【ネタバレ注意】“無自覚の悪意”が呼ぶ殺意――。謎だらけの漫画『ピエロマン』を相関図つきで考察!
2022年8月に「漫画ゴラク」で連載が開始された漫画『ピエロマン』。原作は『ハカイジュウ』や『切子』シリーズなどで知られる本田真吾先生で、作画は超絶画力の高橋伸輔先生のタッグです。コミックスは10/27に第4巻が発売になりました。
仕事も私生活も順風満帆の主人公を突如として襲う「ピエロマン」。絶望と混乱の中でピエロマンの正体を追う主人公。凄惨な悲劇、先が読めない展開、散りばめられた布石。緊張と驚きが読む者を惹きつけます。
今回は、あらすじとともにキャラクターを相関図でまとめ、独断と偏見で謎多きピエロマンの正体を考察してみます。
※当記事はコミックス第2巻までのネタバレを含みます。
目次
【1】あらすじ
山村虎時はデビューから15年の中堅漫画家。「漫画ゴクラク」で連載する『復讐道化(リベンジクラウン)』が、念願の映画化決定となります。古くからの漫画家仲間や職場のアシスタントたちに祝福され、優秀な担当編集にも恵まれて、家には可愛い妻。まさに人生のピークです。
漫画家仲間と祝杯を上げ帰宅し、妻の結菜と幸せを噛みしめる虎時。今もしかしたら世界一の幸せかも――。
そこに、脈絡無くこつ然と現れたピエロ。
その姿を認めた瞬間に虎時は気を失い、気がつくと結菜とともに拘束されていました。眼前にはさっきのピエロがいます。
虎時はこのピエロを知っています。他でもない、虎時の漫画『復讐道化』のキャラ、「ピエロマン」です。
凶器を手に「お前は殺されて当然の人間だ」と虎時に言い放ちます。
混乱の虎時をよそに、結菜の頭頂に容赦なく振り下ろされる刃。
絶叫する虎時に、ピエロマンがさらに追い打ちをかけます。結菜は、虎時の担当編集である長内と不倫していた、と。2人の行為中の音声を垂れ流します。
妻の死と裏切りを突きつけられ発狂寸前の虎時。そこに凶器を振りかぶりピエロマンは言います。
「お前にはしっかり支払ってもらうぞ “無自覚な悪意”の代償を」
なぜか職場で目を覚ました虎時。アシスタントたちもいます。悪夢だったかと一瞬錯覚しますが、後頭部の出血が現実と知らせます。じゃあ結菜は本当に殺されたのか?事態を掴めない中、テレビのニュースが結菜の死体発見を報じ、さらに続けます。
容疑者は漫画家の山村虎時。
さらなる混乱。ざわつくアシスタントたち。玄関のインターホンが鳴り、ドアの向こうで警察を名乗っています。
ピエロマンにハメられたと悟った虎時は窓から逃走。
世間から濡れ衣を着せられ、警察から逃げながらピエロマンを探す虎時。手がかりを求め「漫画ゴクラク」の編集部に向かおうと電車に乗り込みます。
そこに再び現れたピエロマン。
結菜の殺害は始まりに過ぎなかったのです。ピエロマンの仕掛ける連綿とした悲劇が幕を開けたのでした。
【2】登場人物
●山村 虎時<やまむら とらじ>
漫画家。38歳。漫画雑誌「漫画ゴクラク」で『復讐道化(リベンジクラウン)』を連載しています。
●山村 結菜<やまむら ゆな>
虎時の妻。29歳。元は虎時のアシスタントで、漫画家を志していました。
●三倉 サユリ<みくら さゆり>
虎時の漫画家仲間。アニメ化作もある売れっ子です。虎時は漫画家仲間の会合を「虎時会」と勝手に名付けていますが、サユリは虎時会現役唯一の女性。
●黒木 以蔵<くろき いぞう>
虎時の漫画家仲間。関西弁です。彼の漫画も映画化されています。
●服部 雪哉<はっとり ゆきや>
虎時の漫画家仲間。42歳。虎時会では唯一、メディア化の経験がありません。
●長内 英一郎<おさない えいいちろう>
「漫画ゴクラク」で虎時を担当する編集者。32歳。
●宮間<みやま>
虎時の職場のアシスタント。
●新藤 朱音<しんどう あかね>
虎時の娘。15歳です。
●新藤 葉子<しんどう ようこ>
虎時の前妻で朱音の母。35歳。もとは虎時会の漫画家のひとりでした。
【3】「本物」のピエロマン
あらすじの続きです。
電車で再び虎時の前に姿を現したピエロマンは、ハロウィンの渋谷に虎時を誘い、「俺の「正体」を当ててみろ」と虎時に迫ります。1時間以内に捕まえられなければ、街のどこかに仕掛けられた爆弾が爆発する、と。
街が仮装者でごった返す中、虎時はピエロマンを探します。しかし、ハロウィンに集まった群衆は逆に虎時を捕まえようと探していました。ピエロマンが虎時に賞金をかけたことがSNSで拡散されていたのです。
虎時は人々に追われながら、しかし逆転の奇策を講じてピエロマンの捕獲に成功します。
マスクを取ると、アシスタントの宮間でした。
「俺が君に何をした?」虎時には、宮間に恨まれる覚えがありません。
職場でかつて行われた、月に一度のネーム批評会。ある回で、虎時は宮間のネームに指摘をしました。
虎時にとっては、覚えてさえいないような些細なこと。しかし宮間にとっては、漫画家の夢を諦めるに十分なものでした。
後味の悪さが残る幕切れ。でも、これで結菜を殺した犯人は宮間とわかり、爆発も防いだ。そのはずでした。
虎時のスマホが鳴ります。それは、「本物」のピエロマンを名乗る者からの電話でした。
宮間は、「ハロウィンでのピエロマン」を頼まれただけ。虎時を慌てさせるドッキリ企画として。ピエロマンの本当の「正体」は当てられていない――。
爆弾は宮間の衣装に仕掛けられていました。宮間の上半身が吹き飛びます。
「本物」と、そうでないピエロマンがいる。これが、物語の謎を深めるポイントのひとつになっています。「本物」のピエロマンと、「演じられた」ピエロマン。本物はどこにいて、今対峙するピエロマンは本物なのか、そうでないのか。虎時とともに読者もこうした推理をせずにいられません。
【4】“無自覚な悪意”
「お前にはしっかり支払ってもらうぞ “無自覚な悪意”の代償を」
あらすじで触れたピエロマンのこの言葉は、物語に通底するテーマです。
前章の続きです。
爆発騒ぎに警官が集まってきて、虎時は追われる身となりますが、これを助けたのが漫画家仲間のサユリ。虎時を自宅へ一時匿います。
サユリは、ピエロマンの衣装が差し出し人不明で届いたことを打ち明けました。「虎時に恨みがある場合の連絡先」が書かれた紙が添えられていたことも。
サユリに届いた衣装と紙。同じものが宮間にも届いていたことが想像されます。これが虎時の知り合いみんなに届いていたとしたら、誰もが次のピエロマンになり虎時を襲う可能性があるとサユリは示唆します。
自分は恨まれるようなことはしていない――。しかし、現にそうした”無自覚”を叫び、死んだのが宮間です。
誰にでもあり得る“無自覚な悪意”。自身に覚えがないゆえに、誰から恨みを買っているかわからない。これが「本物とは別のピエロマンが生まれる」という現象にも説得力を与えています。
虎時がサユリ宅で黙考していると、ピエロマンの生配信が始まります。それは「漫画ゴクラク」編集部からの映像でした。編集者たちを皆殺しにし、長内をいたぶるピエロマンが映し出されます。
これを見て、虎時は編集部へ急行しピエロマンと対峙します。サユリの仮説は当たっていました。今度のピエロマンは漫画家仲間の服部です。
デビュー作は不発。編集者にも冷遇され、結果が出ないまま42歳となった服部。「このまま無様に終わって満足か?」人生に意味を見失い、首を括ろうとしたところにピエロマンがそう説き伏せ、服部は復讐のピエロマンとなったのです。
服部には、虎時に対する密かな、しかし確かな恨みがありました。
虎時の『復讐道化』は、服部のデビュー作から着想を得て、虎時なりの表現にしたものだったのです。その上で、『復讐道化』の映画化を祝う席で虎時が服部にかけた激励の言葉。これがとどめでした。
やはり服部も、虎時の“無自覚な悪意”によって復讐に目覚めたのです。
かつての仲間に凶刃を突きつけられる虎時の運命は――!?
【5】真犯人を考察
宮間も服部も、「本物」のピエロマンではありませんでした。一連の事件の真犯人は一体誰なのか?
“無自覚な悪意”によって、真犯人が虎時の身近にいるとすると…?コミックス第2巻までにわかっている人物相関図はこうなります。
宮間と結菜は、第2巻時点では既に明らかな死亡の描写があります。長内は動画配信のときに服部ピエロマンに重傷を負わされますが、はっきりとした描写はなく生死は不明。
服部がピエロマンとなった理由は、他の漫画家仲間全員に当てはまる可能性があります。虎時が覚えてもいないような行動・言動が、彼らの殺意を育てているとしたら。
葉子は漫画家を退いていますが、離婚のきっかけは、虎時と結菜の不倫にあったようです。この時のことを葉子は許しているのでしょうか。
結菜を殺したピエロマンは筋肉質な体をしていました。服部をそそのかしたピエロマンは、服部の首を掴み片手で持ち上げるほどの腕力。
このことから男性キャラがより疑われますが、これらのピエロマンさえ傀儡だとすれば、女性キャラ、ともすると娘の朱音というまさかの可能性も、完全に消すことはできません。
【6】終わりに
『ピエロマン』考察、いかがだったでしょうか。
“無自覚な悪意”とは、この物語だけではなく、私達の日常にも潜むものです。身近な誰かの行いに“無自覚な悪意”を感じることもあれば、「その逆もまた然り」。虎時を自身に置き換えたとき、背筋がゾッと寒くなる……。そんな作品が『ピエロマン』です。
謎に包まれたピエロマンの正体。みなさんもぜひ本編をご覧になりながら推理してみて下さい。