◯名作。大変面白かった。
◯現代人であれば必ず読むべき一冊。将来の自分をあらゆる意味で見通す。
◯現代における個人の孤独を鋭く描写している。鋭角過ぎて突き刺さるほどである。
◯文章表現・演出も巧みである。言葉の選び方が場面を活かしている。
◯昔から認知症はあったはずである。しかし、核家族化が進む
...続きを読む中で、認知症の存在は忘れられ、血縁である家族ですら、認知症を忌避することとなった。
◯また、個人を尊重する世界の中では、他者のことはまさしく他人事なのである。それは家族であっても。現代の孤独の構造を先鋭化して我々に突きつけるのが認知症であり、その故に文明病なのである。
◯この小説が描かれたのは高度経済成長の最中であり、今以上に福祉制度が発達しておらず、それを補完する形で家族制度が維持されているという悲しい幻想の中で、極めて個人・個が浮き彫りとなってしまった実態との乖離が人々を悩ませている。
◯現代においては、介護保険制度が成立、運用され、老人への福祉制度は充実したかに見えても、今度は子育て世帯が孤立を深め、虐待へと繋がってしまう。あわせて少子化がどんどん進んでいく。現代人の孤独の構造は全く変わっていない。むしろ、制度が充実するほどに、矛盾してより深い傷となっているのではないか。現代の孤独が、現代の社会問題すべての原因とも考えられる。
◯この小説に出てくる人間たちは、実に現実的で、それ故に我々の共感を呼ぶが、全員自分の事しか考えていない。結末で孫が言ったことは悲しい。それに涙した母は、最後に義父と家族になったのかもしれない。
◯登場人物たちのそれぞれに共感する。しかし、その共感には違和感を覚えていいのかもしれない。我々の孤独に対してどのように対応していくのか、今もって結論は出ていないのだから。