「乾くるみ」の近未来SF作品『スリープ』を読みました。
『カラット探偵事務所の事件簿2』、『塔の断章』に続き「乾くるみ」作品です。
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テレビ番組の人気リポーター「羽鳥亜里沙」は、中学卒業を間近にした二月、冷凍睡眠装置の研究をする“未来科学研究所”を取
...続きを読む材するために、つくば市に向かうことになった。
撮影の休憩中に、ふと悪戯心から立ち入り禁止の地下五階に迷い込んだ「亜里沙」は、見てはいけないものを見てしまうのだが。
どんでん返しの魔術師が放つ傑作ミステリー、待望の文庫化。
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SF作品ですが、ミステリ要素の強い作品でした… いやぁー、本作も見事に騙されました、、、
というか、30年後の世界に同一人物が二人現れ、パラレルワードモノか? と思わせておいて、実は… という展開が愉しめました。
■一章 科学のちから
■二章 未来科学研究所
■三章 冥府の王
■四章 覚醒
■五章 逃避行
■六章 追跡
■七章 異変
■八章 蝉の命
■九章 胡蝶の夢
■十章 アリサは眠る
■解説 香山二三郎
物語は2036年から始まります… 30年前のテレビドラマ「科学のちから」に出演していた天才美少女"ひらめきの天使"こと「羽鳥亜里沙」が紹介され、舞台は30年前の2006年に遡ります、、、
「科学のちから」には、のちのノーベル物理学賞受賞者「戸松鋭二」を始め、数人の中学生レポーターが出演しており、その中でも「亜里沙」は際立った存在だった… しかし、彼女は番組終了の2ヶ月前に降板し、その後、TV界から姿を消していた。
2006年2月、「亜里沙」は「科学のちから」の取材でつくばにある未来科学研究所を訪れる… そこでは、特に有人宇宙船による恒星間飛行を可能とするための技術開発や研究が進められており、冷凍睡眠もそのひとつで、彼女はその試作機TSC-7を目の当たりにするが、ひょんなことから研究にまつわる秘密を知ってしまう、、、
その現場を見ていた所長の「八田」は、冷凍保存前の身体のデータを解析するMFT高解像度スキャナーの試し撮りをさせてほしいと彼女に依頼… 彼女も被写体の第一号になることを承知し、装置に付随した寝台に横たわる。
だが、一瞬ののちに目覚めると、そこは2036年の世界だった… 「亜里沙」に付き添っていたのは、かつての仲間「戸松鋭二」で、彼は彼女が何故そこで目覚めることになったのか経緯を説明する、、、
それによると彼女は「八田所長」の罠にはまって冷凍保存される羽目になったが、その後冷眠に関する法整備の影響で患者の解凍は禁じられてしまった… それを承知で解凍し、罪に問われることになった「戸松」と「亜里沙」は逃亡生活を始める。
「亜里沙」は冷凍状態で寝ていたことから、感覚的には一瞬で30年を飛び越した感覚… まさにタイムスリップしたような状態だった、、、
そこは、濡れた身体や衣類を一瞬にして乾かす仕組みがあったり、紙幣の肖像画が変わっていたり、ゴムマスクによる精巧な仮面が愛用されていたりと、生活面で随所に変化があり、社会的にも大統領制や道州制が採用されたり、首都機能が北海道に移転されていたり、新関東大震災が発生したり、自衛隊が軍隊になっていたりと、大きな変化を遂げていた… 「戸松」と同じく「科学のちから」の出演メンバだった「鷲尾まりん」が陸軍情報本部国家公安部の一員としてふたりの追跡に加わり、新しい事実が判明していきます。
そして、冷眠していたはずの「亜里沙」のもうひとつの人生が示され… これはパラレルワールドか!?と、思わせておいて、最後にサプライズが待っていました、、、
そもそも『スリープ』って、タイトルがミスリードを誘う仕掛けになっているもんなぁ。
行き過ぎた科学を利用して人間が生命を操ることによる悲劇… 人類が自らの手で作り出した初めての人類の哀しい結末… 切ない物語でしたね。