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昭和三十ニ年、松坂熊吾は大阪で再起を賭け、妻房江とともに電気も通らぬ空きビルに暮らしていた。十歳になった伸仁は尼崎の集合住宅に住む叔母に預けられた。居住者たちは皆貧しく、朝鮮半島からやってきた人々が世帯の半ばを占め、伸仁は否応なく凄絶な人間模様に巻き込まれていく。一方、熊吾は大規模な駐車場運営に乗り出す。戦後という疾風怒濤の時代を描く著者渾身の雄編第五部。
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Posted by ブクログ
『流転の海』全九部中第五部。 『新潮』2004.6〜2007.4 昭和32年、松坂熊吾は大阪で再起をかけ、妻と共に電気もガスも通らず、ロウソクだけが灯りという空きビルに暮らす。 10歳の伸仁(宮本輝がモデル)は尼崎の「蘭月ビル」という、まるで貧民窟のようなアパートに住む叔母に預けられる。 そこの住...続きを読む民はみな貧しく、半分は朝鮮人であり、伸仁は凄絶な人間模様に巻き込まれて行くのだった。 相変わらず、濃いエピソード満開で、そこでもしたたかに生きていく伸仁。 しかし、作者が「どうしても書かなければならなかった一巻」と言っているように、のちの作家生活に大きな影響を与えているだろうことは間違いない。 これまで読んで来たこのシリーズの中でも、出色の面白さだった。 そして、松坂熊吾について、乱暴で苦手な人物と感じていたが、中国や朝鮮出身の人、貧乏人にも分け隔てない人物だと知り、好感度が少しあがった。 とりあえず第六部に進みます。
尼崎・蘭月ビル編(伸仁10歳〜11歳 小4の終わりから小6) 伸仁は、熊吾の妹・タネの家に預けられます。その蘭月ビルには、様々な事情を抱える人たちが住んでいて、事件が勃発したり、死人が出たり…そんな驚くべき環境の中で、伸仁は成長していきます。 周りを惹きつける伸仁の人柄も、そこかしこで読み取ることが...続きを読むできて、「伸ちゃん、頑張って〜」と心のなかで応援しながら読み進めていきました。 その後、熊吾が大阪でモータープールの管理人となり、親子が再び一緒に住めるようになり、第6部へと続きます。
在日朝鮮人と言われた人々の暮らし、思想、逞しさが伝わってきた。毎回のように、重厚なテーマが物語の根底に流れていて、読み応えがある。 人間性を形作るのは環境。まさにその通りだと思う。特に子供の時分はその影響力が計り知れない。良い環境とは何か。考えるきっかけにもなった。
この物語は、 なぜこんなにも惹きつけて止まないのか… 一部・二部の頃の、房江に向けたクソのような暴力には、嫌悪感しか覚えなかったけれど…。 陰と陽。 正と負。 相反する両極の性質を内包する、 人間というもの… 主人公・熊吾の卓越した洞察力。 そして、年齢・性別・国籍・身分を問わず自分間違いは素...続きを読む直に認める公平性(feirness)。 その底に棲む禍々しい暴力性。 房江の優しさと慈愛、 次々に襲いかかる災厄に負けない強さと時折のぞくお茶目な一面。 一方で、彼女の人生に、べったりと張り付て離れない不安(不幸)の陰。 伸仁の脆弱な身体に宿る、 しなやかな強さを持つ心。 そんな、大きな矛盾を抱えた人間の生き様に、感動と共感を得ずにいられない。 久保敏松の裏切りにより一文無しとなった熊吾は、伸仁を富山に残し房江と共に大阪へ戻るが、結局一人の寂しさに根を上げた伸仁を迎えに行く事に。 熊吾と房江は電気も水道も通っていない船津橋のビルに住んでおり、二人共深夜まで戻らない事が多い為、伸仁は尼崎の蘭月ビルという長屋に住む妹のタネに預ける事となる。 中古車のエアー・ブローカーで糊口を凌ぐ熊吾は、旧知の柳田元雄に出資させ、福島西にある女学院の移転に伴う千二百坪の跡地を使って巨大なモータープールを作る計画に邁進する。 一方房江は、大阪灘波宗右衛門町の小料理屋「お染」で働き、底意地が悪く嫉妬深い店主・田嶋カツ代の嫌がらせに耐えながら得意の料理によって顧客の心を掴んで行くが、偶然来店した、新町の「まち川」時代の売れっ子芸者・千代鶴(島津育代)との再会以後、育代から執拗な嫌がらせに遭う。 そして… 貧乏人の巣窟であり、 社会的規範の外に生きる者や、祖国が南北に分かれ反目し合う朝鮮人達の巣食う蘭月ビルで、逞しくしたたかに育ってゆく伸仁。 そんな中でも、 音吉の尽力で熊吾の母の消息(死亡)が判明し、千代麿が愛人に産ませ、浦辺ヨネ(わうどうの伊佐男の子を産んだ愛人)に預けていた娘・美恵を、ヨネの死亡により引きとる事になったり、 また、かつて井草が持ち逃げした金五十万が海老原太一へと渡っていた証拠の名刺が見つかったりと周りも慌ただしい。 やがて、 ついに土地の買収に成功した熊吾は、柳田の下での期限付き運営責任者としてながらモータープールの経営に本腰を入れる。 そして、房江も「お染」を辞め伸仁も戻り、松坂一家は管理人としてモータープールの一角に住み込む。 事業の順調な滑り出し、そして、蘭月ビルの住人・ヤカンのホンギの結んだ縁によって再会した亀井周一郎が熊吾の再起への助力を約束し、漸く明るい兆しが… だが、 蘭月ビルで出会った絶世の美少女・津久田咲子の存在は、どの様な禍いをもたらすのか…
読み終えてやっと、花の回廊は蘭月ビルも表しているのだと気がついた。花の回廊とはいうが華麗な花とは対極にもあるような人間の汚さや妬み脆さや危うさが混ざり合っていて、読んでいる自分にも重くのしかかってくる。 そのような闇ともいえる場所でさえも伸仁は自分なりに向き合って、人間の部分を成長させているように見...続きを読むえた。次から次へと起こる事柄にひとつひとつ優しさで対応しているところを眩しく感じた。 この花の回廊では熊吾の活躍があまりなく、やはり息子の伸仁へと重心が移っているのかなと思った。 メモ 茶:侘茶 倨傲と卑屈
蘭月ビルが中心に展開する。伸仁の体験はすごい、としか言いようが無い。同じ年代の娘が私にもいるが、とても伸仁のような人生経験はさせられていない。 この小説は大河だ。大きな流れの中で、読者はストーリーに迫ったり、離れたり。私自身も読み始めてから、相当な時間がかかってしまっている。 一つには、何か悪い...続きを読むことがあると、切なくなり、しばらく読み進められなくなってしまうのだ。しかも前触れも無く、いきなり悪いことが起こるのが、この流転の海である。 今回はモータープールの話が進む。少しずつ前に進み始めている熊吾たちの生活。すでに全10巻が完成している。次はすんなりと読み進められるだろうか。 このような小説とのつきあい方も、実は楽しみの一つだったりする。つまり時間の流れを味わうという意味で。
昭和32年。松坂熊吾大阪房江と空きビル。10歳の伸仁は尼崎の欄月ビルの叔母に預けられる。朝鮮人が多く壮絶な人間模様に巻き込まれる。大規模な駐車場経営に乗り出す。3人一緒の生活
流転の海第5部。富山から大阪に戻った松坂一家は、一人息子伸仁を熊吾の妹タネに預ける。そこは、尼崎の集合住宅、蘭月ビルという貧乏の巣窟で、様々な人たちが住む。蘭月ビルはじめ様々な人間模様、昭和時代の懐かしさ、そして大阪特有の喧騒を凝縮した物語。13.5.3
伸仁が 小学生高学年になる。 それにしても、熊吾、房江の生活がすごい。 電気のないビルで生活する。 外の水道水でシャワーをする。 撤退を潔くする熊吾が残ったものはわずかだった。 60歳をむかえている。 タネをまいたものが少しづつ返されるのであるが。 大きな事業をするには、たりない。 伸仁は、蘭月ビ...続きを読むルに住む 妹のタネと寺田が住む家庭に預ける。 蘭月ビルの住人は 朝鮮人を初めてとして、貧乏な人が多い。 そして、訳ありの人である。 ゴーリキーの「どん底」を思い出させる。 関西の特徴がよくでている。 戦後の混乱期から、ある意味では 朝鮮人というのが 独特の意味を持っていた。差別と言う言葉の対象でもあった。 同和がいないのは、不思議でもあるが。 伸仁が語るのではなく、熊吾、房江が伸仁を見る。 父親そして母親からみた 伸仁は 着実に成長している。 先生からかなりきつい評価を受けながらも、房江は暖かく見る。 観音寺のケンのような付き合いが 生まれず。 津久田の爆発が 月夜に変身する というのが、 何とも言えず、すごいのだ。 津久田の娘 掃き溜めのツルがどうなっていくのか? 興味深い。 伸仁が少し上なので、時代が同調していて、 いくつかの感慨に耽ることが多い。 何となく、怪しい、言葉にできない何かが、噴出する。 伸仁のイタセクスアリスが どうなるのか。 楽しみでもある。
収入が無くなり、房江までもが働きに出る熊悟一家。相変わらずどたばたは絶えない。この物語はある一家とそれに関わる人々や出来事を淡々と綴って行く人生劇場だ。この先どうなるのか?クライマックスっていうのはあるのか?
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宮本輝
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