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『血の轍』毒親を描いた話題作、引きこまれずにはいられない鬼気迫る描写を徹底解説!【ネタバレ注意!】

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『血の轍』バナー

『惡の華』『ハピネス』など、思春期の少年の内面を独特の設定とタッチで描いていく、押見修造先生。最新作『血の轍』は、中学2年生の主人公と「毒親」である母との関係性を描いた作品です。主人公を精神的に追いつめていく母の描写は、もはやホラー。大ゴマや瞳や唇などの局部のアップ、震える描線などなど、作者のこだわりに満ちた描写や演出が恐怖をかきたてます。

画面を凝視せずにはいられない『血の轍』を、書店員が徹底解説します!

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※当記事に記載の内容は全て「ぶくまる編集部調べ」です。また、当記事には一部ネタバレを含みます。

作品紹介

『血の轍』あらすじ

主人公・長部静一は群馬県に住む中学2年生。おとなしめの性格ですが、クラスには友達がいて、日々を平和に過ごしています。
家では、サラリーマンの父・一郎と専業主婦の母・静子との3人暮らし。静子は若くて美しく、息子を溺愛しています。

プロローグとして、静一が見ていた夢が最初に描かれます。幼い頃、母に手を引かれて散歩していた静一は、道に倒れている猫を見つけます。

「どうしてしんじゃってるん?」

と静子に尋ねる静一。静子はそれに答えず、静一に微笑むのでした。

『血の轍』冒頭部©押見修造/小学館

そのときの微笑みが、いきなり見開きの大ゴマに。何気ない親子のやり取りではありますが、ものすごく不穏な何かをかかえて、物語はスタートします。

『血の轍』冒頭部©押見修造/小学館

夏休みになり、仲良しの従兄弟・しげると家族総出で山に出かけた静一。そこで最初の大きな出来事が起こります。それによって、平和だった静一の日々は一変することに。今まで意識していなかった静子とのいびつな親子関係が、露わになっていきます。

『血の轍』の登場人物

『血の轍』相関図

長部静一(おさべ せいいち)

『血の轍』の登場人物:長部静一©押見修造/小学館

主人公。1981年3月19日生まれ(この設定によって、物語の舞台が1994年であることがわかります)。母の静子の言うことに素直に従う、優しい少年です。
学校では、仲がいい男子数人とにぎやかに過ごしつつ、美少女の吹石由衣子を意識しています。
家では従兄弟のしげると遊ぶことが多く、しげるの弟分のような関係です。あるとき、しげるに

「静ちゃんちってさ、カホゴだいね。」

と言われ、

「お母さんのこと、変なふうに言わないでよ。」

と反発します。

長部静子(おさべ せいこ)

『血の轍』の登場人物:長部静子©押見修造/小学館

静一の母。黒いストレートヘアの若くて美しい母親です。朝、静一を起こすときに首筋をさすったり、静一が小さなころの出来事を覚えていたことに喜んで、

「ママに抱きしめさせて。」

と言ったり、中学2年生の息子へのスキンシップとしては過剰な行動を、日常的に繰り返しています。

吹石由衣子(ふきいし ゆいこ)

『血の轍』の登場人物:吹石由衣子©押見修造/小学館

静一のクラスメート。ショートヘアの美少女で、静一のことを異性として意識しているような素振りを、最初から見せます。1学期の終業の日に、「こんどさ、うちに遊びに行っていい?」と静一に積極的にアタックします。
両親は離婚していて、父との二人暮らし。父との関係があまり良くないことが、後々わかってきます。

長部一郎(おさべ いちろう)

『血の轍』の登場人物:長部一郎©押見修造/小学館

静一の父。サラリーマンで、夜は飲み会があったり、休日出勤があったりと家を空けがちです。穏やかな父親で、静子に対して亭主関白だったり、静一に対して口うるさかったりすることは全くありません。

しげる

『血の轍』の登場人物:しげる©押見修造/小学館

静一の従兄弟。週末に母親とともに静一の家に遊びに来ることが多く、静一はクラスの友達との約束より、しげると過ごすことを優先せざるを得ません 。静一よりもやんちゃな少年です。

しげるの母

『血の轍』の登場人物:しげるの母©押見修造/小学館

静一の家によく遊びに来る伯母。一郎の姉にあたり静子より年長で、遠慮のない口の利き方をすることもあり、親戚内での序列が見え隠れします。

『血の轍』のここがこわい!

①静一の日常がこわい!

家でも学校でも、ごく普通の生活を送っているように見える静一。本作はその姿を淡々と描いていき、穏やかな展開からスタートします。しかし、平穏な毎日の中には、たくさんの「ゆがみ」が潜んでいるのでした。その描き方が実に巧みなのです。

たとえば、この静子のセリフ。

『血の轍』のここがこわい!:静一の日常がこわい!©押見修造/小学館

父も何も言わず、長部家の朝食はこれが当たり前になっているよう。この家族の特徴を見せる、さりげない仕掛けです。

プロローグで描かれた死んだ猫のエピソードを、静子に話して聞かせる静一。このページのノンブル部分に、血痕があることにお気づきでしょうか? この血痕は、この後、何度も、普通の会話をしているページに出てきます。いったい何を意味しているのか、はっきりは分かりません。登場人物の心の中に潜む闇とか暴力性の象徴なのでしょうか? それとも、悲劇を予告した刻印なのでしょうか…?

『血の轍』のここがこわい!:静一の日常がこわい!©押見修造/小学館

また、静子のスキンシップの過剰さも描かれていきます。

「ママ。いつも、ありがとう。」

と静一が照れながら感謝の気持ちを伝えたときは、なんと中学2年の息子の頬にキス。軽く唇を触れるのではなく、静一の肌にシルシを付けるかのように唇を押しつけているのが、実にこわい。

『血の轍』のここがこわい!:静一の日常がこわい!©押見修造/小学館

②静一の視線がこわい!

本作を読んでいて気づくのが、静子のアップの多さです。これはおそらく、静一の視点。二人だけのときも、家族や親戚と一緒のときも、静一は事あるごとに静子の顔を見つめている、というか静子から目が離せなくなっているのです。この執拗な視線によって、静一が静子に強い執着を持っていることが分かります。

『血の轍』のここがこわい!:静一の視線がこわい!©押見修造/小学館

しげるの一家とともに家族総出で山に出かけたとき、崖の上でしげるがふざけて静一の背中を押します。ぐらついた静一をとっさに抱きとめた静子。驚いた静一の視線の先には、焦りに歪む静子の顔がありました。それを見た叔母は笑い出し、

「本当過保護ねぇ!!」

と嘲ります。この叔母の口元のアップも不穏で、緊張感に溢れたページになっています。

『血の轍』のここがこわい!:静一の視線がこわい!©押見修造/小学館

③最初の「事件」がこわい!

お弁当を食べる家族のもとを離れ、再び、二人だけで崖に近づいたしげると静一。そこに静一を探しにきた静子が現れます。静子の過保護をからかって崖の上でふざけてみせたしげるが体のバランスを崩し、静子はとっさに彼を抱きとめます。
ふざけていたしげるは、静子の表情を見て態度を一変。このとき、静子がどんな顔をしていたのか、読者は見せてもらえません。彼女の周りには何匹もの蝶が乱舞していて、死の香りを漂わせます。

『血の轍』のここがこわい!:静一の視線がこわい!©押見修造/小学館

そして「事件」が起こり、全てを目撃した静一にむけて、静子がゆっくりと振り返ります。ここで、プロローグの猫の死体を見つけたときの、あの笑顔が再び。

『血の轍』のここがこわい!:静一の視線がこわい!©押見修造/小学館

驚愕する静一を、ぐらぐらと揺れる線で描写。彼の恐怖が画面から伝わってきて、息を飲むコマになっています。

『血の轍』のここがこわい!:静一の視線がこわい!©押見修造/小学館

一拍おいて、急に叫び声を上げる静子。目の前で起きた出来事に心の底から驚いているように見え、さらに恐怖は倍増します。その後、父に事の顛末を報告したときの脇にそらした目線が、見たことの全てを語れない静一の心を表現。一方、茫然とした表情で、ひとり言をつぶやく静子。普段の美しい顔とは別の顔を、静一は目の当たりにします。このページのノンブルにも血痕が!

ここまでが1巻の展開で、2巻以降、静一は秘密をかかえて生きていくことになります。

④静一の苦しみの描写がこわい!

しげるの事故の聴取のため、病院に刑事がやって来ます。静子の供述を隣で聞いていた静一は「お母さんの説明で、間違いない?」と尋ねられ、「ママの言う通りです。」と答えます。この出来事は確実に、彼の心に大きな傷を残し、静一はおそろしい夢を見るのでした。この夢はあえて画像を紹介しないので、ぜひ、本編で確かめてください。

嗚咽する静一を、ベタを効果的に使った明暗のくっきりした画面で描いていくのも見事。彼の世界が変わってしまったことが伝わってきます。

『血の轍』のここがこわい!:静一の苦しみの描写がこわい!©押見修造/小学館

そのとき、静一を吹石が訪ねてきます。彼女の存在は静一にとっての救いになるのでしょうか? ほとんどスクリーントーンが使われない本作ですが、このシーンではなぜか多用されていて、作者の意図を感じます。

『血の轍』のここがこわい!:静一の苦しみの描写がこわい!©押見修造/小学館

歩み寄ってくれた吹石に応えたい気持ちと、母からの重圧に苦しむ気持ちがごちゃまぜになり、吃音が出てしまう静一。吹石はそんな静一に、告白の手紙を渡します。そこにしげるの見舞いから戻った静子がノックもなく入ってきます。もともと、静一が誰かに恋をしている気配を感じていた静子の、このひと言がめちゃめちゃこわい。

『血の轍』のここがこわい!:静一の苦しみの描写がこわい!©押見修造/小学館

静子に見られてしまった吹石の手紙。いったい、どうなってしまうのかはぜひ、本編で。

⑤静子の心の闇がこわい!

3巻になると二学期に。吹石はあの日以来久々に会えた静一に、手紙の返事を尋ねます。どもりながら、「ごめん」という静一。なぜなら……。

『血の轍』のここがこわい!:静子の心の闇がこわい!©押見修造/小学館

吹石のこの言葉を聞いた静一は、その場から逃げ出してしまいます。
静一が帰宅すると、家では夫婦げんかが。夫の一郎に向けて放った静子の心の叫びを、窓の外にいた静一は耳にしてしまうのでした。一郎が部屋を出て行った後、静子は小さかった頃の静一をあやしているようなひとり言をつぶやきます。

『血の轍』のここがこわい!:静子の心の闇がこわい!©押見修造/小学館

静子のこの表情の描写が、これまたすごい。いったい彼女は心にどんな闇をかかえているのか、想像しきれません。この3巻では静一が初めて静子の心の闇を目の当たりにすることになります。後半の、真っ暗な家での二人のやり取りは圧巻。ここの一連のシーンは、ザッザッと引いたペンの斜線が鬼気迫る雰囲気を作り出しています。

『血の轍』のここがこわい!:静子の心の闇がこわい!©押見修造/小学館

デッサン画のように鉛筆で静子のアップが描かれたページも。

『血の轍』のここがこわい!:静子の心の闇がこわい!©押見修造/小学館

苦しむ静子を守ろうと必死になる静一。しかし、心を吐露した後、灯りをつけた静子は何事もなかったように、いつもの母の顔に戻るのでした。自分は頼りにされているのか、それとも無力な子供にすぎないのか。こういうふうに子供の心を分裂させるのは、「毒親」がわが子をマインドコントロールする時の、一つの手法です。
翌朝、静一を起こしにきた静子は、いつものように朝はんは肉まんかあんまんか尋ねることなく、決めつけたのでした。このセリフもさりげないけれど、すごく効いています。

『血の轍』のここがこわい!:静子の心の闇がこわい!©押見修造/小学館

⑥静一、静子、吹石の「三角関係」がこわい!

4巻に入ると、静一は静子の呪縛から逃れるように、吹石の手紙での告白を受け入れていきます。静一は勇気を振り絞って自ら告白し、二人は付き合うことに。
吹石と川岸のベンチで話して帰る途中、遅い帰宅を心配して迎えに出ていた静子とでくわします。背中から静一を抱きしめた静子は、あることに気づきます。ここにも、ノンブル脇の血痕が。

『血の轍』のここがこわい!:「三角関係」がこわい!©押見修造/小学館

静一が吹石と会っていることに、どう考えても気づいている静子。朝ごはんもサンドイッチになるのです。もう、これだけでこわい!

当然の展開として、川岸でのデートは静子に知られることに。このシーンでは静子の顔を斜線で塗りつぶすことで、恐怖が倍増されています。

『血の轍』のここがこわい!:「三角関係」がこわい!©押見修造/小学館

吹石と静子のどちらを、静一は選ぶことになるのでしょうか。

⑦静子のマインドコントロールがこわい!

5巻では、静一が静子がいる家から逃げるようにして、吹石の部屋を訪れることに。女の子の部屋の甘い空気がふわりとした描線で描かれて、青春っぽい展開に。

吹石の部屋に泊まりながら、静一は静子の夢を見ます。そう簡単に母の呪縛から逃れることは、彼にはできません。吹石の家にやって来て、彼女の父親に、いかに自分にとって静一が大切なのか、涙とともに語っていく静子。それを隠れ見ていた静一にとって、母はこのように美しく映るのでした。雨粒がストップモーションで描かれていて印象的ですが、この美しい描写とはうらはらに、禍々しい何かが潜んだシーンになっています。

『血の轍』のここがこわい!:マインドコントロールがこわい!©押見修造/小学館

吹石と静子の間で切り裂かれる静一を、見事に表現したのがこのページ。

『血の轍』のここがこわい!:マインドコントロールがこわい!©押見修造/小学館

吹石と離れて、家に向かって歩く静一を涙とともに出迎えた静子。家につくと静一にご飯を食べさせ、再び、しげるが落ちたときの顛末を語り始めます。「もう逃げないから」という言葉を聞いて、本当のことを話すのかと期待する静一。しかし……!
ショックのあまり、目を見開いてしゃべれなくなった静一。彼の心を上書きするように、静子は虚飾に満ちた言葉を繰り出していきます。魔力を持った言葉が煙となって、静一の体の中に入り込んでいくかのような、この描写!

さらに、吹石と一夜を過ごしたことについて、今度は静一を責め立てていきます。追いつめられた静一は、完全に静子に心を支配された状態に。
静子による静一のマインドコントロールが果たされた翌朝は、一転して穏やかな描線に。あの「肉まんとあんまん」のセリフが、効果的に繰り返されます。おっと、ここにもノンブル脇の血痕が。

『血の轍』のここがこわい!:マインドコントロールがこわい!©押見修造/小学館

『血の轍』の感想

『血の轍』1巻の感想

「ギャップ感(振れ幅)が凄い」
冒頭の優しくて柔らかい感じの世界観はいずこへ?途中から、狂気に満ちた世界へと突入します。そのギャップ感(振れ幅)たるや。漫画でこんなにも気持ちがざわついたのは久しぶりです。あと、あまりクドクドと説明せずに、キャラクターの表情や雰囲気だけで伝わってくるのは、やはり作者の描写力が優れているからでしょう。この先の展開が楽しみです!

「惡の華を越える作品」
惡の華から、この作者のファンです。惡の華、僕まり、と読んできましたが、今までで一番先が気になる作品です。母と息子の関係を描いている作品ですが、最初から不穏な空気が漂っています。単純に息子が可愛くて仕方がない、母親とその息子ではなく、そこには愛情がいきすぎた故の狂気のようなものが描かれています。狂った共依存のような関係が今後どのように転がっていくのか、毎回気になって読んでしまいます。

「押見修造ワールド全開!」
美しい母の不敵な笑みが恐ろしく、ゾクゾクしてきます。特に、とある事件の後の母の表情には背筋が凍りました。そして、主人公と母の距離感、主人公に対する母の態度に驚きました。息子が大切なあまりに動いてしまったのだろうとも考えられますが、何を考えているのかがまったく読み取れない、ミステリアスな雰囲気にひきつけられます…。不気味なのに、続きが気になって読みたくなってしまう作品です。

『血の轍』全体の感想

静ちゃんの視点から見た母親は理解不能な怪物だ。
でも大人の私にはわかる。
彼女の深淵を覗けば、そこには誰でも感じたことのあるような平凡な悩みがあるだけなのだと。
少々拗らせてはいるけれど。
母親を演じることに倦み、もっと違う人生もあったはずと迷い、自分を犠牲にして育てた息子に過剰に執着する。
静ちゃんの反抗期は母親を子離れさせることができるかな?   Posted by ブクログ

このボーイミーツガールは全くときめかない。
常に脳裏に母の面影。
性と母の連想が気持ち悪い。怖い。辛い。
イチャイチャが全く楽しくない。吹石さん可愛いのに。
暴力ではなく母の執心、執着が息子を追い詰めるのだ。
深く刻まれた轍は静ちゃんを縛り捕えて離さない。  Posted by ブクログ

これからの『血の轍』は?

工夫を凝らした描写が、物語をどんどん怖ろしくしている『血の轍』。6巻で静一は完全に静子に取り込まれてしまったかに見えますが、最後に、まだまだこの先の波乱を予感させる展開が待っています。
親子関係を、ここまでのホラーに仕立てる押見先生の手腕。今後はどのような形で発揮されていくのでしょうか? 続刊を楽しみに待ちましょう。

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