現生人類(ホモ・サピエンス)の約7万年前から現在にいたるまでの歩みを、歴史と哲学を自由自在に行き来しながら物語る。
本書の内容もまた、著者が想像した1つの物語である、という点には充分注意する必要があるけれど、でも、その物語がめっぽう面白い! さまざまな歴史を縦横無尽に取り出しながら進む記述は、不思
...続きを読む議と要点が絞られていて展開にスピード感があるので、飽きずに読めます。この厚さだからこそ、一気読みがおすすめ。
〈緊張や対立、解決不能のジレンマがどの文化にとってもスパイスの役割を果たすとしたら、どの文化に属する人間も必ず、矛盾する信念を抱き、相容れない価値観に引き裂かれることになる。これはどの文化にとっても本質的な特徴なので、「認知的不協和」という呼び名さえついている。認知的不協和は人間の心の欠陥と考えられることが多い。だが、じつは必須の長所なのだ。矛盾する信念や価値観を持てなかったとしたら、人類の文化を打ち立てて維持することはおそらく不可能だっただろう。〉
という一節が、心に残る。
副題にもなっている「人類の幸福」は、目を凝らしてその正体を見ようとすればするほど、霧のように消えてしまう。でも、もし、何かを考えつくり、維持していくことが前向きに生きることだとしたら、矛盾や葛藤こそ、その原動力なのかもしれない。