悲喜劇。前回読んだときはおとぎ話、スペクタクルにすぎると思ったが、評価を改めた。まず、詩的な美しさがある。原文で読みたくなるほどに。シェークスピアの想像力が存分に発揮されている。また、プロスペローにシェークスピア自身またはシェークスピア劇の全ての主人公達を重ね合わせるのも可能だと思う。個人的には「大地に礎を持たぬ今の幻の世界と同様に (like the baseless fabric of this vision)〜仕上げをするものは眠りなのだ(Is rounded with a sleep)」までから、プロスペローの支配する島全体をシェークスピアの人生に対する夢と解釈するD・G・ジェイムズに賛同したい。胡蝶の夢を思わせる。 なお余談だが、昔ジェームス・ジョイスの「ユリシーズ」を読もうとした時、オスカー・ワイルドに対する批判があった。そのときに引用されてたのが「ドリアン・グレイの肖像」の序文。「十九世紀におけるリアリズムに対する嫌悪は、キャリバンが鏡に映った自分の顔を見るときの怒りと異なるところがない。/十九世紀におけるロマンティシズムに対する嫌悪は、鏡に自分の顔が映ってないといって怒るキャリバンそのままである。」これを読んで現代作品を正確に味わうには聖書とギリシャ神話とシェークスピアは少なくとも読んでおかないといけないと思って挫折したものであるw