『ブルーピリオド』徹底解説!美大を目指す高校生のリアルな青春ストーリー(ネタバレあり)
今、漫画好きの間で、「面白い!」と評判を高めている『ブルーピリオド』。東京藝術大学をはじめ、美大入学を目指す高校生たちの青春ストーリーです。タイトルの『ブルーピリオド』とは、有名な画家パブロ・ピカソに由来する言葉。もともとは、ピカソが青春時代に描いた絵の画風を指し、そこから転じて不安を抱える青春時代を表す言葉になりました。その名の通り、瑞々しく、時に苦しい青春ストーリーが魅力の本作。作者の山口つばさ先生は東京藝大出身。自身の体験をもとに描かれる、リアルな「美大受験」漫画です!
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※当記事に記載の内容は全て「ぶくまる編集部調べ」です。また、当記事にはネタバレを含みます。
『ブルーピリオド』あらすじ
『ブルーピリオド』 山口つばさ / 講談社
『ブルーピリオド』を試し読みする
友人たちと朝まで遊んだりして、楽しい高校生活を過ごしている2年生の矢口八虎。それでいて学校では成績優秀。何事もそつなくこなせるからこそ、生きる目標を定められなかった彼が、偶然見出したのが美術の世界でした。上級生が描いた1枚の絵をきっかけに絵を描くようになり、やがて、最難関の東京藝大油画科入学を目指して、本格的に勉強を始めていきます。
学校の美術部から、美大受験の予備校へと通い始めた彼が、個性溢れる受験生たちと出会い、触発されながらも前へ進んでいくストーリーです。
『ブルーピリオド』の登場人物
学内と予備校に分けて、『ブルーピリオド』の登場人物たちを紹介します。
矢口八虎(ヤグチ ヤトラ)
本作の主人公。物語スタート時で高校2年生。よく遊びよく学ぶ、円滑な高校生活に手応えのなさを感じていたとき、美術の世界の魅力に触れ、美術部に入部。3年生に進級すると、志望校を東京藝大の一本に定め、美大専門の予備校に通い始めます。金髪の「不良」だけど、成績優秀で周りの空気を読む「優等生」という二面性は、後々の伏線になることに。腐れ縁の龍二とやり合うときだけは、いつもと違う一面を見せます。
鮎川龍二(アユカワ リュウジ)
美術部所属の2年生(物語スタート時)で、髪を伸ばしスカート姿で登校する女装男子。同級生たちからは、鮎川のまん中を取って「ユカちゃん」と呼ばれています。八虎とは何でも言い合える仲で、ケンカもしますが、時には彼に勇気を与えることも。八虎を美術部にいざなったのも彼でした。第一志望校は、東京藝大の日本画科。八虎とともに美大専門の予備校に通い始めます。
佐伯先生
美術部顧問。穏やかな物腰の初老の女性教師ですが、にっこり笑って物事の核心を突く、油断できないタイプ。悩める八虎を導く大人のひとりです。
森先輩
八虎の一つ上の先輩。小柄でかわいいタイプ。美術部で一番上手い人で、武蔵野美術大学の推薦枠に見事合格。美学生になってからも、八虎の憧れであり続けます。
八虎の遊び友達。藝大受験に取り組む八虎のことを、自分たちとは違う世界に行ってしまったと突き放すことなく、快く応援してくれるいいヤツらです。メガネが歌島、右の小さくてゴツいのが純田、背が高いオールバックが恋ちゃん。恋ちゃんは八虎に触発されて、自分の進路を決めていくことに。
高橋世田介(タカハシ ヨタスケ)
八虎が美大専門の予備校・東京美術学院(東美)の冬期講習で出会った、同い年の少年。他人を拒絶するタイプで、八虎も出会い頭にその洗礼を浴びることに。絵はほとんど初心者なのに、石膏像のデッサンを完璧に描く、いわゆる「天才肌」です。3年生になると、八虎と東美の油絵科・夜間部で一緒になることに。しかし、世田介は次第に予備校に不満を抱えていくことになります。
橋田 悠(ハシダ ハルカ)
世田介と同じ高校に通う、大阪弁の少年。東美の油絵科・夜間部で八虎と出会います。人の作品を鑑賞するのが好きで、東京藝大受験も、たくさんの受験生の絵に出会えるのが楽しみだとのこと。笑顔を絶やさないおおらかな性格で、絵でも独特の感性を発揮します。
桑名マキ(クワナ マキ)
冬期講習から八虎と一緒になった少女。家族全員が東京藝大出身というサラブレッドで、絵の才能は八虎のクラスではピカイチです。しかし、現役藝大生(しかも首席合格)である姉を意識し過ぎる一面が。明るく人なつこい少女ですが、時々、闇をかかえた発言があり、ドキッとさせられます。
大葉(オオバ)
東美の講師。大柄な女性でおおらかな性格。八虎には、最初の個人面談で、このままでは藝大合格はキツイと言い放ちますが、その後の彼の成長に目を見張ることに。彼女の的確な指導は、八虎だけでなく、私たち読者にとっても目からウロコです。
美大の受験勉強って何をするの?
そもそも美大って、どういうところなんだろう?
美大受験について何も知らなくても大丈夫。『ブルーピリオド』は優しく読者を導いてくれます。まずは、絵に興味をいだいた八虎が、美術部の手伝いをしながら雑談するシーン。美大とはどんなところか、ユカちゃんや森先輩のレクチャーが始まります。
森先輩が見せてくれた美大の合格作品は、学科によって多種多様。試験内容もかなりの違いがあるとのこと。
東京藝大だけでなく、『ブルーピリオド』に登場する美大は、全て実名。そこもリアルです。
東京藝大は日本一の受験倍率!?
八虎や森先輩の雑談に佐伯先生も参加。東京藝大についてのレクチャーが始まります。
油画科については、現役高校生が受かる倍率は、なんと60倍! 「二浪四浪は当たり前の世界」を佐伯先生は言います。
その上で、にっこり笑って八虎の背中を押す佐伯先生。
出ました、学費問題! 私立美大は年間約160万円。しかし藝大は約50万円ということで、八虎は両親の経済状態も考えて、最難関の藝大一本に絞ることに。
美大専門の予備校へ行こう!
美術部で一番上手い森先輩が、予備校の講評では下から5番目だったことに愕然とする八虎。その時、彼は美大専門の予備校の存在を初めて意識します。そんな時、佐伯先生に勧められたのが、東京美術学院(東美)の冬期講習。3年に進級するとやっと親の承諾も得られて、本格的に東美の油絵科夜間部に通い始めます。
東京藝大の入試とは?
ざっくりとこんな感じ。八虎は成績優秀なので、センター試験は問題なし。まずは1次のデッサンに全力を注ぎます。
東京藝大の入試試験は、奇想天外な課題ばかり。年によってかなり違うので、自分に合う課題に巡り会えるかどうかは、「はっきり言って運や」と橋田は言います。
4巻に入ると、いよいよ受験本番に。受験生たちの姿が緊張感を持って描かれていきます。
『ブルーピリオド』の見どころ
八虎の本気がかっこいい!
美術の世界にのめり込むことで、生きる目的を見つけられた八虎。絵に向かうときの彼は、どんなシーンもかっこいいのです。
絵との出会い
八虎が、絵の魅力に最初に引きこまれたシーン。F100号(人物画の100号。162.1センチ×130.3センチ)という大きなキャンパスに描かれた緑色の肌を持つ女性たちに、八虎は思わず息を飲みます。この絵の作者が森先輩でした。
森先輩の100号の絵を見た直後、八虎は佐伯先生から声をかけられます。そのときの、美術は文字じゃない言語、という言葉が、彼の心にずっと残り続けるのでした。
最初の作品
美術の授業の課題「私の好きな風景」に真剣に取りかかる八虎。朝まで遊んだ渋谷の、誰もいない青い街並みを、彼は自分なりのやり方で描いていきます。そのときの心象風景は、こんなふうにステキに表現されます。
「渋谷の青い風景」を友人たちに理解してもらえたとき、「ちゃんと人と会話できた気がした」と、八虎は涙をこぼします。彼の人生が、美術によって色づいていきます。
説得の1枚
東京藝大受験を母親に納得してもらうために、八虎は母をスケッチします。そして、描くために母を見つめたことで、日々の家事にこめられた家族への思いに改めて気づくのでした。絵を描くからこそ、わかるものがある。八虎の素直な言葉が母の心に刺さります。
夏期講習スタート。初めてのコンクール
浪人生と一緒になる夏期講習は、現役生のみの夜間部とは全く違う雰囲気。そこで八虎は初めての予備校内コンクールに挑戦します。ここで彼は、絵の具だけでなく、あらゆるものを画材として使う浪人生たちの姿を見て、開眼することに。
俺の絵で全員殺す
数ある八虎の名シーンの中でも断トツにかっこいいのが、ここ! 世田介に「美術じゃなくてもよかったクセに…!」と言われて、悔しい思いが爆発。絵に全てを賭けるのは死ぬほどこわい。しかし、今の自分にはそれしかない。
俺にとっての縁は、金属みたいな形
文章で与えられた課題を絵にする「イメージ課題」で、思うような絵が描けず苦悩する八虎。そんなとき、佐伯先生から美術部で「F100号を描いてみましょう」と提案されます。東美の課題でうまく表現できなかった「縁」をテーマに、F100号という大判に取り組む八虎。「縁」は自分にとって、どう見えるのだろう? 彼は新たな何かを掴んでいきます。
そして完成したのが、この絵!
八虎に足りていないもの
絵を初めてから2年足らずでどんどん伸びてきた八虎。しかし、彼にはどうしても越えられない大きな壁がありました。それが大葉先生の言う「自分勝手力」のなさ。つまり、ずっと空気を読んで生きてきた八虎は、今までの人生そのものを、問われることになるのです。彼はこの難題を、どうやって絵で乗り越えていくのでしょうか?
そして藝大一次試験!!
いよいよ藝大の一次試験。その試験会場で八虎は、とあるトラブルに巻き込まれることに。しかし、それが彼にあるアイディアをもたらします。あとは時間と戦い。がんばれ!
いざというときに発揮する八虎の無心の力。めちゃ、かっこいい!
美大を目指す高校生たち、それぞれのドラマが深い!
世田介×八虎
八虎と世田介は、特に複雑な関係性を築いていき、本作の見どころのひとつです。まずは出会い。世田介に気軽に声をかけた八虎は、こんな返答を受けます(笑)。
東美の冬期講習で、世田介の天才ぶりを意識するようになった八虎。3年になって、二人は東美の夜間部で再会。しかし、世田介は相変わらず、八虎にキツい。
なぜなら、世田介にとって八虎は「なんでも持っている人」に見えるからです。
同時に、世田介は東美の指導にもイライラを募らせることに。
八虎にとっての世田介は自分とは違う「天才」。世田介にとっての八虎は自分とは違う、社会に順応して生きていける人(それは東美においても)。意識し合う二人は、とっても複雑なライバル関係にあるのかも。
世田介に「見てるとイライラするよ」と言われて、喜んじゃう八虎。ギスギスするばかりではない、なんだかいい関係の二人なのです。
ユカちゃん(龍二)の苦しみ
明るくてかわいくて、男女どちらにも人気のユカちゃん。しかし、女性の格好をしつつ、一人称は「俺」というあたりに、彼のアンビバレントな苦しみが潜んでいることが分かってきます。2巻のこのシーンは彼のドラマの始まり。
女装、そして美術は、ユカちゃんの心を守る鎧ということなのでしょうか。
4巻でとある決断をしたユカちゃん。後になってそれを知った八虎は、彼の身の振り方を心配しますが、八虎をよく知るユカちゃんはそれを突き放すのでした。
傷つく八虎に、橋田の的確すぎるアドバイスが。
藝大受験の真っ最中、八虎はユカちゃんと二人、夜の海を見に電車に乗り込みます。二人がたどり着いた場所で、ユカちゃんは八虎に、隠していた自分の気持ちを吐き出すのでした。ずっと苦しみの中にいたユカちゃんが、再び歩き始める感動的なシークエンスです。
すごい姉を意識するマキ
藝大主席合格の姉をもつ桑名マキ。しかも、実家に同居ということで、意識せずにはいられない存在。姉を、藝大受験において最大のプレッシャーと感じてしまっても、仕方ないことです。
マキは基本的に笑顔で、愛想のいい女の子です。それは感情を押し殺しているということでもあり、心の中は嵐が吹き荒れているのでしょう。八虎との何気ない会話で、こんな発言が飛び出し、ドキリとさせられます。
優劣を比較されてしまう、近しい存在をもった人の悲劇。それがマキです。
こういうときの八虎は、正直、すごくかっこいいと思います。モテそう。
画法、練習法についても、詳しく解説
絵を描くには感性だけでなく、勉強が大切です。『ブルーピリオド』はさまざまな画法やスキルアップの練習法を解説してくれて、それも面白いのです。八虎の技術が上がっていくにつれて、彼に課される課題も高度なものになっていきます。
遠近法のいろいろ
二次元の絵に奥行きを持たせる遠近法。こんなにたくさんの手法があるんですね。
デッサンとは?
デッサンとは「形 空間 質感を把握して観察力と技術力をあげる修練法のこと」と佐伯先生。その上で、こんなアドバイスを与えてくれます。
油画の画材とは?
美術の世界に本格的に触れたことのない身にとっては、水彩画よりもずっとなじみの薄い油画。いったい、どんな画材を使って、どのように描いていくのか? 全くの素人から藝大の油画科を目指す八虎を見ているうちに、どんどん分かってきます。
すべての名画は構図がいい
大葉先生による教え。いい構図とは何か、それは5つの幾何学形態で分割できるといいます。ここから始まる大葉先生の構図の講義は、すごく面白いです。
色の奥深さ
ある難関を乗り越えた八虎は、「色」を突き詰めることに挑戦。大葉先生の「色」の講義が始まります。
色ってほんっと~に奥深い世界よ!
始まりは3色だけでも 関係性・配分量・形・構図・素材・光・絵肌 そのほかもろもろで無限に変化する
ところで『ブルーピリオド』に出てくる絵って、誰が描いてるの?
『ブルーピリオド』の登場人物たちは、とにかく絵を描きまくります。しかも、キャラクターによって感性もスキルもまちまち。彼らが描いた絵がコマの中に登場すると、必ずコマの脇に、誰かの名前が記されているのに気づくはず。たとえば、世田介が最初に描いた石膏画は、大塚千春さん。作者の山口先生以外の多くの描き手が、キャラクターの作品を担当。『ブルーピリオド』はたくさんの「絵描き」によって成り立っている作品なのです。
『ブルーピリオド』のこれから
現在5巻で、藝大受験真っ最中という『ブルーピリオド』。緊張感溢れる展開が続いていて、目が離せません。しかし、受験というのは一つの壁を乗り越えることでしかなく、八虎の絵描きとしての人生は、その先が本番となっていくのです。とあるインタビューで、「本当は美術界の漫画をやりたいんです」と語っていた山口先生。 美術の世界に生きる若者たちを描く『ブルーピリオド』、どこまで続いていくのか注目です!
『ブルーピリオド』の感想
共感のコメント多数!読者からの感想をピックアップしてご紹介します。
『ブルーピリオド』1巻の感想
パッと見完璧くん(勉強出来て気の利くコミュ力高いヤンキー)な主人公で自分とは全然違うのに、不安とか虚無感とか自虐心とか、ネガティブな感情部分にすごく共感できた。
絵もとにかく綺麗。水彩的なグレー処理と漫画らしいトーン、ベタが嫌味なく組み合わさっていてスゴく好きな画面。それだけでも見る価値あるなーと思います。
2017年もギリギリで大型新作が登場です。絵を描く、ものをつくる、あの泣き出しそうなくらいはかないドキドキが「冷たすぎずに」けれど「熱すぎずに」、ほんとに絶妙な温度感で描かれるのがいい。ほんとーに、ちょうどいい塩梅で、そこが他の同一テーマの作品と圧倒的に違う。どうしても漫画家はこの主題に入れ込みすぎてしまうから、ここまで根源的な「あのころ」の気持ちにまでなかなか戻れない。思い出すことができたくらいだ。
美大の予備校行ってたころのこともめちゃめちゃ思い出しちゃって、はー……いいね。展開がけっこう早いのもいい。そして八虎くんである。かわいい。この作品はBLだ。美術と、八虎くんのBLだ。
『ブルーピリオド』5巻(最新刊)の感想
受験生だからってただ努力してる様を見守ってくれる社会じゃない。ボロボロになりながら、のボロボロがいかに酷なものかを描ききる執念がこの漫画の凄みになっていて、だからこそ受験が終わってからも分厚いヒューマンドラマを見せてくれるんだろうなと思える。橋田が掘り下げられる時を今から楽しみにしている
終わりに
美大を舞台にした名作に、羽海野チカ先生の『ハチミツとクローバー』がありますが、あの作品の登場人物たちも、実はこういう受験をくぐり抜けてきたのかと思いつつ、『ブルーピリオド』を読みました。何か一つに打ち込む主人公の姿というのは、どんなジャンルでも見応えがありますが、それが絵となれば、自分も絵を描くタイプの漫画ファンにとっては、さらに身近に感じられるのではないでしょうか? 八虎たちの姿を通して、美術の面白さを、ぜひ体感してください。
『ブルーピリオド』 山口つばさ / 講談社
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