表題作が興味深いのだが、巻末収録短編のタイトルが「シビュラの目」である…
私はSFを完全に誤解していたなぁ、だから手を出さなかったんだろう、SFは全てにおいて「無機質なもの」と思い込んでいた。人間の在り方も科学的に進んでしまう事で精査され、人間味が薄れ、設定の奇抜さを楽しむもんだと思い込んでた。設定
...続きを読むの奇抜さで競う、と言うのはBLにもある側面だ。
収録作の『ナニー』に差し掛かっているが、ほぼ球体のアンドロイド家政婦ロボットの話。旧式は新式と対決すると、性能の差、と言う絶対値を打ち破る事は出来ない。人間の様に「火事場のクソ力」なんてものはスペックになければ出すことが出来ない。旧式のロボットは修理するより買い換えた方が安いと言うのに何故人間は「修理してでも直してくれ」と思ってしまうのか。機械が機能として行った事でしかないのに、それにたいして感情を生み出してしまうのか。機械を通して人間が人間であるが故の人間味を表現できるのがSFと言うジャンルかもしれん。旧式は新式に勝てない、と言うスペック差を凌駕しトム・フィールズ家のナニー(ロボット)は新式と闘って勝ち、自身もボロボロになってしまった訳だが、トムは新型に買い換えた方が安いと散々言われても愛着のあるロボットを修理に出すがトム自身はなぜ自分の家のナニーが壊れかけているのかの本当の理由を知るのは後になってからだが、旧式なのに新式に勝てたのがナニー自身に(家を守らねば)を言う使命感があったのか、と思い、その部分で私の好きなアンドロイドものじゃねぇか、となったのだが、その辺はスルーの着地点だった(笑)俺ん家のナニーを傷つけたやつは許せない、これは俺の家のナニーなのだ、だからおいそれと新品と取り換えるなんて出来ない、と言う気持ちは「役に立ってくれる機械」に対する愛着なのだが、その愛着が高じるとこういう結末になる訳だ…人間って愚かで可愛い生き物だと言う事もSFには書いてあるなぁ。
ホラーありSFありダーク・ファンタジーあり、実にバラエティ豊かな短編集だ。『宇宙の死者』を読んでるんだが、死んでからも「半生期」が残っていて冷凍保存された遺体にプラグを繋いで精神活動が呼び出せるとか、設定が面白い。
「新世代」、無論SFであるが、子供の成長に悪影響を及ぼすのは幼少期の環境・親との関係であるとされ、生まれた直後から教育機関で子供は育てる人間には接触させず、アンドロイドが子供の成長に携わる。9歳になるまで絶対に親は子供と接触してはならない、会う時は許可申請、そして開拓者精神でたたき上げで生きて来た主人公が子供の初めて会った後、子供は親(つまり生身の人間)が実験動物と同じ匂いがする、と言う…どちらが幸せなんだろう…ディック自身、親がきちんと愛情を注ぎ親の責務として子供を育てない人間がいると言う現実に対し憤りを抱いているからこう言う作品を書いたんじゃなかろうかと思うが、人間が人間に触れないで人間として育つ筈がなかろう、と思うよ。