主人公の荒井尚人が手話通訳者として、そして過去に警察事務官をしていたことから法廷の通訳もこなす。
そんな中で、荒井も家族を持ち、悩んで子どもを持つことを選択する。
そして生まれてきた瞳美はろう者だった…
母親のみゆきは、聴者に近づけるよう人工内耳を手術で埋め込みたい、と悩み、最後にろう者として育て
...続きを読むる決断をする。
荒井家に産まれた瞳美は、かなり恵まれた環境だと思う。でもここでコーダとして育ち当たり前に日本手話を使いこなせる荒井と、小さい頃から面白がってアラチャンの手話を覚え使いこなせる美和の間で、以前、万一子どもが、ろう者だとしてもわたしが覚える!と言ったことが自分の枷になり、みゆきは別の意味で孤立していく。
聴者とろう者、という単純な分類でなく、聴者の中でのさらに分類があるという事実に打ちのめされる。
そしてろう者同士のカップルが初めての出産を無事に終えることができなかったこと。
ろう者は電話をかけられない。
そして単純な通訳では医療用語も含め理解できない。しかもろう者自身、聴者の会話に詳しくない、聴者の事情に詳しくない、そんなさまざまなことから、荒井のように、ろう者に寄り添った通訳をできる、心がける人は、今後ますます重宝されるのだろう。
静かなる男も悲しい話で、郷里にいた時はにぎやかな男だったというのが、その後の大変だと思われる人生を思い起こさせ、辛い気持ちになる。
でもその男のとった行動により、認知症で理解が難しい母親に伝えられたのなら、せめてもの幸いだったのか。
最後の法廷のさざめきは、なんとなく先は読めるが、悲しい話で現実だと思った。まだまだ日本の現実はここまでなのだ、と。、
法廷で誰もろう者の手話の、言葉にならない叫びを止められないというくだりは、皮肉なものだと思った。
最後にHAL がちらっと出てくる。
クールサイレントと騒ぎ立てられ。自分がどうすればいいのか繰り人形になってしまい、わからなくなってしまったHAL が新たな活動を始めたのなら、本当に嬉しい。
今回の本は短編がいくつもあるので、前2作を読んでいなくても大丈夫だと思う。
全く今まで興味もなかったろう者のことを、考えるきっかけを与えてくれた作者に感謝してます。
ありがとうございます。
この本の続編も、他の本も読んでみようと思います。
手話を始めるかどうかはわからないけど、少なくとも考えなきゃいけない問題に気づいた。
3作目のこれが一番いいかもしれない。
書くテーマとして難しくデリケートな問題だと思うが、ライフワークとして是非続けて、日本のろう者文化を変えていくくらいのパワーになることを祈ってます。