時間軸設定としてはおそらく、1990年・2002年の二つの世界を行き来しつつ、
キーパーソンである『陣内』の周囲に起こる出来事を、
異なる4つの目で観測された物語。
陣内はどこか通常の人とは違う一種独特な倫理・道徳観を持っていて、
突飛な行動の数々でいつも周りの人間を驚かせています。
これは恐らく
...続きを読む、知識をたくわえ地位を得て、理性で自らの真の姿を隠そうとする父親を偽善者と捉え、
あくまでその正反対を生きようとするロックンローラー的な気質を表しているんでしょう。
全編を通してその本質はブレずに描かれていき、語り手である四人はそれぞれ、
陣内に影響を受けては新しいじぶんの姿を見つけていく様が見て取れます。
人間は子どもから大人になるに従って年相応の『ものわかり』の良さを身につけ、
そこをはみだし素朴な疑問や欲求を持つものをおかしいものと見るようになります。
そして誰しも計算や打算で本来の姿を隠して、自らを偽って生きています。
陣内はそういうまわりくどいことを抜きにして、学生時代には当たって砕けろの精神で、
そして少し先の未来では、家裁調査官となって目の前の事に取り組む姿を見せてくれます。
面白いのは、12年経って核になる所は変わっていないものの、
少年を更生させる事はあくまでも『奇跡』と捉えている部分です。
がんばって結果が出なくても、元が奇跡なら裏切られてもあきらめがつく、
数多くのケースを目の当たりにして現場に立ったものだからこそ出る、
ひとことの格言には確かな成長の跡が感じられます。
偽りの美辞麗句を並べる卑怯な大人が居並ぶこの世で、
たとえ不器用でも『かっこいい大人像』にこだわる。
自分の感情に正直で、ちょっとイタズラっぽいチルドレンのような、
それでいて彼なりの正義の姿。
本当にロックだな。
そんなふうに自分には受け取れました。
伊坂幸太郎氏の作品を手に取るのはこれが初でして、名前だけは
聞いたことがあるものの、なかなかきっかけがつかめませんでしたが、
なるほど、こういう切り口もあるのか、って新しい気づきを得ることができました。
他の作品も必ず近いうちに読んでみようと思います。