “毒家族”一人ひとりの濃すぎるキャラクターを掘り下げた毒エピソードを紹介しています。
「弟のお受験の親子面接当日に小指を詰めることになったヤクザ父」「長女を芸大に入れた時点で満足し、下2人の子は放置プレイした母」「性病にかかりまくったギャル妹」「セレブ幼稚園に入ったのをピークに右肩下がりの人生を歩む弟」などなど、どの出てくる人物全員パンチが効いています!
毒親の影響下から立ち直るまでを描いた前作より明るい印象を受ける本作ですが、松本先生は作中で「父親が苦手だったので顔とか姿を書くのも苦行だった」と語っています。読者からはクスリとしてしまうようなエピソードでも、当事者にとっては辛かった過去と直面するハードな作業なんですね……。
松本先生が家族のことを漫画のテーマとして表現できるようになった過程を知るには、『毒親育ち』をぜひ手に取ってみてください。子どもからも金を毟ろうとする父親に振り回されながらも自身は真っ直ぐ生き、子どもに依存気味の母親と適切な距離を置いた松本先生の生き様は、親子問題で悩んでいる人にも、子育て世代の人にも、自分が自分らしく生きていくためのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。
『愛と呪い』
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完結『愛と呪い 全3巻合本版』 全1巻 ふみふみこ/新潮社
血の呪い、宗教、90年代という時代が絡み合う怪作
『ぼくらのへんたい』(徳間書店)『qtμt キューティーミューティー』(LINE Digital Frontier)のふみふみこ先生による衝撃的な半自伝的漫画。ある地方都市に生まれた主人公・愛子の世界にあるのは、父親からの性的虐待、厳しすぎる母親からの体罰、宗教にのめり込む周囲の人たちからの悪意なき抑圧――閉塞感と絶望に満ちた“救済”の物語が始まります。
物語の始まりは1990年代後半。地下鉄サリン事件、阪神大震災、酒鬼薔薇事件と、社会を揺るがす悲惨な事件が続き、閉塞感に満ちた時代でした。
中学生になって父親の行為の異常さに気づいたものの、誰も自分を救ってくれないことに絶望していた愛子は、“キレる17歳”と呼ばれた少年たちに共感するかのように、自分を取り巻く世界の破滅を願うようになりますが、何も行動できずにいます。「ただの中二病」と言ってしまえば身も蓋もありませんが、90年代という独特の時代の空気感も再現されていて、この形容しがたい絶望感に覚えがある同世代読者も少なくないはず。この作品、「毒親」というジャンルで語るには、内包されていることが大きすぎるかもしれません。
同じく破滅願望を持つクラスメイトの松本さんや、援助交際をしていることを知った上で愛子と付き合う男・田中らとの出会いを経て、愛子は「愛と呪い」にどんな決着をつけるのでしょうか。
3冊合本版には、『おやすみプンプン』(小学館)などの浅野いにお先生、『血の轍』(小学館)『惡の華』(講談社)の押見修造先生、『1122』(講談社)の渡辺ペコ先生らとの対談が収録されています。それぞれ「90年代という時代」や「家族」といった作品の根幹に関わるテーマについて大ボリュームで語っているため、作品世界を深く理解するためには必読です。
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『イグアナの娘』
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完結『イグアナの娘』 全1巻 萩尾望都/小学館
巨匠の先見の明が光る異色短編集
表題作「イグアナの娘」は92年に発表され、95年に菅野美穂主演でドラマ化され大ヒットしました。娘のことがイグアナに見える母親と、母親から「あんたはイグアナだ」と冷遇されて育ったせいで自分をイグアナだと思いこんでしまった娘――まるでSF作品のような不思議な設定ですが、この母娘関係は“毒親”という表現がしっくりときます。母親から可愛がられずに育った主人公・リカは自己肯定感が低く恋愛にも積極的になれません。リカの母親は娘を遠ざけていましたが、「娘の肯定感を下げて自分に依存させる」って毒母の典型じゃないですか…? 萩尾望都先生自身も両親との折り合いが悪く、そうした経験の中からこの作品は生まれたのだそう。
また、口うるさくて過干渉気味な両親と、本当の自分の気持ちとの間で揺れ動く青年を描いた「カタルシス」は、より一層「毒親」漫画ど真ん中の作品です。「あなたのため」という言葉を盾に息子の自由意志を奪い、悩む息子に対して「早く普通にもどってほしいわ」と言い放つ無邪気な束縛と抑圧。「ああ、こういう親御さんいるよね」と思わせながらも、少年が心に受けた傷を鮮烈に描くことで、「毒親」という存在の本質を暴き出しています。きっと、お母さんもお父さんもきっと主人公のことを思っているんでしょうけど……家族って難しいな、としみじみさせられます。
その他にも、家庭がきしみ始めた40代主婦の淡い恋を描いた「午後の日差し」や、死んだはずの弟が見えるようになった少年が主人公の「帰ってくる子」など、家族をテーマにした作品が収録されています。どれも発表から20年以上たった今読んでもみずみずしく、萩尾先生の才能を思い知らされる短編集です。