≪最新版≫風俗がテーマの漫画12選【エロだけではないリアルが分かる】
※2020/12/04:『はたらくすすむ』『鼻下長紳士回顧録』を追加しました。
「風俗=エロ」という固定観念で、風俗を取り上げる漫画に対して軽い印象を持たれている方は少なくないかもしれません。しかし、実写映画化で話題になった『闇金ウシジマくん』や『新宿スワン』などをはじめ、人間の果てなき欲望をテーマとする作品には、エロの要素を含みつつも人間ドラマとしての秀作が多いのです。また、近年話題となった『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』などで描かれているように、単に肉欲を満たすだけのものではない側面も伺えます。
法律的な解釈ではキャバクラや雀荘、パチンコ店、ゲームセンターなども「風俗営業店」となるのですが、本記事では一般的にイメージされる(性的サービスの)「風俗」にフォーカスし、風俗のリアルな実態を踏まえながら、ストーリーに読みごたえのある漫画12作品をご紹介します。それぞれ内容が濃く、視点がユニークなので、興味を持った作品から楽しんでみてください。
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目次
『はたらくすすむ』
『はたらくすすむ』 1~3巻 安堂ミキオ / 講談社
マジメなおじさんの視点で描くリアルなピンサロの世界
妻を病気で失ってしまった、66歳の長谷部進(はせべ すすむ)。家にいるばかりでは落ち込んでしまうと思って申し込んだ清掃員のバイト先は、なんとピンサロだった、というところから始まるお話です。
マジメ一筋で風俗の体験など一度もなかった進。そんなオジさんの視点で、風俗の世界を描くのが本作。最初は、店で繰り広げられる性的サービスの際どさや、下着姿で歩き回る女性たちを目の当たりにして、とんでもない場所に来てしまったと戸惑う進。しかし、女性たちの仕事に向かう姿勢に感銘を受け、一生懸命バックアップしていこうと思い直します。
風俗の現場の日常や、女性たちの会話がリアルに描かれるのが、本作の魅力です。
指名が入ると口いっぱいにミントを頬張って接客に向かい、終わるとひどい客の悪口を言い合ってストレス発散。指名が少ないことに悩んだり、売れっ子の女性に嫉妬したり、客や同僚のちょっとした言葉に傷ついて辞めてしまったり。店で働く女性ひとりひとりの姿が丁寧に描かれていきます。
「人気第1位の女性の月収が90万越え」「性病にかかってしまったら自己負担」などの金銭や健康に関わるシビアな話も。その一方で、進が風俗嬢兼女子大生の子の英語の課題をマンツーマンで手伝ったり、女性たちに誘われて一緒にスパに行ったりという、普通の60代男性にはなかなか経験できない交流が描かれ、ほっこりさせられることも。店の女性たちは進のマジメな人柄が大好きで、基本的に平和な人間関係が描かれていきます。
進の若い頃の思い出や、漫画家である娘のエピソードなども挿入され、ファミリー漫画の一面も。ピンサロでマジメに汗を流して働くおじさんを、ぜひ応援してあげてください。
『鼻下長紳士回顧録』
完結『鼻下長紳士回顧録』 全2巻 安野モヨコ / コルク
ブロードウェイ上演を目指すプロジェクトが始動!
『さくらん』『働きマン』など、女の世界、仕事の世界を描いてヒット作多数の安野モヨコ先生による、20世紀初頭のパリを舞台にしたエロティックなロマンス。と来たら、面白くないわけがありません!
舞台となるのは、「メゾン・クローズ(閉じた家)」という名の売春宿。超高級というわけではありませんが、ネクタイをして正装した紳士がメインの客層となるお店です。そこで働き始めて3年になるコレットを主人公に、男と女の夜ごとの饗宴が描かれていきます。
「メゾン・クローズ」で興じられるのは、あらゆる種類のアブノーマルなプレイ。女たちは男のためのテーブルになったり、逆に男を犬扱いしたりして、彼らの欲望に応えていきます。
「本当の変態とは 名付けることのできない欲望を抱えた人間のことを言うんだ」
などなど深みのあるセリフが多く、哲学性を強く感じさせるのは、さすが安野先生です。
また、働いた金はすぐに衣装代や化粧品代に消えていき、日々を贅沢に生きてはいるけれども、どうしても空虚さがまとわりつく売春婦たちの描写もリアル。さらに、彼女たちは「メゾン・クローズ」に半ば閉じ込められていて、逃げ場がありません。
そんな中でコレットは、自分に会う度に金をせびってきては、他の高級娼婦に貢いでいる色男のレオンに夢中。誠実さがまったく感じられない男に溺れてしまう、どうしようもない愛のかたちも、物語の柱になっていきます。
人間の複雑怪奇な一面を描きつつ、重くなり過ぎていないのも本作の良さ。服や小物などが丁寧に描かれ、安野先生の熱いこだわりを画面のすみずみまで楽しめます。
なんと、ブロードウェイでの上演を目指してのミュージカル化プロジェクトが進行中。実現すれば、日本の漫画原作として初になるとのことで、すでに完結している作品ですが、この先、注目度が増していきそうです。
『匿名の彼女たち』
完結『匿名の彼女たち』 全6巻 五十嵐健三 / 講談社
日本全国の風俗を淡々と巡る
中堅商社の営業マン・山下貴大は、32歳独身で彼女無し。見た目は至って普通の主人公が、日本全国の風俗を淡々と巡る、風俗版「孤独のグルメ」ともいうべき作品です。
全国各地の色街について丁寧に紹介されているのが本作の特徴。例えば、第1話に登場する新潟市の昭和新道は、
大手デパートが立ち並ぶ古町の繁華街の裏路地……
新潟駅から歩くには遠いためタクシー代のサービスをする風俗店もある‥‥
など、具体的に説明されており、地域性が伝わってきます。また、貴大はキャバクラを「女に騙されに行く場所」と表現し、風俗を
支払った分の対価がここにはある
キャバクラよりよっぽど道徳的ではないか!!
と断言しています。傷つくことや煩わしさを避けて女性と距離を置きながらも、風俗嬢のドキッとする一言に気持ちが一瞬揺らいでしまう……。どこか寂しさや哀愁を感じさせる心理描写に、共感してしまう読者もいるはずです。また、貴大とのやり取りから、登場する風俗嬢たちがそれぞれ抱える事情も垣間見え、考えさせられるエピソードもあります。
本作には「日本全国色街マップ」もついているので、男性は出張のおともに(!)、女性は彼氏の行動チェックに(!?)役立つかもしれませんよ。
『フルーツ宅配便』
『フルーツ宅配便』 1~12巻 鈴木良雄 / 小学館
エロ描写一切なし。他人事ではない風俗の世界を描く
勤めていた会社が倒産し、故郷に帰ってきた青年・咲田。学生時代にラーメン屋で顔見知りとなった強面の男・ミスジと再会した彼は、デリヘルの店長をやらないかと誘われ、ミスジがオーナーを務めるデリヘル店「フルーツ宅配便」で働くことになります。女性たちはそれぞれの事情でお金が必要な人々。みな、フルーツの源氏名をつけられ、自分のため、家族のためにデリヘル嬢として働いているのでした。
この作品の最大の特徴は、デリヘル行為のシーンが一切描写されていないこと。ごくごく普通の女性が、ほんのちょっとしたきっかけで借金を抱えたり、お金が必要になったりして、普通に働くよりも給料の良い風俗に入るというのは、現実にもよくあることで、たびたび社会問題にもなっています。本作は徹底的にエロを排除し、ユーモアも交えながら彼女たちの悲哀を描いているところが秀逸です。
中でも特筆すべきはミスジのキャラ。オーナーである彼は、店の女の子には手厚く優しくしますが、それはあくまで「商品」だから。新人店長の咲田は女性に同情し、なんとか助けられないかと考えますが、
「あんまりよ…あんまり店の子に感情移入すんな…おれらに人なんか救えない。」
と言い切るミスジの言葉は一つの真理を突いており、優しさだけではどうにもならない現実を考えさせられるのです。
また、新規客を捕まえるために広告やサイト運営にコストをかける分、常連客をいかにつかむかが大事など、デリヘルのビジネスとしての戦略もうかがい知ることができ、なるほどと思う場面も。「自分とは全く関係ない」と思っていた風俗の世界が、実はすぐ隣り合わせにあるものだと実感し、同時に現代社会の生きづらさも感じる作品です。
『リアル風俗嬢日記~彼氏の命令でヘルス始めました~ 』
『リアル風俗嬢日記~彼氏の命令でヘルス始めました~ 』 1~18巻 おまΩこ( Ω子 )・GSST / アムコミ
「風俗嬢あるある」がリアルで面白い
本作は、現役ヘルス嬢のΩ子先生が風俗業界を赤裸々につづったコミックエッセイです。特徴は、なんといっても現役ならではのリアルな体験談。なかなか知ることができない風俗嬢の仕事現場について、Ω子先生のキュートな絵柄とユーモアたっぷりな語り口で描かれています。
業界ならではの「あるある」エピソードも豊富。例えば、
- 彼氏ができると職業がバレないようにわざとたどたどしくする
- 同僚はドラマでよく見るような派手な人というよりは、優しくて穏やかな人が多い
- AVを観ているとまずAV女優さんの身体を心配してしまう
など、実感をもって描かれています。また、職業としての「風俗嬢」のシリアスな面も。Ω子先生は風俗嬢だけでなく、アルバイトを掛け持ちしているそう。その理由は、「マンションの賃貸・更新」対策で、職業が風俗嬢だと審査が通りにくいからとのこと。楽しいエピソードが多い一方で、風俗嬢の社会的な評価についても触れられています。しかし、
「お客さんを喜ばせようと思う気持ち 貰って嬉しい言葉 そこにサービス業としての垣根は無いように思います」
と語るΩ子先生。風俗嬢とお客のエピソードにクスッと笑いながら、プロとして真摯に仕事に向き合う姿勢に心動かされる、一冊で二度楽しめる作品です。
ちなみに、Ω子先生が風俗業界に飛び込んだ理由は、サブタイトルにある通り、Ω子先生の彼氏の命令。Ω子先生と彼氏との関係性がなかなか衝撃的なので、ぜひ本編で確認してみてください。
『リアル風俗嬢日記~彼氏の命令でヘルス始めました~ 』を試し読みする
『デリバリー』
完結『デリバリー』 全9巻 usi / 芳文社
デリヘルの美人ドライバーのトラブル解決が痛快!
主人公はデリヘルの美人ドライバー・桜坂。複数の店のドライバーをかけもつ彼女には、社員や店長としてのオファーがしばしば舞い込みますが、桜坂はフリーランスのスタンスを貫きます。客はもちろん、風俗嬢も多種多様。客の財布から金を盗んでも罪悪感のない女、本番行為がダメな本当の理由を知らない女、ギャンブル依存の女、客へのストーカー行為に走る女……桜坂は彼女たちの周りで起こるさまざまなトラブルを、言葉で、時には腕っぷしで解決します。
送迎中の車内は、風俗嬢にとってくつろげる数少ない場所です。日々、桜坂は風俗嬢の話を聞き、時には客と対峙し、店の裏側を見つめます。風俗業界で信念に従って物事を進める桜坂は、まさに「仕事人」。筋を通さない客や風俗嬢には、痛烈な一言を浴びせます。決して馴れ合わず、でも見捨てない。風俗店オーナーたちにも一目置かれ、風俗嬢には頼られる、そんな姉御肌な桜坂がカッコいい! また、彼女の視点を通して、性産業の実態も分かります。
読めばスカッと痛快な、凛々しく強い桜坂の活躍にシビれてください。
『ちひろ』
完結『ちひろ』 全2巻 安田弘之 / 秋田書店
不思議な風俗嬢・ちひろの人生に心揺さぶられる
どんな男性客でも優しく受け入れ、女性の友人にポンと大金を貸して逃げられる……。博愛(?)の風俗嬢・ちひろを取り巻く人間模様を描いた物語です。
飄々としているけれどプロ意識もある、不思議な魅力を持っているちひろ。そんな彼女の内省が所々に記されています。
「博愛」「誠意」「優しさ」「真面目」「健気」「移り気」「無責任」「八方美人」「優柔不断」
本当の自分はどこにいるのかなんて考えるのはやめた
私の心はきっとどこにもいないから
ものすごいウソつきだから
風俗嬢は自身の魅力で男性客を惹きつけます。内心では客が離れてしまうことを恐れているために、過剰なサービスをしたり、疑似恋愛のような駆け引きをしたりして、愛を繋ぎとめようとするのです。しかし、ちひろは客を客として扱うため、深く執着はしません。そして、そんなスタンスの自分が一番貪欲なのだと自覚しています。なぜなら、繋ぎとめようと必死な風俗嬢に疲れたお客たちが、ちひろを指名するから。
どこか浮世離れしたちひろですが、しつこい客には毅然とした態度をとったり、一本筋の通った発言で悩める同僚を勇気づけたりもします。読むほどにちひろの過去や心の内をもっと知りたいと思ってしまうのは、それだけ彼女に魅力があるから。また、ちひろの周りにいる人たちは皆それぞれ人間臭く、人情溢れる人たち。風俗を描いた漫画ですが、コミカルな温かさも感じられる作品です。
現在は、続編の『ちひろさん』が連載中。風俗を辞めてお弁当屋で働き、相変わらず飄々としながら人を惹きつけるちひろと、彼女を取り巻く人々の人生模様が描かれています。
『オトコとオンナの深い穴』
完結『オトコとオンナの深い穴』 全1巻 大田垣晴子 / KADOKAWA / メディアファクトリー
男女の性事情をルポ形式で描く
大田垣晴子先生といえば、独特のユルさのある作画とエッセイに味わいのある作家さん。本作も、ともするとエグくなってしまいがちな男女の性事情が、ゆる~いテンポで描かれており、女性でも抵抗なく読み進めることができます。
取材を元に構成されたエピソードが全部で25話。人気ホストクラブ、元祖お見合いパブ、国際結婚相談所といったあたりから、ソープランド、デリバリーヘルス、老舗SMクラブ、SWAPパーティーといった刺激的なものまで多種多様です。それらにハマる男女それぞれの分析にはじまり、なかなか知り得ない現場の声まで丁寧に拾い上げています。大田垣先生ならではの鋭い人間観察が、各エピソードの奥底にあるディープな性の実情をあぶり出していて、読み応えたっぷりです。
著者が女性ということもあり、オンナ目線で知りたいことが詳しく取り上げているという印象を受けますが、男性読者が興味を持つツボもしっかりと押さえられています。25話のエピソードの後に語られる「男子禁制」の章では、女性特有のトピックをあけっぴろげにルポ。女性読者にとっては「あるある」という内容かもしれませんが、男性にとっては女性の秘密を覗き見るような、ちょっとイケナイ気持ちになってしまうかもしれません。
『風俗行ったら人生変わったwww』
完結『風俗行ったら人生変わったwww』 全2巻 山口かつみ・@遼太郎 / 小学館
映画化もされたストーリーをコミカライズ!ラストはグッとくる
実写映画化された2ちゃんねるのスレッドを、『オーバーレブ!』の山口かつみ先生がコミカライズした本作。「年齢=彼女いない歴」のモテない主人公・遼太郎。勇気を出して飛び込んだデリバリーヘルスで出会った「かよさん」に、一途な思いを抱きます。かよさんはなぜ風俗嬢になったのか……。元カレの借金を肩代わりしたことがきっかけで風俗に放り込まれることになったかよさんですが、その話には更にウラがあったのです。
風俗業界の闇を巧みに描写しながら、遼太郎のラブストーリーが展開していきます。読み進めていくと、風俗業界に引きずり込まれ、自分一人ではどうしようもなくなってしまっている女性は決して特殊ではなく、他人事ではないということが分かります。
こんなもののために…いろんな人の人生の歯車がくるい、傷つけ合って…生きている意味を奪われてしまうなんて…
かよさんを思って涙ながらに発した遼太郎の言葉には、暗部を抱える社会への憤りや、なんともやるせない気持ちがこめられています。もちろん、「ラブストーリー」「成長ストーリー」としても読み応え充分。どんどんたくましい男に成長していく遼太郎を応援したくなります。また、彼を助ける頼もしい友人・晋作くんも策士で男前! 非常に魅力的です。
原作の空気感をうまく残しつつ、テンポが良くて読みやすいので、元スレやまとめサイトで知ったという方はもちろん、映画で観たという方にもおすすめです。
『都立水商!』
完結『都立水商!』 全22巻 猪熊しのぶ・室積光 / 小学館
誇り高き水商売を目指す高校生たちの成長物語
テレビやネットで「貧困女子」というワードを目にすることも多い昨今ですが、水商売で働くことになったきっかけは、あまりポジティブな理由ではないというのが実情ではないでしょうか? そんな水商売の在り方を変える、という気概で設立されたのが、本作の舞台「都立水商業高等学校」。そこには「フーゾク科」、「ゲイバー科」、「ホステス科」など、あらゆる水商売のスペシャリスト育成のための学科が存在します。しかし一方で、その校門をくぐることになった生徒たちは、高校生ながら社会から「失格」の烙印を押された落ちこぼればかりで……。
もちろん架空の高校なので、授業の内容はぶっ飛んだものばかり。“フーゾク科”の授業の基本は、コケシを使った「手こすり千回」。また、イメクラをテーマにした実習では、実際の電車内を模した教室で、演技力を磨くために「本気」で攻めたり、など、ここまでやるの!? という授業が繰り広げられます。また、教師と生徒のラブ要素もあり、笑いもドキドキも盛りだくさんです。
元はやさぐれていた生徒たちですが、第一期生を迎える入学式の祝辞で、校長はこう言います。
「キミたちは脱落者なんかじゃない。
この国の「水商売」という未開の地に プライドとモラルの種をまき、育てる…開拓者なのです。」
この言葉をきっかけに変わった彼らは、ポジティブに水商売を学んでいくようになりますが、世間的にはあまり受け入れられづらい分野なだけに、しばしばトラブルが。しかもその相手は、時に水商売を生業としている大人であることも……。教師と生徒が一丸となって立ち向かっていく様は、熱い学園ドラマとしても楽しめます。
水商売で働くということとは? 職業に貴賤はあるのか? 室積光先生・猪熊しのぶ先生の強いメッセージが詰まった本作。また、続編の『都立水商!2』では、一期生・小田真理が教師として水商に着任するところから物語が始まります。読後は、風俗業全般に対する見方が変わるかもしれませんよ。
『吉原のMIRAIさん』
完結『吉原のMIRAIさん』 全2巻 真倉翔・真里まさとし / 集英社
破天荒なソープ嬢が江戸時代にタイムスリップして大活躍!
現代の吉原でNo.1だったソープ嬢・未来が、ひょんなことから江戸時代の遊郭・吉原にタイムスリップ。動揺するかと思いきや、持ち前のポジティブさですんなり順応し、彼女ならではの癒やしテクニックで一気にトップへ駆け上がっていく、風俗版『JIN―仁―』とも言える(?)作品です。
江戸時代の人々からしてみれば酔狂な格好と髪色で、「南蛮狸」などと呼ばれる未来。ですが、未来はトップを張っていたソープ嬢としてのプライドとプロ根性で、ライバルの売れっ子女郎・舞雪の執拗な嫌がらせにもめげません。勝ち気な未来が舞雪をやり込める様は痛快の一言! 一方、単に客の性欲を満たすだけではないという、風俗の「心」の部分にフォーカスし、未来が客を癒やす過程が描かれているところが見どころです。
江戸時代にはなかったくぐり椅子を自作し、米がゆの汁を「ろうしょん」代わりに、客を極楽へと導く……現代のアダルトアイテムをうまく江戸時代に再現するところは、タイムスリップものならではの面白み。一方、花魁ものでよく見聞きする「花魁道中」とはどういう時に行われるのか、吉原の妓楼(ぎろう)のランクはどうなっているのかなど、江戸時代の風俗も描かれています。
原作者は『地獄先生ぬ~べ~』の原作も手がけた真倉翔先生。明るくポップなエンタメ系風俗漫画として、ライトに楽しめます。また、『時をかけるMIRAIさん~吉原のMIRAIさん「特別編」~』では、平安時代や戦国時代にもタイムスリップ! 歴史上の人物まで癒やしちゃう未来に注目です。
『デリワゴン』
完結『デリワゴン』 全1巻 阿部定治・伊野ナユタ / 双葉社
風俗は世知辛いだけじゃない。はかない愛情や優しさを描く
本作は、デリヘル嬢の送迎を担当する主人公のユキ(男性)と、送迎されるデリヘル嬢のコミュニケーションを中心に描かれています。
強面でガタイのいい外見とはうらはらに、素朴で正義感の強いユキが巻き込まれる出来事を通じて描かれているのは、世知辛い風俗の実態。ですが、全編を通して、ユキだけではなく、デリヘル嬢やデリヘルの店長の一見分かりづらい愛情や優しさが描かれており、人間ドラマとしても秀逸です。
ユキの出自や、店長との出会いのエピソードからは、「職業や肩書だけで、人間を判断すべきではない」という思いで胸が熱くなります。ごついユキの不器用な笑顔に、デリヘル嬢だけではなく読者も元気づけられる本作。1巻のみと短い作品ですが、風俗業における人情の機微に触れており、続きが読みたくなる隠れた名作としておすすめです。
最後に
人間への洞察が深い、秀作ぞろいの風俗漫画。エロくて楽しい描写もあるものの、人間の欲望との向き合い方や、男女の性、いにしえからビジネスとして長らく続く風俗業界で働くということなど、どの作品も独自の切り口から社会的な視点や強いメッセージを伝えていて、風俗を考えるきっかけを与えてくれます。
風俗の実際について知りたいけれど、どこを取っ掛かりにすれば分からない、という方も少なくないはず。風俗を描いたこれらの漫画が、その入口になるかもしれません。