これは恐ろしい物語です。
疑心暗鬼。
疑いの目で見れば、何もないところに闇を作り、鬼を創りだすことができる。
結婚というのは、異なる環境で育ってきた者同士がひとつの同じ環境の中で生きていくことで、核家族ならばそれは1体1の違和感ですむ話。
けれど大家族に嫁ぐということは、ひとりの異物が入り込んで
...続きを読むいくこと。
排除されたり、まるめこまれて一体化(同化)したりしながら家族になっていく。
そういう話だと思って読んでいた。
だって法子の視点で書かれた話はあくまで法子の主観であって、証拠はないのだもの。
そして、誰かに何かを言われるたびに揺らぐ法子の主張。
法子は怪しい怪しいと言うけれど、家族からしてみたら、気を使ってしたことをことごとく悪意と捉えられて、いったいどうすりゃいいのって感じで。
よくもまあ、何もないところに鬼を創りだしたもんだわね。
と言う読み方もできる。…できた。
残り20ページの怒涛の展開を読んだあとでは、この家族は鬼にしか見えない。
しかしそれすらも、作者の掌で踊らされているのではないと、どうして言えよう。
私の目が暗闇を見ているのではないと、なぜわかる。
なんとかして、家族から見たら法子の方が鬼だと読めないものだろうかと努力したけど、やっぱりこの家族は鬼だよね。
鬼っていうか…全員が同じ方向を向いて、個人の意思を持ち合わせていないところが何とも気持ち悪い。
仲の良い家族の持つ絆の深さは、違いを認めないことではないはずだ。
けれど生物学的に考えると、異物は排除するか同化するのが正しい行為。
志藤家の人々は細胞の擬人化?
だとしたら、それは正しい。
入り込んできて自己主張のはなはだしい法子の方が鬼だ。
でも、細胞は異物を闇で囲うことなんてしない。
やっぱり怖いのは人の心なのか。
いや、心以前に志藤家の人々がやってることは本当に怖いし気持ち悪いよ。
恩田陸が書きそうな話だなあと思いながら読んでいたけど、恩田陸を突き抜けてあっち側に行っちゃったみたい。